22.質問と精霊王たちの会話
(さて…とりあえずこの聖地がこうなったのは、とにかくマナの循環システムに異常があるから……ということが裏付けられた、だけか…)
本来ならば原因をとことん探るべきだろう。でも、世界樹はほぼ枯れているような状態だ。枯れてしまうのは絶対に不味いだろう。今元気にするだけならば、多分出来る。しかしその後はどうなるのだろう。急に環境が変わってしまえば、それによって悪影響が出ないとも限らない。
(圧倒的に情報不足……)
「主様、独り言が出ちゃってるよ」
「主様は考え中なのですわ」
「とりあえず座りましょう、主様。疲れているのですよ」
カルラ達に促されて、私も敷物と座布団の上に座る。精霊王たちも、うちの精霊たちにもみくちゃにされながら座っている。
「主様、どうぞ!」
「こっちもどうぞ!」
精霊草を差し出されるがままに受け取って、お礼を言って口に入れた。
「ありがとう。美味しいね」
コーヒーの香りに振り向くと、カルビンとカルドが温かいコーヒーを持って来てくれた。最近、この子達はコーヒーを淹れてくれることが多い。
「砂糖とミルクを入れました。ちょっとだけ」
「主様、主様…」
カルドはそのまま黙り込んでしまった。しばらく言葉を待つ。
「あのね、主様が心配」
(ああ……)
カルビンの言葉に、胸の中に温かい漣が生まれた。漣は指先までじんわりと暖かさを伝えていく。元はと言えば私が勝手にテイムして付き合わせているのに、この子達は私を心配してくれている。
「ありがとうね。無理はしないよ。大丈夫」
2人を軽く撫でた。
2人は私が甘めに作ってくれたコーヒーに口をつけたのを確認してから、他の精霊達と一緒にお菓子を食べ始めた。カルビンは麦チョコ、カルドはマーブルチョコが気に入ったようだ。
「隠者よ」
土の精霊王は私を隠者と呼ぶことにしたようだ。
「何か聞きたいことがあるのではなかったか?」
土の精霊王は、闇の精霊王の背中をぽんぽんと叩きながら、精霊草を勧めつつ、自分もさりげなく口に運んで行く。しばらくすると彼等の魔力の不安定な揺らぎが落ち着いたように見えた。それは闇の精霊王も似たようなものだった。やはり思っているより彼らは疲弊しているのかもしれない。流石に治癒術で完全に回復させるというのは、出来なくも無いだろうが、今後のことを考えると最善手では無いと思う。そんなことを考えながら、私はいくつか質問をすることにした。
「魔法を使えば、澱のようなものが生まれる、という認識で良いのですか?」
「そうだ」
「どんな魔法でもですか?」
「量は違う気がするけどなー」
火の精霊王が話に入って来た。どかりと座ると、精霊草に手を伸ばす。
「それに澱の量自体は、本当に微々たるものだぜ」
「量は違う、という事は…魔法の使い方や例えば精霊魔法や、今主流で使われている魔法、紋様術等によって違うという事でしょうか?」
「その通りだ。ただ…」
土の精霊王はいかつい顎に手を当てた。
「魔法を使用した事で出る澱の量は、ここ数十年は、多分ほぼ変わっていないはずだ」
「それは、どういう…」
「世界樹が新しく生み出すマナの量は、使用された分だけが生み出される筈だ。多少増減があるとしても、それほど変わらない。マナの量が一定ならば、魔法を使った時に消費される量も一定、澱の量も一定だと言っても良いだろう」
(急に澱…とりあえずあの不純物がそれだろう…が増えたわけじゃない、と。誰かが特殊な魔法を影響が出るほど使った可能性は低い、と)
さらさらとメモを取る。
「ちなみに、魔法の使い方による澱の量は、どれくらい違うのでしょうか?」
「倍くらいかなあ? でも、澱って言ったって、魔力を100で魔法使った時にそのうちの2か3が澱になるくらいのモンだぞ」
炎の精霊王は、カルビンからチョコレートを受け取って、見様見真似で銀紙を剥がし、ポイと口に入れ…次の瞬間目を見開いた。
「美味い!」
ナッツ入り、ミルク味、ヌガー入り、次々とチョコレートを口に入れていく炎の精霊王。魔力の回復傾向が見られるので、好きなだけ食べてもらおう。
「世界樹以外に、マナの浄化が出来るものは存在しないのですか?」
「世界樹以上に澱を浄化するものなど、聞いたことがないな…」
闇の精霊王の言葉に、土の精霊王も頷いて何やら考えている。
「あら、わずかですが、地上の草木や水も浄化の力がありますわよ」
水の精霊王はハーブティーに蜂蜜をたっぷり注ぎ、スプーンで優雅にかき混ぜた。
「そうだよね」
その蜂蜜ピッチャーを受け継いで、風の精霊王も自分のコップに蜂蜜を注ぎ入れた。中身はミルクティーのようだ。
「魔の森の木は意外と浄化能力が高いんじゃないかな? 南の海の真珠も、海のマナを浄化した結果、真珠が出来るようになってるでしょ?」
「真珠はマナの浄化が無くとも条件が合えば出来るだろう」
「それはそうですけれど、マナの浄化をしたものは魔力を帯びて照りが良く、大きくなるようですわ」
(……もしかして、水の幻影はそういう物のことだったりして…)
精霊王達の話はどうしようもなく私の好奇心を掻き立てるが、今は思考の中心に世界樹のことを置かなければ…メモには、真珠について調べる、と書き足しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます