Ⅳ-1 パブロ

「でも、ゆずちゃんはやることが大胆だよね」

「子どもの頃からそうなんだけどね」

「将来はお兄とお店やりたいの」

 あいつにそう言われたときは、何を言われているのかよく理解できなかった。料理のレパートリーが増えてきたなと思ってはいたけれど、ただ単にイタリアンに凝っているのかと思ってた。調理師になるため学校に行ってたとはね。

「でも、何でパブロなの」

「マスターに相談したら、ウチでやってみないかって」

「うまく使われちゃってる気もするけど、マスター一人で大変そうだし」

「会社でヤナことでもあったのか」

「別にそんなことないよ」

「それならいいんだけどさ」

「ねえ、ピザおいしかったでしょう」

 家で出てきた時も上手く作れたなと驚いたけれど、今日食べたピザはさらに本格的になっている。

「火力がちがうから」

「今まではオーブンがあってもほとんど使ってなかったからね」

 マスターも満足そうにそう言っている。店のドアが開いて、オバちゃんたちがにぎやかに話をしながら入ってくる。たしかに店の雰囲気も変わったみたいだ。

「いらっしゃいませ」

 あいつの明るい声が店内にひびく。

「マスター帰るよ」

「今日も遅くなるんだろう」

 あいつは僕を見てうなずいた。

「妹さん会社辞めて喫茶店で働いてるの」

「そうなんだ」

「ねえ、ここでコーヒーは出さないの。落ち着いて飲める場所がなくなっちゃって」

「心配なんだ」

「そんなんじゃないよ。店の雰囲気が変わっちゃったから」

「でもやっぱり、ここにコーヒーの香りは合わないね」

「家ではイヤっていうほど飲まされてるけど」

「練習してるんだ」

「だいぶ上手くなったよ」

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