第3話
警察官が一通りの現場検証を終えて引き上げると、コンビニの店長は、冷蔵庫からビールを取り出した。そして店内から、酒のつまみや売れ残りの弁当をレジかごに一杯いれて、バックヤードに持ち込んだ。
「そうそう」と、嬉しそうに、レジ横の保温ケースから、コロッケや鶏のから揚げなどもウキウキと運んできた。
そしてロッカーを開けると、アルバイトの制服を着た青年が出てきた。顔色が悪く、疲れ果てた顔をしている。
店長は「もう大丈夫だ。疲れたろ?」と言って、いたわるように椅子に座らせた。
「うまくいったぞ」と青年に笑いかける。
「でも……、やっぱりなんだか悪いような……」
「気にするな。アイツ、うちの前にも九カ所もコンビニ強盗しているらしいぞ。しかもうちの前に強盗に入った店なんか、ばあさんが一人で店番していたから、あまりのショックで倒れちゃって、半身不随になっちゃったんだ。気の毒に……」
「そうなんだ……」と、気の弱そうな学生風の男が呟く。
「そうなんだよ。 木村君はむしろ、被害者の恨みを晴らしてやったヒーローだよ。それにあの女にしても、木村君は騙されてお金を巻き上げられちゃったんだろう?」
木村君はキッと顔をあげた。
「僕だけじゃありません。調べたらお年寄りに結婚詐欺をしかけ、どんな手を使ったのか知りませんが、ピンシャンしていた結婚相手が一年で亡くなっているんですよ! あの女は捕まっていないだけで、殺人犯なんですよ! 放っておいたら、また犠牲者が出るに決まっています! だから! 僕が殺人犯になったとしても、あの女を止めなきゃ……」
木村君の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「まあ待て、木村君。君は未来の犯罪を防いだんだ。そんな君を殺人犯として、警察に突き出すことなんて、俺には出来ない!」
店長はもらい泣きしながら、木村君の肩を抱いて言い聞かせた。
「俺はコンビニ強盗が許せない。だってそうだろ? 睡眠時間を削って働いたお金を、一瞬で巻き上げていきやがって。うまくやったってほくそ笑んでるに決まってるんだからな」
「はい」
「しかし、よくわかったなあ、今日、コンビニ強盗が来るって」
「犯人の行動パターンを読んで、そろそろだとは思っていたんです。市内のコンビニで襲われているのは、二十四時間営業の店だけ。前回は市の東側でしたから、次は西側の店舗を狙うだろう。その二つの条件を満たすのは、ウチだけなんで。
そうしたら、今日の弁当の搬入の時に、防犯カメラのコードが切られていたんです。だから、今日来るな、と」
眼鏡を指で押し上げメガネの下の涙を、ティッシュで拭うと、木村君は嬉しそうに分析の結果を披露した。
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