8.隠者は治癒を決意する
こっそりと階下に行くと、血塗れの男女2人がそこに居た。特に女性はひどい怪我で、片腕は皮一枚でぷらぷらとぶら下がっているような状態の上に、おそらくは内臓まで達している怪我をしている。すでに意識がない。男性も頭から血を流している。
「セタンタが崩落した先に取り残されてるんだ!」
それでも男性が叫ぶ。
「救助隊を組織しろ!あと誰か回復使えるやつ呼べ!」
ギルマスが言い、すぐに受付の中が慌ただしくなった。私はついっとサブマスの近くに寄る。
「り!…リッカさん…」
「回復は私がします。怪我人をすぐに別室に運んでください。医療室ありましたよね?」
「……お願いします…!」
サブマスは思い詰めたような変な表情をした。おそらく、私の使う魔法をあまり他人には使ってほしくないのだろうけれど、多分他所から人を呼んでいては間に合わない。
「早く。今なら助けられる」
「怪我人をこちらへ運んでください!」
私は念のためにこっそり背負い籠をアイテムボックスに入れて、サブマスの影に隠れて怪我人が運ばれるのを待った。
「なんで!神殿から治癒師を…」
「…私が治癒しますよ」
男性は大声を上げようとしたが、私に驚いたのか目を見張った。それでも、丁寧に女性をベッドに寝かせた。
「貴方も座って目を閉じてもらっていいですか」
「え…いや」
「この人の身元は保証しますよ。指示に従ってください」
「…サブマスが言うなら……」
男性が目を閉じるのを待って、魔法紋様を出した。
「
男性の身体が傾ぐ。
「えっ?」
「ごめんなさい、眠らせました。」
サブマスに謝った。サブマスは色々察したようで首を何度も縦に振る。
女性の方が見たところやはり重症なので、まずは男性の方には下位の
「
2つ紋様を出して、とにかく足りない血をなんとかしつつ、女性の紋様を直していく。お腹の方から順に、じわじわと傷が塞がって行く。
(良かった、効いてる)
もちろん効くのは解っていたが、こればかりは確認しないと安心できない。
「腕が…!」
サブマスが叫んでから自分の口を空いている手で覆った。
腕の方は無事な方の腕を示す紋様を反転しながら揃うように再生させていく。本当は人間だから全く同じとは行かないのだろうけど…出来るだけ元の紋様になる様に力を注いでいくイメージだ。これは、身体の構造を知っているとより効率的に行く気がする。とは言っても、私の場合は半分以上は紋様頼みだ。
「あ…頭打ってますね…」
「えっ?」
頭部を示す紋様に、潰れたような滲みがある。本能的に、脳に損傷があるとわかる。そこも、ちゃんと直しておいた。急に直すと後から紋様が歪むようなので、鎮静をかけてから2、3日かけてきちんと治っていく様に調整する。
「と言うことは…サブマス、この方も寝かせましょう。
私も身体強化を使って、この体格のいい男性を隣のベッドに寝かせる。
「あの…リッカさん、魔力は…」
「いえ、まだ大丈夫ですよ」
出したままの男性の紋様と再生治癒の紋様を見ながら、次の手を考える。
「…うーん。
紋様に違和感があったので、急遽魔法を改造して疾患を
(骨折だらけじゃない)
骨折を治して、治って行く紋様を見ながら、先ほどから気になっていた頭部を見る。
(やっぱりここは女性より酷い)
そんな人に運ばせてごめん、と心の中で謝りつつ、頭部の怪我に集中する。
とりあえず紋様的には治った、と一息着いて、サブマスを振り返る。
「あとは、2、3日はこのまま動かさないでください。治癒が終われば自動的に鎮静が解けるので、起き上がれるはずで……サブマス、気持ち悪いですか?もしかして、血は苦手でした?」
サブマスが顔色を真っ白にして、口元を手で覆っていた。
「いえ、いえ!いや、眠らせて正解ですよ」
「…?」
「この2人はここで面倒を見ます!さあ、ちょっとリッカさんは上へ」
「いいえ、まだですよ」
「はい?」
「ギルマスとお話しさせてください」
どうせ乗りかかった船だ。それならば、私には調べたいことがある…2人を治すと決めた時点で、私の中には変な衝動が生まれていた。
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