不倫相手とデート
「じゃあ……行くか」
「うん!……あ!いつものやらないと!」
唇に柔らかい感触。これももう慣れたものである。
と言うのも、ここ最近彩菜は俺が出かける時には必ず行ってきますのキスをするようになった。
「彩菜も一緒に出かけるんだから、やる必要無いんじゃないか?」
「違うー!別に形式的にやってるんじゃなくて、綺羅くんとちゅーしたいからしてるの!」
頬をリスのように膨らませて不満をアピールする彩菜。あざとい。
俺の反論虚しく、更に二、三度唇を重ね合わせることになった。
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「ここずっと行きたかったんだ!」
彩菜に連れて行かれた所は、4駅跨いだ所にある大型ショッピングモールだった。
映画館やゲームセンターはもちろん、多種多様な店が内包されているため、ウィンドウショッピングにはおあつらえ向きな場所である。
「ずっと気になってたんだけど、一回も来たことなかったんだ!……綺羅くんももしかして初めて?」
「あ、あぁ……」
嘘だ。
奇しくも、ここは俺と里美の初デートの場所だった。いや、それどころか里美とここに来た回数は確実に2桁は超えている。
……よりによってここか。
まあ、ここ周辺はこのショッピングモールと競合する程デカい場所は無い為、ある意味必然なのだろう。
「綺羅くん!行こ?」
「……そうだな、行くか」
妻との思い出の地を不倫相手と巡っていく。
とんでもないことになったと、そう思わざるを得なかった。
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「綺羅くん!このお店行こ!」
彩菜が最初に選んだのはランジェリーショップ。
初手先制攻撃を食らった気分だが、動揺するのもダサいので平然を装う。
「おーけー」
俺がラフに返事をすると、彩菜が頬をぷくーっと膨らませていた。先程と同じで、彼女なりの不満の表し方なのだろう。
「綺羅くんが慣れててショックだなー」
「……と言われても困っちゃうな」
「……」
無視。もしかしたら本気でショックを受けているのかもしれない。
「……悪かったって」
「許しませーん」
「……俺はどうしたらよろしくて?」
「ん!」
俺に手を差し出してきた彩菜。初めは意味が分からなかったが、手を繋ぎたいのだと少ししたら理解できた。
「仰せのままに」
ギュっと彼女の手を指一本一本を絡ませながら握る。所謂恋人繋ぎだ。
それに気分を良くしたのか、彼女は鼻歌を歌いながらランジェリーショップに俺を引っ張っていった。
あぁ、里美とこの店に来た時も手を繋いで入ったな。
きっと、今日のデートでは常に里美の存在がチラついてしまうのだろうなと、理解した。理解してしまった。
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「楽しかったー!」
ショッピングモールを出た途端、大声で彩菜が叫んだ。
周りの人もギョッとしていたので、些か迷惑ではあったのだろうが、彼女にとって今日のデートは満足いく物だったという証左でもある。
その後、二人で小じんまりとしたベンチに腰掛けた。大型商業施設内にも関わらず、周りに人は皆無。
もしかしたら穴場を見つけてしまったのかもしれない。
「綺羅くんも楽しかった?」
「あ、あぁ……まあ、な」
正直、あまり楽しめなかった。
どこに行っても里美との思い出が蘇る。彼女の笑顔が頭に浮かぶ。
今日の俺は、里美との思い出に縛られていた。
「……綺羅くん、今奥さんのこと思い出してたでしょ」
先程のハイテンションな彼女とは打って変わって、少し低く、咎めるような声。
「……悪い」
「やっぱり。綺羅くんが気難しい顔する時って大体奥さんのこと思い出してるもんね……もしかしてここ、奥さんと来たことある?」
「……ある」
「そっか、それで思い出しちゃったんだね」
「……本当にすまない」
ただ謝る事しか出来ない。本当に情けない男だ。
「綺羅くん、今私がどんな気持ちかわかる?」
「……嫌な思いしたよな」
「……当たり。前に奥さんの事を思っていても良いって言ったけど、デートの時はやめてほしいな……私だけを見てほしい……勿論、感情の問題だから難しい部分はあるって分かってる。分かってるよ。……けど……けどぉ……」
俺は彼女をキツく抱きしめる。俺の胸がじんわりと濡れていくのを感じた。
「好きなの!愛してるの!奥さんなんて忘れて私と一緒になってよ!」
悲痛を内包したくぐもった声。
『たとえ綺羅くんがまだ奥さんの事を思っていても、私の傷に付け込んだのだとしても、綺羅くんから思われているだけで、幸せなの』
過去に彼女が放ったそんな発言は、彼女の本心であっても、核心ではなかったのだろう。
本当は俺に選んで欲しくて、俺に里美を忘れてもらいたくて堪らなかったはずなんだ。
その思いを、きっと俺に迷惑がかかると思って抑え込んで、押さえ込んで。
それが、今爆発してしまっただけ。
「ごめん、ごめんな……」
優しく、彼女を落ち着かせるように頭を撫で続ける。
先延ばしにしてきた俺と彩菜、そして里美の関係。
いつかは必ず決着を付けなければならない。
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あとがき
更新遅れて申し訳ありません。
この話の構成をもう一度練り直した所、あまり長くは続かない事が発覚したのでここに報告します。
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