第39話

 ジョッキに酒が注がれる。






 一代にして名家となったガルバン家のパーティは、近年益々豪勢になりつつあった。


 溢れる程の名酒、一流料理から世界の珍味まで取り揃えた食卓を埋め尽くす程の料理、そして高名な芸術家や彫刻家の名作、仕舞いには音楽祭かと思うほどの鳴り止まぬ陽気な音楽、使用人から道化まで揃っている。


 最近はこのガルバン家主催のパーティに参加する事が、一部の貴族の間ではステータスになりつつある程だ。


 珍しく夜に開かれたにも関わらず今回のパーティも白けるどころか益々隆盛を極め、貴族達を決して退屈させず美酒のみならず熱気と陽気に酔わせるのだった。


 そんな中、会場となる豪華な庭園の中心に立て付けられた、数段高い主賓席に座るディオニシオ・ガルバンは、上機嫌そうに装飾入りのワイングラスを揺らしていた。


 やはり教会から産地直送させているワインは、其処らの店頭に並ぶものとは訳が違う。この後も追加で届く筈だったワインの事を思い、ディオニシオは益々上機嫌になった。


 世間では今更になって、抵抗軍の残党がどうの、と騒いでいるが自分には縁の無い話だ。例え残党どもが自分を狙ったとしても、自分を守っているのは金貨の山をかき分ける様な報酬と引き換えに雇った、筋金入りの精鋭達だ。パーティ会場の内外に多数配置し、万が一を考え自分の傍にも控えさせている。それこそ、軍隊を持ってこなければ話にならない。そして残党どもがそんな軍隊など持っている訳も無い。杞憂にすらならなかった。


 ジョッキ片手の貴族達が音楽隊に喝采を浴びせ、音楽隊が意気揚々と次の曲に取り掛かる。

ディオニシオは、自分の権力と財力、そして人脈が目に見える自分の主催するパーティを、この上なく気に入っていた。


 一代にして、上流階級の一角、ひいては上流階級全体に影響を及ぼす程の自分の力に酔いしれているのだ。


 使用人の一人が現れ、丁寧な言葉と動作で目の前のテーブルに高級な料理を並べていく。


 そんな中、不意にディオニシオが顔を上げた。この庭園を会場にするのは初めてでは無いが、余りにも見慣れない物が目に入ったのだ。


 いつもの庭園と違う光景に、眉を潜める。








 「おい、裏門を開けたのは誰だ?」

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