Ⅴ-5 ニューヨーク
「お姉ちゃん、ゆずちゃんとも知り合いだったんだ」
「クッキーを買いに来てくれたのが最初かな」
「お兄さんだけかと思ってた」
カウンターではビリーのお父さんがマスターと話し込んでいる。
ユリさんは後片付けをしているあいつを手伝いに厨房のほうに入っていく。
「ニューヨークに行くの」
「どうかな。パパにはパパの家庭があるから」
「お父さんは一人で帰ってきたの」
「仕事で来たみたい。久しぶりに三人集合って感じ」
ビリーはタバコの煙を大きく吐き出した。父さんと同じかと思った。といっても僕らの父さんは今どこにいて何をしているのかわからないんだけれど。
「神戸では見つからなかったの」
「もともとそんなつもりじゃなかったから。知り合いだった人には会いに行ったけど」
「あなたたちっていつも一緒だね」
「しかたなくだよ」
「あたしたちも仲が悪いわけじゃないんだけど、おたがいに必要以上は入りこまないようにしてる。そんな感じかな」
「やっと片付いた。ユリさんがいてくれて助かった」
あいつとユリさんが僕とビリーのいるテーブルに戻ってきた。店の中はひっそりとしてジャズのバラードが寂しげに流れている。
マイルスのステラ・バイ・スターライト。
「今日はご苦労様。いい夜だったね」
「ねえマスター、エリちゃんのパパはジャズシンガーになること反対なの」
「ライブ、見に行くみたいだよ」
「それなら大丈夫。エリちゃんの歌聴いたらきっと応援してくれるよ」
「それはどうかな」
「親心は複雑ってところかな」
「ねえお兄はユリさんのこと好き」
「何だよ、突然に。今はビリーの話してたんだろう」
「タイプなの」
「お前はどう思うんだ」
「タイプじゃないと思う」
そういえば二人とも、最初に会った時とはだいぶ印象が変わったかな。
「夢の中の女か」僕は小声でつぶやいた。
「何か言った」
「別に」
ラベンダーのお茶をどうぞ~オレンジブロッサムと散りゆく桜~ 阿紋 @amon-1968
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