第4話
「木村君、そんなに人の行動がわかるのに……」
店長は言いかけてやめた。今さらなぜ、と聞いても木村君を傷つけるだけだと思ったからだ。
恋は盲目。こんなに賢い木村君でも、美人に声をかけられて、デートを重ねるうち、お財布を落としたといわれて一万円、お父さんが倒れたと三万円、学費に十万円とお金を渡してしまった。
それでも、「婚約」指輪をねだられて、ローンの契約書にサインしてしまう直前に、遅まきながらも騙されていると気が付いただけマシだったのかもしれない。
もともと頭のいい木村君だ。血眼になって調べ上げると、出るわ出るわ、大変な悪女ぶりだった。貢がせるなんていうのは、序の口で、保険金絡みの結婚詐欺で、どうやら殺人も犯しているようだという。女をこのままにしておけば、被害者が増える一方だ。
そこで彼女を「ローンを組むから、契約書を持ってきて」と呼び出した。
やってきた彼女に、「詐欺師め! 警察に突き出してやる!」と木村君が捕まえようとしたら、追い詰められた女が逆上して、店内で売っていたナイフを掴んで、木村君を刺そうとしたのだ。
慌てた木村君は、手近な場所にあったこれまた売り物のビニール傘を手に取って彼女の喉を一突き。殺すつもりはなかったが、女は死んでしまったのだった。
「自首します」と木村君は言った。
「警察まで送っていくよ」と店長が申し出たが、木村君は首を振って、自分で警察に歩いていくと言った。そして店を出て行く間際、振り返った。
そして「店長、お世話になりました。もしかしたら今日、コンビニ強盗が来るかもしれないので、店は臨時休業にした方がいいですよ」と木村君が言ったのだ。
「えっ! そうなの?」
驚いた店長は、木村君に詳しく話を聞いた。それから「自首する」と言う彼を説得して、二人で死んだ女性をトイレに運んだ。
女性が振り回したナイフは、商品の棚にもどし、残っていた他のナイフは片付けておいた。もちろん傘も、血は拭き取って、元通りに商品ラックにもどした。
それから店長は何食わぬ顔でレジに立って、強盗犯に襲われるのを待ち構えた。
飛んで火に入る強盗犯。
たった一つ残っていたナイフを手に取って、ベタベタと指紋を付け、ご丁寧にも店の外のゴミ箱に捨てた。
そして仕上げに犯人は木村君が「使った」傘を持って、立ち去った……。
殺人事件ともなれば、今までのコンビニ強盗とは捜査に向ける気合いが違う。もちろん、店の外のゴミ箱も「遺留品」ごと警察に回収されていった。詐欺師の彼女と強盗犯の指紋がついたナイフは、もみ合って争った証拠になるだろう。
店長は、悪人ばかりが得をする世の中が、ほとほとイヤになっていたのだ。
「コンビニ強盗に渡した二十万円……。僕、働いて返します」
木村君は肩を落として言った。
「気にするな。あのお札は、一番上だけは本物だけど、それ以外は、お店で売っているオモチャのお札だよ」
店長はビールの缶をチョイと持ち上げ、「乾杯!」と言うと、ニヤッと笑った。
雨の日のコンビニ強盗 和來 花果(かずき かのか) @Akizuki-Ichika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます