08 ENDmarker.

 仕事。

 失敗した。


 雨のなかに飛び出す。傘ではなく、拳銃を持って。


 コンビニにも寄らず。


 公園に向かう。


 彼。


 ベンチに、傘を差して座っていた。


 彼のところに向かって。


 正面に立つ。


「こんばんは」


 傘に隠れて、顔は見えない。自分は立っていて、彼は座っている。わたしは濡れていて、彼は傘を差している。それさえも、永遠に埋まらない溝のように、感じられる。


「あなたが」


 声が続かなかった。走ってきたからか。動揺しているからか。


「あなたが、邪魔、してたのね。わたしの仕事を」


「ええ」


 傘。微動だにしない。


「街に銃器を流されるのは、困るので。治安が悪くなる」


「わたしが。銃器のブローカーだと知ってて、それで」


「ええ。かわいい人がブローカーやってるなあって、思いました」


 拳銃を、彼に向ける。


「いつから」


「最初からです。あなた、硝煙の匂いするし」


 最初から。その言葉が、響いた。


「なんで」


 拳銃の安全装置を1段階外す。


「何がですか?」


「わたしがブローカーだと知ってて。なんで、泳がせておいたの」


 傘。ちょっとだけ、動く。飲み物を飲んでいるらしい。


「泳がせておくというか」


 言葉が止まり、また傘が動く。


「あなたが自滅しただけです。私は特に何もしてない」


 傘を銃で払った。


 彼の顔。やさしい笑顔。


「私、正義の味方なので。街の平和は守らないと」


 銃の安全装置を最後まで外す。引き金を引いただけで、撃てる。


「撃てないでしょ」


 綺麗な顔のこめかみに、銃口を当てる。


「ブローカーなのに、対立する暴力組織に平等に銃器を流して共倒れさせたりしてる。やさしいんですね」


「黙れ」


「なのに、この平和な街にも銃を流すんですか?」


「頼まれたら、なんでもやるんだ、わたしは」


「うそでしょ。おおかた狐にでも化かされたんじゃない?」


 すべて、見抜かれている。

 犯罪まみれの街に銃器を流してほしいと頼まれて、ここへ来た。しかし、街は平和そのもので。受けた仕事が間違っていたとわかった。どうしようもなくて、横流しの仕事を失敗させてばかりで。


「無理しなくていいですよ」


「全部、最初から、お見通しなのね。綺麗な顔して、やることはえげつない」


 彼。眼が、獣のそれになる。


「顔は関係ないだろうが」


 彼。手が伸びてきて。


 素早く銃の引き金に伸びる。


「俺は、この顔が、コンプレックスだったんだ。銃で吹き飛ぶぐらいがちょうどいい」


 彼の指が。

 引き金を押して。


 銃声。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る