第5話
「探しましたよ、ミス・ゼレーニナ」
「何か用ですかクルーガー、私は今研究テーマの模索中なのでまた今度にしてください」
「……そうは行きませんミス・ゼレーニナ、ウィスパーの静穏駆動機関にトラブルが発生しましてね、至急貴女に来て欲しいそうです」
「私は行きません」
「ミス・ゼレーニナ、貴女の性格はよく知っていますが今回はーーー」
「大体、現場の技術班は何をしているんですか。駆動機関の図面の複写も渡しているはずです、定期整備も不具合対処方も渡しています。そして設備も工具も資料も十分な筈です。何故私が呼び出される羽目になるんですか?」
「本を閉じて此方を向いてくださいゼレーニナ、図面だけで全て分かるなら苦労はしません」
「ミスを忘れていますよクルーガー、“ミス”ゼレーニナです」
「…………ミス・ゼレーニナ、とにかく技術班の工房に至急来てください、技術班の連中は貴女の様に図面だけで解決出来る様な連中では無いのです」
「御断りします。たまには自分達だけで解決する努力も必要です、ウィスパーを開発したのは確かに私ですが、ナットやボルトの一つ一つまで全て私が締めるとまで言った覚えはありませんよ、クルーガー」
「貴女の申したい事は十分に分かります、しかし技術班の連中がもう貴女を呼ばないと話にならない、との事で至急来て欲しい、との事で」
「話にならない、結構な事じゃないですか。工房は開発をする所で団欒する場所じゃありませんからね、連中の無駄口が減るならそれに越した事はありません」
「言葉で遊んでる場合ではありません、ウィスパーが稼働しないとなると団の任務にも支障が出ます、どうか早急に解決しなければなりません」
「ええ、その為の技術班です。どのみち、今はウィスパーは満足に稼働出来ない状態では?浄化戦争の頃に比べれば、今のウィスパーの稼働率なんて、微々たるものでしょう」
「貴女は開発主任でしょう?ウィスパーだってそうだし、飛行船だってディロジウム工学だって団で貴女以上の人は居ない、現に貴女の技術が必要なんです」
「どれだけ丁寧に持ち上げても私には通じませんよ。そうですね、資材費と開発費を増額するなら考えてあげます」
「無茶言わないでくださいミス・ゼレーニナ、技術班が実際に困っているんです、お願いですから技術工房に素直に来てください」
「いつもみたいに安物に作り替えてはどうです、クルーガー?グレムリンやリッパーの様に、私の駆動機関も安く作ってはどうです。きっと整備も容易になりますよ」
「…………その件は今は関係無い筈です、ミス・ゼレーニナ。とにかく技術工房に来てください、先述した通りウィスパーが動かなければ団の任務に支障が出ます。こういう言い方はしたくありませんが、このままウィスパーの故障が相次ぎ、稼働出来なくなればウィスパーの構造自体に難があるのではないかと疑われますよ。よろしいですね」
「はぁ、分かりましたよ、現場に問題のウィスパーと技術班、工具と不具合記録を待機させておいてください。さっさと解決してしまいましょう」
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