Ⅴ-1 落ち葉色のお茶

 ちょっと肌寒くなってきたのだろうか。窓から見える景色を見ただけでそんなことを考えた。机の上のパソコンは開いているけれど、仕事はあまりはかどっていない。

僕はパソコンの隣に置いた写真立てに収められた写真を見ている。家族四人の写真。

あいつが僕の家族になって何年か過ぎた頃に撮った写真。あいつはまだ学校に行っていない。かわいかったよなあいつは。今でも変わらないけど。

 父さんはあいつがなついてくれるか心配だったようだ。取り越し苦労だったけれど。この頃はもう生まれたときから一緒にいるような気がしていた。ずっと持ってたんだこの写真。今日あいつの部屋の掃除をしたとき見つけた。忘れないうちに返しておかなくちゃ。

 この頃のことを書けばいいものが書けるのだろうか。でも僕はそんなタイプじゃない。自分らしくないことをしても多分駄目だろう。僕はぼんやりとした秋の空を見た。そろそろスーパーに行かないとね。

 ここのところあいつは朝が早く夜も遅いので、ほとんど家では食事をしていない。スーパーで買うものも少なくなってきている。ご飯を炊かないかわりに冷凍食品ばかり増えている。体にも家計にもあまりよろしくはない。

 そうなんだ。最近はそんなことばかり考えている。外食はほとんどしなくなった。たまにパブロには行くけれど。

「寒くなりましたね」

 彼女はあの時以来メガネをかけていない。もともと伊達メガネらしいし、チューリップハットもやめてしまった。今日は手編みの帽子をかぶっている。

「しばらくこなかったですね」

「いそがしいんです。家のこととかいろいろ」

「書く方はすすんでいるんですか」

「いまひとつかな」

 厚手のカップに落葉色のお茶が入っている。ぼんやりとあったかい気分にさせてくれるお茶。番茶に似ているかな。ラベンダーのお茶のホッとする感じとはちょっと違う。

「マリベリーとローストマテのブレンドです」

「秋って感じですよね」

「ところで、前にお店に飾ってあったマフラーまだあります」

「前にあげたセーターと同じ色の」

「そうです」

「ありますよ」

「売ってもらえますか」

「いいですよ。プレゼントかしら」

「そんなわけでもないんですけど」

「素敵ね」

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