第7話
「隠密部隊から連絡が取れない?」
「はい、通信が取れません。文書も音声通信もありません」
「音声通信は交換手に傍受される危険があるからまだ納得出来るが、それにしても遅いな……気送管は?」
「気送管にもそれらしい物は何も」
「ふむ、やはり遅いな。任務の詳細を確認する、ここに命令書を持ってこい」
「承知しました」
「……………対象者の拘束、及び殺害か……ブロウズ?…あのブロウズか?」
「はい、私は面識はありませんが、元々は我々隠密部隊の同胞な様で。記録も見ましたが戦果は現場の雑用が精々、敵前逃亡等で不名誉除隊されている様ですし、“水漏れ”しない為の後始末でしょう」
「……至急、援護部隊を確認に向かわせろ、今すぐやれ」
「どうしたんです?そんな血相変えて」
「良いから早くしろ!!至急と言っただろうが!!」
「は、はい!!」
「…………連絡が、来ました」
「報告しろ」
「その、信じられない事ですが……」
「御託は良いから早く報告しろ。良い話じゃないのは表情で分かる」
「……デイヴィッド・ブロウズは自宅に居らず、急いで出ていった形跡がありました。それと、物置から……隠密部隊二人の死体が発見されました。殺された模様です」
「やはり遅かったか……クソが、元隠密部隊だけあって流石に鼻が利くらしい」
「…何者なんです?幾ら元隠密部隊が相手だからって、あいつらだってそんな奴等を何人も片付けてきてます、其処らの気取った素人じゃないんです。それを……」
「お前、浄化戦争の英雄は誰か知ってるか?」
「はい?」
「浄化戦争の英雄は誰か、と聞いているんだ」
「ええと…………隠密部隊出身のワグナー・ホーキンスですね、はい。間違いありません」
「……まぁ、そうだろうな。結局、今じゃ当時の文献には一つも残っていないしな」
「当時?文献?どういう事です?」
「元々、浄化戦争の英雄ってのはな、このデイヴィッド・ブロウズだったのさ。隠密部隊出身で、浄化戦争じゃ街一つ作れる程のラグラス人を殺した。どんな猛者だろうと女子供だろうと、敵なら躊躇なく皆殺しにするとんでもないバケモンだった。天性の人殺しだと評判だった」
「…………待ってください、確かに隠密部隊出身の者が浄化戦争で大いに貢献したのは聞いています、ですがデイヴィッド・ブロウズの戦果は良く見ても現場の小間使い、とても英雄などと呼ばれるには程遠い始末です。前線で敵を殺すなんてとても荷が重い様な男です。一体何故、こんな男が英雄などと呼ばれるんです?」
「だろうな。上層部は記録を“修正”してブロウズを前線に居なかった事にしたんだ、戦争が終わって一年経ったぐらいからは、駄犬の様に扱われていたらしい」
「何があったんです?」
「聞いた話によると、自分でラグラス人の兵士、女子供、一切合切を切り刻んでおきながら、ラグラス人の人権侵害とやらを書簡で抗議したらしい」
「……何故、わざわざそんな事を?あんな奴隷民族なんて放っておけば良いのに。劣等種に人権なんてどうかしてる」
「やはり戦争の英雄ともなると、どこか頭がキレちまってるのかもしれんな。まぁ何にせよ、そんな世迷い言を言い出す様な奴は我が帝国軍には必要無い。結局、上層部が呆れて閑職に飛ばしたらしい」
「こう言っては何ですが…………勿体無い話ですね、変な事を言い出したばっかりに、英雄の筈が閑職だなんて」
「ところがブロウズの功績は必要だ、戦争で活躍しているのに英雄が居ないのは、軍としても都合が悪い。後は……分かるな」
「……成る程、それでホーキンスが英雄として讃えられた訳ですか」
「都合が良い事に、ホーキンスもブロウズと同じ隠密部隊出身だ。戦果もブロウズに負けずとも劣らない。しかもブロウズの事を良く知ってる。本人も承諾し、世は円満となった訳だ」
「………………待ってください、という事は、私達が狙ってる相手は実質、浄化戦争の英雄だって事ですか?」
「しかも自分が山程殺してきた奴隷民族に人権を与えようとする様な、イカれた隠密部隊出身の変人だ。居場所が分からないとなると、面倒な事になったぞ」
「これからどうしますか?こう言っては何ですが、一筋縄では行きませんよ」
「広報の連中を呼べ。これから帝国軍はデイヴィッド・ブロウズを国家反逆罪の罪人として正式に指名手配する。詳細は追って連絡する、行け」
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