第93話

「クルーガーさん、お疲れ様です。どうされました?」






「いえ、只見回っている様な物だと思ってください。以前に話していた、防護服の強化について奮闘していると聞きましてね」


「あぁその件ですか、確かに色々試してはいるのですが………まだ納得の行く結果にはなっていないのが本音です……」


「ふむ、と言うと?」


「一応防護服の革の間に、超軽量合金の鎖を編み込む形でやっているのですが製法に見合うだけの強度を出そうとすると、どうしても重量が嵩んでしまいまして」


「ふむ、やはり重量は難しい所ですね。金属の種類は色々試しましたか?」


「色んな種類を試しましたが、上手く重量と強度のバランスが取れる金属は見当たりませんね。幾ら軽くても、実用的な強度を持たせられなければ只金属を編み込んで重くしただけになってしまいますから」


「金属の配合や比率についても考えないといけませんね、まぁ急務では無いので焦らず行きましょう。焦って半端な物を出しても反感を買うでしょうしね」


「はい、そう言って頂けると有難いです。もし、クルーガーさんならどうしますか?」


「ふふ、私でも同じ事をしますよ。そして、貴方に同じ事を聞くでしょう。うーん、製法もそうですが、編み込む合金にしても新しい金属や合金についてもう一度調べて見ても良いかも知れませんね」


「超軽量合金の強度を更に増すか、充分な強度の金属を更に軽量化するか……」


「常用している防護服を完全に置換するというよりは、常用防護服以外の派生型として考えていく方針で考え直してみては?」


「派生型としても、多少は考えているのですが………強度を上げるにしても、やはり重量の増加がネックになってしまうんですよね。何処かで割り切る必要があるとは分かっているのですが……」


「超軽量合金の鎖を革の間に編み込むとして、編み込む部位を更に絞る方向性も考えるべきかも知れませんね。致命傷になる箇所だけに、編み込む場所を限定するとか」


「うーん、技術開発に理想ばかり求めるのは間違いと分かっていますが、何とかならないものか考えてしまうんですよね」


「分かりますよ。我々は、理想を実現する為に四苦八苦するのが仕事ですし、こうして我々が四苦八苦しているからこそ技術は進歩していくんです」


「はは、ですね。結局こうやって努力して失敗して、繰り返して嫌になった末に進歩するのが技術開発って奴ですから」


「開発者の性とも言えますかね。腐らず頑張って行きましょう」


「あぁ思い出しました、先程ラシェルさんが操縦訓練装置に何やら言ってましたよ。“お気に入りの台が整備中だった”って」


「ミス・スペルヴィエルも熱心ですね、あれほどの腕前でありながら日々の鍛練を忘れないとは。ウィスパー操縦士に勝るとも劣らない熱意ですね」






「少し、ウィスパー操縦訓練装置の方を見てきます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る