わたしの歌 4

【まえがき】

★祝★「小説3巻」発売決定!

カバーイラストは以下で公開中!

https://kakuyomu.jp/users/MuraGaro/news/16817330667299923685


3巻は「わたしの歌 終」まで収録。

まつりんが加入してからの内容は、ほぼ全部書き直しました。


発売日は1月4日です!

予約数と発売後1週間の売り上げが作品の寿命を決めるのでよろしくお願いします!


コミックス2巻も同時発売!

公式ホームページで特典情報を公開中!

https://pash-up.jp/information/oneope_3_1213



【新作の宣伝】

カクヨムコン参加! 

愉快な勘違い物です。応援よろしくね。

https://kakuyomu.jp/works/16817330665534411728




ーーーーーーーーー




 *  夕張  *


 おかしい。仕掛けが作動しない。

 前の人の出番は終わっている。会場の反応からしても、既に姿が消えた後だと考えられる。間髪入れずにやるべきだ。その方が盛り上がる。


『まつりちゃん、聞こえる?』


 耳に装着していたインカムから声が聞こえた。

 そうだ、これが有った。すっかり忘れていた。


「うん、聞こえるよ。何かあったの?」


 小鞠まつりの声で返事をする。


『ごめん、ちょっと問題発生』


 そんな予感はしていた。しかし、いざ聞かされると不安が止まらない。


『五分、繋いで。マイクは生きてるから』

「……分かった」


 繋いで、ということは、彼女は必死に障害の復旧作業を行っているのだろう。


 だから詳しい理由は聞かなかった。

 一秒でも長く時間を使って欲しいと思った。


 ……信じてるよ。


 心の中で呟いて、大きく息を吸う。

 それから握り締めたマイクの電源を音にして、晴海トトのように、叫んだ。


 *  愛  *


 会場の方から小鞠まつりの声が聞こえた。

 どうやら、私の意図を組んでくれたようだ。


 大きく息を吸い込みながら現状を整理する。

 今日、ライブを開催するために二十四台のコンピュータを持ち込んでいる。


 わざわざ持ち込んだ理由は、スマメガと通信するため。


 密集している機械と通信するのは難しい。

 大型のイベントが行われる場合、通信会社が会場に足を運び、専用の機材を提供することがある。私はこれをコ〇ケで知った。だから会場にネットワークを構築した。そして、四万台のスマメガと通信するために、二十四台のコンピュータで処理を分散した。


 突然二十三台のコンピュータがダウンした。

 今はコンピュータを用意した水瀬さんが原因を調査している。


「これはダメですね。完全に落ちてます。多分ハードのトラブルです」


 調査の結果は、考え得る限り最悪だった。


「分かった。ありがと」

「どうしますか?」

「ちょっと待って。考えるから」


 このまま何もしない場合、残った一台も急激に上昇した負荷でダウンする。だから暫定対処としてシステムをストップさせた。


 これからやるべきことは単純だ。

 小鞠まつりが喋っている間にシステムを復旧させればいい。


 ただし、これまで二十四台で分散していた処理を、残った一台で実行しなければならない。


「……そんなの、できるわけ」


 私は弱音を吐きかけて、


「できるわけ、ある。できる。絶対やれる」


 グッと拳を握り締めて言った。

 弱音を吐く場面じゃない。復旧することだけを考える。


「必要な情報は何? 二秒で答えて」


 現在はシステムの全機能が停止している。

 全てを復旧する必要は無い。私の目的は小鞠まつりのライブ。ただそれだけ。


「映像。音」


 声に出すと同時に手を動かし始めた。


「触覚は邪魔」


 極端な話をすれば、プログラムは入力と出力だけの関係で構成されている。


 今回の場合、入力はスマメガに搭載されたカメラの映像。そして出力はバーチャルアイドルの映像を合成したものとなる。一対一の通信ならば簡単だ。しかし、一対四万の通信は不可能に近い。


 じゃあ、増やせばいい。


「……笑っちゃうよね」


 我ながら発想が飛躍している。普通に考えて何時間もかかる作業だ。

 これが実現できるのなら、その人物は神様と名乗ることを許されるだろう。


「めぐみんの気持ち、初めて分かったかも」


 彼女は様々な理不尽を体験した。だからこの世界のいじわるな神様を見限って、自分が神様になるのだと決意した。今まさに同じ状況だ。突然、二十三台のコンピュータがダウンするなんて、そんなの有り得ない。


 でも起きた。起きてしまった。

 これが神様のイタズラならば、そんな奴になんか頼らない。


 むしろ後悔しやがれ。

 一台でも残したことが、お前の敗因だ。


「必要なデータは、揃ってる」


 スマメガと、映像にバーチャルアイドルを合成するシステム。


 どちらも私が作ったものだ。

 だったら、この場における神様は私だ。


 不可能なんて、あるわけない。


 ……急げ。


 内心で叫びながら、腱鞘炎になりそうな勢いでキーボードを叩く。


 ……急げ。


 一秒でも映像を観客に届ける。

 しかしタイピング速度には限界がある。


 だから手を動かしながら考える。

 頭の中でプログラムを最適化して、一行でも多く記述を減らす。


 ツー、と後頭部の辺りを何かが走り抜けるような感覚があった。


 思考がクリアになり、一切の雑念が消える。

 私は無心で、ただひたすらに、頭の中で生成されるプログラムの入力を続けた。


 *  水瀬  *


 この人は、何をやっているのだろう?

 何かぶつぶつ呟いたと思ったら、突然キーボードを叩き始めた。


 目は真っ直ぐにディスプレイを見ている。

 瞬きひとつせず、人間離れした速さでタイピングを続けるその姿には、鬼気迫るものがあった。


 ……まぁ、見れば分かりますよね。


 こっそり隣に立って、ディスプレイを見る。

 どうやら何かプログラムを書いているようだ。


 ……早過ぎでしょ。この人、コンピュータですか?


 少し古いコンピュータで大量の文字列をペーストしたかのように、次々と文字が入力されている。内容は一目では分からないけれど、恐らくは負荷を減らそうとしているに違いない。


 ……無駄な足掻きですね。


 プログラムは今日までに最適化してある。それでも二十四台で分散処理をして、少し余裕がある程度の状態だった。一台で動かすなんて絶対に不可能だ。


 ……結局、この人もこのレベルか。


 自分ならば、無駄なことはしない。

 もちろん気持ちは分かる。もしもこれがトト様の出番ならば、自分も同じことをしたと思う。だって、目の前には生きているコンピュータと、自分で用意したプログラムがあるのだ。何か可能性があるかもしれないという発想に囚われるのは人間として自然なことだ。


 しかし、今はトト様の出番ではない。

 だから言える。さっさと障害を報告した方が良い。その方が傷も浅い。


 そもそもプログラムを書き換える必要なんて無い。

 小鞠まつりの声は聞こえているのだから、音だけ流して歌わせればいい。映像は見えないし触覚も使えないけれど、中止という最悪の事態は避けられる。そして、それこそが彼女に用意した逃げ道である。


 彼女がこれまで最高の結果を目指していたことは知っている。

 だからこそ。自分の管轄で起きた問題によって、本番が微妙な結果に終わったら、どう思うだろうか。


 明らかな失敗ではない。微妙な結果なのだ。

 エンジニアとして、これ以上に悔しいことは無い。


 ……あれれ? この人、何のプログラムを書いてるんですか?


 ふと違和感を覚えた。

 目に見える部分は全体の一部だが、それでも処理の内容くらいは理解できる。


「あ、はは、有り得ないでしょ」


 理解した瞬間、思わず笑ってしまった。

 スマメガは、この人が開発したものだ。


 詳細は知らないが、最初に使われた時には、スマメガ同士で通信していたらしい。


 いや、細かい理屈はどうでもいい。

 重要なのは、スマメガにデータを送受信する機能があるということ。


 要するに彼女は──

 四万台のスマメガを利用して、処理を分散させようとしているのだ。





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【お知らせ】

第一弾、電車広告掲載中

https://x.com/one_ope_koho/status/1708695667806490672?s=20


第二弾、テレビCM放映中

https://kakuyomu.jp/users/MuraGaro/news/16817330664750186669


第三弾、小説3巻発売決定(1月4日)

https://kakuyomu.jp/users/MuraGaro/news/16817330667299923685


【今後の更新予定日】

わたしの歌 終: 1月 5日


【書籍リンク】

小説

https://pashbooks.jp/series/oneope/oneope2/


コミカライズ

https://www.shufu.co.jp/bookmook/detail/9784391159509/

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