リアル×バーチャル 4

 激しい夜が終わり、静かな朝が始まりました。

 私はベッドで身体を起こそうとして、自分が抱き枕であったことを思い出しました。


 左腕に温かい感触。

 そう、めぐみんです。お隣で天使様が寝ています。


「  」


 尊み溢れて語彙力がピチュンしてパーリナイ。そう、昨夜はパーリナイだったのです。


 会議が終わった後、遅い時間だったので、彼女を部屋に誘いました。推しに誓って下心など……ぐへへ、テイクアウト成功です。


 めぐみんの服装は常にジャージです。でも、小柄でキュートな彼女ですから、私が着るとアレな衣装でも似合うに違いありません。要するに色々と着せたいのです。


 もちろんアレな衣装もありますが、彼女は頼まれたら断れないタイプだと思います。クソチョロです。


 ひゃっはー! 今宵はコスプレ大会だぜ!

 それはもうワクワクしながら帰宅しました。だけど部屋に着いた頃には二人とも瞼が重くて、シャワーだけ浴びて眠りました。意外と疲れていたようです。


 全然パーリナイしてないじゃん!

 言ったよね? めぐみんクソチョロ! 頼まれたら断れない! 今宵はコスプレ大会だって!


 ……一週間ほぼ不眠不休で研究開発。続けて数時間の移動、労働、そして残業……当然の結果です。


 もういいよ! 私ふざけるのやめる!


「……静かな朝だなあ」

 

 聞こえるのは天使の寝息だけ。見ると、口元がむにゃむにゃしている。何か食べる夢でも見てるのかな?


 なんとなく指で頬をツンツンする。わっ、食べられた。ああぁふぅ、アダルトっ、私の指をそんな──


「ぺっ」


 吐き出された!?


「……ん、んー?」

「あ、起きたかな? おはよ」


 眠そうに目を開けて、パチパチ瞬き。かわいい。

 朝は強いイメージだったけど、例のアレが完成して気が抜けたのかな?


「……あい?」

「はい、愛ちゃんですよ」


 大きなあくび。かわいい。


「……なんか、変な夢見た」

「そ、そっか。とりあえず顔洗う?」

「……あらうー」


 返事をしながら目を閉じてしまった。そして抱き枕である私の左腕をギュッとして、スヤァ……。


 ──起こせるわけがない!

 例えるならば残業明けの土曜日、二度寝の誘惑! 身体が重くて一ピコメートルも動きたくないあの感覚! この天使のような寝顔をずっと見ていたい!


 でも今日は営業日! お仕事がある日……!


「めーぐみん、朝だよー」


 私は断腸の思いで彼女の身体を揺らす。


「……あと五分」

「ノー! 起きるよ! 朝だよー! 朝! 朝ぁ!」


 ご近所迷惑にならない程度に騒ぐ。

 めぐみんは嫌そうな顔をして、うつ伏せになった。それからグッと両腕を伸ばして、身体を起こした。


 ぺたんと女の子座り。かわいい。

 私も身体を起こして、一緒に洗面台へ向かう。


 お顔を洗ってガラガラペッペ。そのあと部屋に戻ると、めぐみんはベッドに直行してスヤァ……。


 ……睡眠に対する執念がすごい。

 私は苦笑して、強硬手段。めぐみんを持ち上げた。


「……なにー?」


 やだもうかわいい。しかし私はふざけるのをやめると誓った。一日持たないだろうけれど、とにかく今は委員長モードなのだ。要するに甘やかさないからね!


「めぐみん、今日から何するか忘れちゃった?」

「……んー?」


 目を閉じたまま首を傾けためぐみん。


「昨日の会議、覚えてない?」

「かいぎ? ……あっ、会議!」


 私は咄嗟に唇を嚙む。


「あのね、恵ね、あれ初めて見たよ!」


 普段は無表情。でも今は、無邪気な笑顔。


「あのね、皆がね、すごい真剣に話をしててね、えっとね……えへへ、すごかった!」


 ……危ない。唇を嚙まなかったら通報されるレベルの顔になってたかも。反則。反則だよめぐみん。


「そっかー、そうだねー、すごかったねー」


 思わず幼い子供を相手にするような口調になった。その直後、彼女は勢い良く両手で口を隠した。それから両頬をペチペチ叩いて、見慣れた無表情を作る。


「……おはよ」

「うん、おはよう」


 ……触れないであげる! 感謝しなさい!


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