数年後


「ただいまー」


長丁場の仕事が終わった反動からか、豪快にドアを開けてしまった。


もう夜も遅い。2人を起こしてしまったのではないかとビクビクしながら靴を脱いでいると、後ろから鈍い感覚があった。


「うぉっ!」


思わず声が漏れ出た。靴を揃える為に玄関に向けて体を向けていたので、全く気づかなかった。


「おかえり!出張お疲れ様!」


「彩菜、ただいま……里美は?」


「さっきまたから、もう疲れて寝てるよ」


「そっか。個人差があるもんな。彩菜を見てるとよく分かる」


「私の場合は一切ないからねー」


そう言い終わると、彩菜は頬に手を当てて、じっくりと俺の目を見つめてきた。


いつもの合図だ。


俺達は、どちらが言うでもなく、そっと唇を合わせた。


「寂しかった」


「ごめんな。この土日はしっかり構ってやるから、許してくれ」


少し上から目線かと思ったが、もう言ってしまったものは仕方がない。彩菜が捨てられた子犬みたいなので、ついでに頭も撫でる。


「許す!……でも、里美の事も忘れちゃだめだよ?」


撫でられるのが気持ちいいのか、猫みたいに目を細めながらもそんな事を言う彩菜。こんな言葉が出てくる程、二人が仲良くなった事を本当に嬉しく思う。


「勿論。俺は2人の旦那だからな。……少し心配だから、里美の様子も見てくる」


「分かった!あの子、具合悪い時ずーっと貴方の名前呼んでたから、起きてたらきっと喜ぶと思うな……あっ、その前に手洗ってよ?」


「りょーかい」


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俺は手を洗うと、里美の部屋に向かう。俺達は個別に部屋があって、ベッドも完備されているが、基本的に2人が俺の部屋に来てしまうので、ほぼ意味を成していない。


だが、今回は例外だ。具合が悪いとなれば、きっと自分の部屋で一人で寝ているはずだ。


そっと里美の部屋のドアを開ける。


「……あれ、いないな」


今の推理は大外れだったらしい。隣の俺の部屋を開けると、やっぱりそこに里美はいた。


忍び足でベッドに近づき、里美の顔を覗き込むと、規則正しく寝息を立てていた。


彼女の顔を見ていると妙に愛おしくなって、優しく頭を撫でる。


「……っ、……綺羅……くん?」


寝付きが良い彼女にしては、珍しく起きてしまった。


「ごめん、起こしちゃったか」


「……ううん、大丈夫。……まだちょっと気分悪いけど、綺羅くんの顔を見ただけで元気になっちゃった!えへへ」


なんて言う里美だが、空元気にしか見えない。薄暗いので断定は出来ないが、少し顔も青白いように見える。


「なら良かったけど、無理しないでくれよ。もうんだからな」


「わかってるよーだ」


茶目っ気たっぷりに俺に返答した彼女だが、手は膨らんだお腹を慈しむように撫でていた。


「ねぇ」


「ん?どうした」


「この子が生まれても、ちゃんと私も愛してね?」


突拍子も無い事を言い出した里美。時々こうやって俺からの愛を確かめてくる事がある。


「当たり前だろ?今も愛してるし、これからも愛するさ」


「……信じてるからね?」


不倫した君が言うのかと一瞬ツッコミたくなったが、彼女と復縁した以降、その話題の片鱗をほんの少しでも出すと顔面蒼白になって泣きながら謝ってくるので、止めておいた。


「私も……ね!」


そんな事を考えていると、背中に衝撃が走った。本日二度目である。どうやら彩菜が里美の様子を見にきたようだ。


「彩菜ちゃん。お腹の子がびっくりしちゃうでしょ?」


すかさず里美が彩菜に注意をする。こう見ると、本当に2人は姉妹のようだ。勿論里美が姉で、彩菜が妹である。


「えへへ」


「笑って誤魔化さないのー!」


「はーい」


……本当に仲良くなったな。正直、初めて二人が顔を合わせたあの時、つまり彩菜が里美を敵対視していた所から、ここまで2人の関係がいいものへと変化するとは思わなかった。


「綺羅くんからも彩菜ちゃんに言ってよー!」


「彩菜、気をつけてな」


「うん!わかった!」


「ちょっと!私が注意した時と全く聞き分けが違う!」


「それは勿論綺羅くんだから──」



まだ言い争っている彼女達を尻目に、俺は感慨に耽る。


里美に不倫され、彩菜と不倫をし、最終的には2人を受け入れる結末になった。


この選択が本当に正しかったかと言われたら、そうでないと答える人もいるかもしれない。


だが、これだけは言える。




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あとがき


これにて終了です!この物語には、本来ならハーレムタグを入れるべきなのでしょうが、メタ思考で展開を悟られたくなかったので入れませんでした。どうかご理解ください。

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不倫されたから不倫し返す。何もおかしい事はない @qpwoei

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