Ⅱ-7 ラベンダーのお茶

 透明に近い薄紫色のお茶が運ばれてきた。テーブルにラベンダーの優しい香りが広がる。口に含むとかすかな酸味とほのかな甘みを感じた。お茶と一緒に出てきたクッキーをかじってみる。クッキーにもハーブが練り込んであるようだ。ラベンダーだけじゃなく紅茶もまじっているのかな。

「いかがですか」カウンターのほうから声が聞こえた。

 振り返ってみると彼女もハーブティを飲んでくつろいでる感じ。

「いいですね。落ち着きます」

「クッキーにもハーブが入っているんですね」

「季節にあわせて入れるハーブも変えているんです。

 ラベンダーの入ったクッキーは冬でも人気があるんですよ」そういえば、ラベンダーには鎮静効果があるって聞いたことがある。僕がラベンダーを知ったのは子どもの頃に見ていたテレビドラマ。ラベンダーの香りが謎を解く重要な手掛かりだった。

 その当時僕はラベンダーの香りなんて知らなかったのに僕なりに想像してわかったつもりになっていた。実際に僕がラベンダーの香りを知ったのはずいぶん後になってから。

「あの公園にはよく来るんですか」

「中に入ったのは今日が初めてなんです。史跡公園だってことも知らなくて」

「毎年あの公園の少し先の神社で花見をするんです。今日は桜がどんな感じか見ようと思って」

「その神社の桜はきれいみたいですね」

「行ったことないんですか」

「ここをはじめたてまだ一年たっていないんです。それまではこの辺に来たことがなくて」

「そうなんですか」

「週末には満開になると思いますよ。まだ神社の桜は見ていないんですけど。公園の桜を見ればだいたいわかります」

「桜はきれいだけど、儚いですね」

 ふとそんな声が聞こえたような気がした。

 彼女かと思ってカウンターを見ると、彼女はうつむきかげんにカップのお茶を飲んでいる。そういえばそんな和歌があったかなあ。

 僕は桜の花が儚いと思ったことはない。待ちに待った春を告げてくれる花だし、散った後には僕の好きな若葉の季節がやってくるから。

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