禁忌を味わう心地

鴇羽ほたる

休日

 休日の、普段より車の通りが少ない道路を身体一つと、スマホ一つ、お財布一つで渡る。青信号は依然と灯っており、別段、ルール破りをしているわけではないのだが、大変罪深きことをしている気分になった。いつもなら、沢山の車が曲がるのを待ち、白線を踏み、足早に渡る。それがどうだ?私は今、我が物顔で歩いている。神経を研ぎ澄ます必要がないのだ。なんたることだろう。


 ただ私は規則通りに渡っているだけ。ただコンビニ弁当を求めて渡っているだけ。それだけなのに。他人の機嫌を気にしなくて良いというほんのひと時が、私にしてはならぬことをしていると警告を鳴らしてくる。


 何故だろうか?


 自由が許されたこの世界に於いて、未だ年功序列、同僚カースト、協和性重視、思いやりの強制、正しいことばかりをしているとは言い難い仲良しこよし、団結力の強きことは美しきことかな、そんな、不確かなモノに支配されて、随分と生きにくい、と若輩モノながらに声を上げたくなる。


 よく、私は友達が欲しいと願ったものだが、そもそもなんでそんな壊れやすいものに縋りたがったのだろう。…いや、言及するのはやめておこうか。


 とはいえ、ヒトは時になんの根拠もない、くだらぬ幻想を好み、枠に当てはまらぬ、実に異端だ、排除すべき、と免疫細胞のような働きをする。


 よってたかって1人を痛ぶるのだから手のつけようもない。どんなにミニクイか、考えたこともないのだろうし。ましてや、正しいことをしていると思い込んでしまっているのだから余計にタチが悪い。


 美しい心を持つヒトはそんなこと、恥ずかしく思って逃げ出すだろうに。



 閑話休題。



 私は今、無防備に横断歩道を渡った。


 人前では常に怯えて言葉の鎧で固めて心を閉ざして生きている私が、だ。



 温かな陽の光はアスファルトをてかてか照らしている。


 時間は実にゆっくりと流れている。


 あの忙しないカチカチ音は聞こえてこない。



 時間が、ヒトが、穏やかに過ぎる世界になったとき、きっと私はいなくなっているのだろう。

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禁忌を味わう心地 鴇羽ほたる @hOtarupciphone783

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