第3話
「今回、会議を開いたのは他でも無い。簡潔に言うぞ、こいつを最優先で入手しろ」
「デイヴィッド・ブロウズ28歳……屠殺場?食事に不満があるなら、新入りなぞ入れないで給養員に直接意見した方が良いんじゃないか?ステーキぐらい好きに食べられるだろ」
「口を慎め、これは幹部議会だ。そんな理由で幹部議会を開かない事ぐらい、分からないお前でも無いだろう」
「ただの冗談だろ、相変わらず堅苦しい…………浄化戦争?何てこった、浄化戦争の英雄だと?」
「言いたい事は分かる。だがこいつは―――――」
「おいアキム、浄化戦争が我々に何をもたらしたのか忘れたのか?帝国軍が我々の同志を虐殺し、あの忌まわしき奴隷制度をより磐石にした!!!自分の儲けの為だけに、無実の女子供までが皆殺しにされた戦争なんだぞ!!」
「落ち着けヴィタリー、まだどうしろとも言っていない」
「盛り上がってる所を悪いが、一つ聞いても?」
「あぁクロヴィス、何だ?」
「名誉ある帝国勲章を首に下げた浄化戦争の英雄、というのは結局虚栄で、本当の英雄は確か他にいた、という風に解決したんじゃなかったか?」
「そうだ、クロヴィスの言う通りだ。こいつは確か4年前に終結した浄化戦争で、人の手柄をまるまる自分の物にしていたとか何とか………本当の英雄は別にいたんじゃなかったか?」
「あぁ、後に判明した事実として真の英雄はデイヴィッド・ブロウズではなく、ワグナー・ホーキンスという事になっている。今やデイヴィッドは手柄を横取りしたとして、詐欺師扱いだ」
「……待て、詐欺師“扱い”という事は………事実じゃないのか?」
「我々の調査員が漸く裏を取った。彼は実際に浄化戦争で数多の功績を上げて英雄となり、いくつもの戦場を潜り抜けている」
「よし分かった、直ぐにうちの手練れを向けて始末させる。選りすぐりのレイヴンをな」
「落ち着けヴィタリー。アキム、何故そんな男が詐欺師扱いとなっているのだ?」
「そこが今回の主題だクロヴィス。デイヴィッド・ブロウズは浄化戦争で英雄となるも終戦直後、ラグラス人に対する一方的な資産の略奪や奴隷売買、非人道的な尋問や拷問の認可に対して、正式に抗議の書簡を提出している」
「何と…………」
「そして、それがあの帝王様のお怒りに触れ、閑職に飛ばされたという訳だ。手柄も奴の息のかかった兵士に全て横取りされ、デイヴィッドはその2年後、弟の事故死を切っ掛けに依願除隊。まぁ、実際には直前で不名誉除隊にされた様だがな。今では知人のツテを頼って、屠殺場で働いているという事だ」
「流石は、我等の帝王様だ」
「成る程な、事情は分かった。それでこいつをどうしようと言うのだ?始末するのか?」
「逆だ、ヴィタリー。こいつを我が団に引き入れたい」
「……冗談じゃ、無いんだろうな。そうまでしてこいつを欲しがる理由は?」
「経歴を見ろ、こいつは隠密部隊出身だ。それも、浄化戦争の最前線で活躍している。戦闘能力については、疑う余地は無いだろう。その上、英雄になってそのまま黙っているだけで金貨の山が降ってくる立場にも関わらず、その立場を蹴ってまで抗議している。伊達や宣伝で出来る事じゃない、少なくとも賄賂で腐る様な事も無い。先日の件で、手練れを失って少しでも手が欲しい我々に、正に必要な人材じゃないか?」
「確かに、一人でも優秀な兵士が欲しいのが実情だしな…………よし分かった、こいつを手に入れよう。日程は何時にする?」
「明後日にはレイヴンを向かわせよう」
「レイヴンを?しかも明後日?随分と急過ぎやしないか、アキム」
「クロヴィスと同意見だ。何をそんなに急いでるんだ?」
「先程、うちの諜報員から連絡があった。帝国軍の暗部は屠殺場の勤務員が嫌いらしい」
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