Ⅰ-2 クリスマス
もうすぐクリスマス。この時期、雨はほとんど降らない。降っても冷たい雨。雪になるなんてことはほとんどないのだけれど、雪がチラつくだけワクワクしたりする。
でも本当に降って積もりでもしたらそれはそれで大変なこと。みんな雪に慣れていない。すべてが想定外。予定が崩れてしまうだけでなく、うまく歩くことさえできない。
電気街の通りを歩いていると街の中はお約束のように派手に飾り立てられ、こんなに寒いのにミニスカートの女の子たちが声をかけてくる。彼女たちもお仕事だから仕方がない。
「何ニヤついて歩いてるの」
あいつがいたらそんなことを言うだろうけど、多分あいつとはこんなところは歩かない。あいつと歩くのはおばさんやお年寄りたち、子どもを連れたお母さんが行きかう、活気があって生活感にあふれた近所のアーケード商店街。もちろんそんな商店街でも、この時期には必要以上に派手なクリスマスの飾りつけがされていることに変わりはないのだけれど。
あいつが休みの日、僕はいつものようにアーケード商店街にあるスーパーに連れていかれる。僕の役割は荷物持ち。
「ねえ、今年もクリスマスケーキ予約する」
あいつがスーパーのチラシを見ながら僕に話しかけてくる。
クリスマスケーキ。どうせあいつがほとんど一人でワンホール食べてしまうんだ。年に一度だからなんて言っているけれど、クリスマスに家でケーキを食べていて本当にいいのだろうか。
「だってお兄一人じゃさびしいでしょう」
「ほかに一緒にいてくれる人いないの」
「お兄はどうなの」
「メイド喫茶の女の子とか」
僕の押しているカートにあいつが次々と品物を入れていく。
「今年はケーキやめない」
「お兄がいいならそれでいいけど」
そう言いながらもあいつはさっきのチラシをずっとながめている。
「ねえ、パブロに寄っていこう。これから部屋に帰ってお昼の支度するのめんどくさいし」
あいつはレジを済ませた後、買った品物をエコバッグに入れながらそう言った。
「またカレー食べるの」
「カレーでなくてもいいんだよ」
「ナポリタンにすればいいじゃない」
「カツライス食べてもいいし」
あいつはそう言ってにっこり笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます