第9話 Love,

 銃口は、額を外れて。


 抱きしめられた。


「離せよ」


 大きな胸さえも。今は鬱陶うっとうしい。

 ただ、女性を力ずくで振りほどくのには抵抗があった。


「おい。どけよ」


 彼女。ようやく離れる。


「邪魔したのは事実だし、仕事に悩んでるあんたを見るのも愉快だった。暗く陰湿な喜びだな」


 雨。いつの間にか、止んでいる。


「撃てよ。俺を。それであんたの仕事は終わりだ」


 顔が吹っ飛ぶなら、それはそれでいい。


「あなたが死んだら」


「仕事が誰かに引き継がれる。それで終わりだ。俺はあんたを推薦しておくよ」


「なんで」


「あんたのブローカーとしての才能は本物だ。管区が欲しいと言っているし、刑事や他の正義の味方もあんたを歓迎するはずだ」


「そうじゃない。そうじゃなくて」


「なんだよ」


「なんで、そんなに簡単に死ねるのよ。なんでよ」


「銃器のブローカーが何言ってんだ。死にたかったら死ぬだろうが。普通のことだ」


「普通じゃない。普通じゃないわ。眼が。眼が怖い」


「だろうな。顔が綺麗だと言われると、無性に腹が立つ」


「ごめんなさい」


「いいよ。どうせ俺は顔がいいだけの陰湿な男だ。女が仕事に失敗するのを見て喜ぶような」


「違うわ」


 女。泣きはじめる。線が強い女だと思っていたので、ちょっと驚いた。意外と繊細なのかもしれない。


「あなたは。顔じゃない。心が優しすぎる」


「何言ってんだ。気でも狂ったか?」


「最初にわたしに会ったときに、スカウトすればよかったのに。わたしが邪魔なら、最初から叩きのめせばよかったのに。あなたは、わたしが自分で、仕事がいやになるまで、待っててくれた」


「んなわけあるかよ。自分の妄想を他人に押し付けるな」


「でも」


「ああ。くっそ」


 空を見上げた。


 星が出てきている。


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