束の間の修羅場 1

 私の名前は佐藤愛。どこにでもいる平凡なサブカル女子。

 ただひとつ他人と違うのは、ちょっぴりプログラムが分かるところ。


 だからそれは、初めての感情だった。


 特別になりたい。物語の主人公みたいに全身全霊で挑戦できる何かが欲しい。

 私はイベント会場で見たキラキラに憧れて、叶えたいと思える夢を探し始めた。


 結局、それを見付けることはできなかった。


 夢中になれることはある。

 生きるために必須な栄養素にサブカルを数える程度のオタクだ。


 でも私に感じられる夢中の度合いは、めぐみんや有紗ちゃんの足元にも及ばない。


 どうにもならない出来事が起きた時、私はきっと諦める。実際、そうだった。

 オルラビシステムを手放すことになった時も、コスプレ社長から顧客を奪ったと電話を受けた時も、悪い意味で潔かった。もしも物語の主人公ならば、決して諦めたりしないだろう。


 だから不思議で仕方がない。

 どうして彼女と一緒に研究を続けたのだろう。どうして彼女に勝負しろと言ったのだろう。尊き抱擁を交わす兄妹を見てから一夜が明け、浮かび上がったのは答えの出ない疑問だった。


 ……明るい話をしよう!


 自己評価が低いのは欠点だ。

 神崎さんにもめぐみんにも怒られた。


 ヤケクソなくらいが丁度良い!

 小田原さんの前に魔法少女コスで現れた日を思い出すのです!


 ポジティブいずベスト! 良いことも沢山あった!

 例えば、私が行動したことで、ふたつ、明らかな変化が起きた。


 ひとつ、めぐみんのこと。

 ほんの三ヵ月前には存在すら知らなかった相手と仲良くなって、どういうわけか一緒に住んでいる。おはようからおやすみまでかわいい。ここ最近、心が満たされています。


 そして、もうひとつ。


「……あの、何をしているのでしょうか?」

「愛の口に料理を運んでる」


 翼お兄さまに、とっても気に入られたのでした。

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