Ⅳ-4 ギネスとジャンクフード
「お兄がお酒飲むのってめずらしいよね」
「ジャズクラブ以来かな」
僕の前にギネスビールのグラスが置かれている。音楽はアイリッシュトラッド。ボシーバンドなんていいかもしれない。
店内には軽いジャズが流れている。そういえばここで流れてる音楽のことなんて気にしたことはなかった。音量も小さめだったし。
「有線ですよ」
「無難なところですね」
「お兄がいろいろ考えてくれるかも」
今のところこの店で出しているのはワインとビールのみ。
まあ、こういう店には洒落たカクテルとかはいらないのかもしれない。焼酎とかもいらないよね。
「ゆずちゃんの料理評判よくてね。誰かバイトしてくれる人いないかな」
「フロアに一人ほしいよね」
そう言った僕をマスターとあいつが見ている。
「できないよ」
僕はそう言ってグラスのビールを飲む。
「そうか、お兄ならできるかも」
「エラ・フィッツジェラルドは聴かないの」
「あまりね」
「ビリー・ホリデイとは明と暗って感じだしね」
「あなたは好きなの」
「ジャズボーカルはずっとエラかな」
「何となくわかる」
「いろいろ忙しくて」
「落ち着かない」
「なんとなくね」
ビリーはハンバーガーをかじった後に、口についたソースをペーパーナプキンで拭っている。
「こういうところはあまり来ないから。ドーナツのほうがよかった」
僕は油のしみ込んだポテトフライをつまんだ後に、スロトーでコーラをすする。ビリーにはジャンクフードがよく似合う。
「ところで何か話があったの。わざわざ店の前で待ってるなんて」
「特に何かってことはないんだけど。連絡先とかも知らないし、今日歌うのはわかってたから」
僕ははじめてビリーの顔を間近でながめている。夢の記憶はすっかり消えてしまっていたけど、多分彼女じゃなかった。
でも、誰かに似ているんだよね。
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