第61話

 日が暮れる。




 レオノーラ・ハイルヴィッヒ・イステル女史はのんびりと自身の研究所の屋上、屋外栽培場を歩き回って居た。


 また、鼻歌でも歌いたい程に上機嫌でもあった。来月には、遂に自身の名前が冠された改良型テリアカの生産が始まる。再来月には、上流階級相手に一般販売も開始する。


 今までの比にならない程の利益と名声が、再来月からほぼ永劫にイステル女史の元に入り続け、自身の名はイステル自身がこの世を去った後に語り継がれる。


 その上、先日ブージャムの“青タバコ”の大口取引でかなりの利益を出し、他の区域を仕切る幹部に大口取引の利益報告をした所、イステル自身も遂にブージャムの“幹部”として絶大な権力者となった。


 自身の研究所から見下ろすこの市街、権力で言えば実質この殆どを掌握、支配していると言っても過言ではない。


 医学史に名を残す天才でありながら、街を仕切るギャング“ブージャム”でさえイステルの手先として動く。


 道行く民衆から褒め称えられ、指先1つで金の椅子を持ってくる事も、気に入らない奴を始末する事も出来る。


 夕暮れの暖かい日差しに、イステルが満足そうに眼を細めながら呟いた。





「今日は、忘れられない日になるわね」

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