Ⅱ-4 道路から見える風景

 古墳の左奥のほうに鉄製の車止めがあって、人だけが通れる入口になっている。その入口まで行ってみると、その先に舗装されていない細い道がつづいていた。いわゆる六尺道と言われる道だろうか。道の両側は草におおわれていて、実際に歩ける幅は六尺はないようだ。

 どこにつづいているのだろうと思い、僕はその道を歩いていく。少し歩いていくと先が明るくなってきて、舗装された道路につながっていた。その道路は想像していたよりも狭く、車がやっとすれ違える程度の幅しかない。

 道路から見える風景は、橋のある入口から見える風景よりもさらにのどかな感じがした。道路の向こう側は一面に畑が広がり、農家とおぼしき家が点在している。この町にこんな景色があったんだ。

 日差しが暖かくほんわかとした気分のまま、僕はしばらくそこに佇んでいた。さてこれからどうしようか。町中を離れてもう少し奥のほうに行ってみようか、それとも今日はこの辺で戻ろうかと考えていると、町中に戻る道沿いに洒落た建物を見つけた。この辺らしからぬ建物ではあるけれど、この辺の景観を損ねずにひっそりと建っている。

 近づいてみると店のようだったが、外観からは何の店なのかわからなかった。店の前には小さな看板が置かれている。

「こんにちは」

 中に入ってみると人の気配は感じられない。営業していないのだろうか。でも、看板はあったしドアも開いていた。

 店の中は木製のテーブルが窓際にふたつ、奥のほうにひとつ置かれていて、ひとつのテーブルにイスが4脚づつ置かれている。

 よく見るとイスのデザインがみんな違っていた。店の中はクッキーの焼けた甘い香りがしていて、壁を見るとさっき公園で見かけた女性が着ていたセーターと同じ色のマフラーが飾ってある。値札がついているので売り物のようだ。

 入口の正面にカウンターがあって、かごの中に袋詰めされたクッキーが置いてある。となりのかごにはハーブティーのようなものが入っていた。

 いい感じの店なのでお茶でも飲んで休んでいきたいけれど、誰もいないのではどうしようもない。今度はあいつと来てみようかと思いながら外に出ようとすると、ドアが開いて女性が入ってきた。

「いらっしゃいませ。さっきお会いしましたね」

 店に入ってきたのは公園のベンチにいた女性だった。彼女はチューリップハットをとって僕に挨拶をした。チューリップハットをとってしまうと、大きなメガネだけが目立ってしまっている。思っていたよりもかわいい感じの人だった。ただし年齢は今ひとつわからない。若くも見えるし、それなりに年を重ねているようにも見えた。

「お茶飲めるんですか」

「飲めますよ。何がいいかしら」

「少し落ち着きたいので、おすすめがあれば」

 メニューらしきものが見当たらないので僕はそう答えた。

「それじゃお好きな席にかけてお待ちください」

 僕は入口に近い窓際の席に腰を下ろした。

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