Side - 作りかけの理想(ユメ)

 幼い頃に夢を見た。

 キラキラ輝くステージの上、可愛い衣装を着て踊るアイドル達。


 あの場所に立ちたい。

 何も知らないまま憧れて、現実に打ちのめされた。


 自分には■■が無い。それを補う時間すらも無い。

 スタートラインが遠過ぎて、理想は影も形も見えなかった。


 だからせめて、歌うことにした。


 良い時代に生まれた。──ならば■■は必要ない。

 この声と、情熱と、ほんのちょっとの声援があれば良い。


 姿形を隠して歌い続けた。

 大人になって辿り着いた偽物のステージは、理想とは程遠い場所だった。


 でも、これ以上は欲張りだ。

 だって■■を持たないのだから。


 違う。ここまで来たのだから、あと一息。

 ここから一歩でも進めたら、何かが変わるかもしれない。


 だけど、そんな力は、とっくに残っていなかった。


 それでも歌い続けることにした。

 これまでの感情を歌にして、誰かに聞いて欲しいと思った。


 だから今日も作りかけの歌詞を見つめている。

 毎日、毎日、何かが足りない歌詞を見て首を傾けている。


 見えそうで見えない答えは、時間が経つ程に遠ざかった。

 だって今日まで頑張った。努力した。そこそこの結果を得た。

 小さな達成感の積み重ねが、何よりも大切だったはずの感情を透明にする。


 理想って、なんだっけ?

 幼い頃の自分は、何が欲しかったんだっけ?


 始まりの日に思いを馳せながら、作りかけの歌詞を見る。

 いつか完成することを夢に見て、ふんわりとした鼻歌を歌う。


 昨日も、今日も、きっと明日も。

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