7.隠者は資料室を体験する
ミリィさんに、またいつでも来てねと赤ちゃんごとぎゅうぎゅうハグされてからギルドに戻る。
「なんだか、お土産までもらって…」
私の背負い籠には、シンプルなワンピースやブラウス、まだ新しく見える厚手のローブが山盛り入れられている。ミリィさんが詰めてくれたものだ。止めなければもっと詰め込んでいただろう。
「命の恩人だ。しかも、あんな護り石まで貰っちまって。こんなんじゃ足りないよ。使ってやってくれ」
「こちらこそ、これからお手数をおかけするのに…」
なんだかちょっと浮世離れしてるから心配、とのことで、私は1月に1回、ミリィさんから一般常識についてレクチャーしてもらう事にした。
「ギルドの資料室?図鑑しかないわよ?そんなんじゃ足りないわ、多分」
ミリィさんは、そんな風に頭を振りながら、街に来たら必ず顔を出すように私に念押しした。
「まあ、ミリィは店開く前は冒険者兼ギルドの受付してたんだよ。そんじょそこらの奴には基本的に負けねぇし、情報網も持ってる筈だから。頼ってやってくれよ」
「受付嬢と冒険者って…」
「あれで中級くらいまでの攻撃魔法が使えるからさ。職業は採取者だったんだぜ」
「私の先輩ですね」
ギルドにつくと、ギルマスが受付で誰かと何か話している所だった。何やらゲッソリした表情だ。
「あ、ちょっと裏に回ろうぜ」
アーバンさんがコソッと言ったので、私は2人分隠蔽と認識阻害の術をかけて、建物の裏手に回った。
「どうしたんですか?」
「受付に若い奴がいただろう?何処ぞの侯爵家の三男坊らしいんだが、この間からパーティの人員募集をかけたが、試しに組んでみんた奴らがものの数日で3人も怪我してさ。調べてみたら王都で問題を起こしてたみたいでな。辺境でほとぼりを冷ましに来た、ってとこだろうが…リッカさん、アイツらには近づかないでくれよ」
「わかりました。そもそも誰ともパーティを組む気はありませんから…」
ソナー型探索術を使って、その侯爵子息の鑑定をやってみる。
名前 ランスロット・ヤクドル
職業 貴族 ランク6冒険者 冒険者ギルドソノラ支部所属 ※教唆する者
性別 男性(※既婚4名死別2名 庶子4名死別1名)
年齢 17歳(聖リアナ暦919年6月3日)
【魔法適正 中】
【魔法】火魔法1(
【技能】剣術2 体術3
※【状態】呪3
この※はなんだろう。何かと物騒な文字が続いてる気がするし…何より…
(17歳で妻が4人に庶子4人…しかも死別が多いってもしかして)
成人が15歳だとしても…どうなのだろう。職業も『教唆する者』とか言うのがついているし…やはり、どう見ても近づきたい人間ではない。ソノラという所ではこの点は問題にならなかったのだろうか。
(あとは、呪3ってなんだろう)
その後、ギルマスにもサブマスにもランスロット・ヤクドル侯爵子息に近づくなと言われたので、なんとなく妻が4人持てるのか、と言うことを尋ねてみたが、サントリアナでは多妻は禁じられてはいないが、最近はあまり聞かないと教えてもらった。妻を多く娶るなら、その生活全てをきちんと養えないと世間の目は厳しいらしい。どうやら、ちゃんと届けを出すと、鑑定魔法にも既婚者だと記されるようだ。しかし、心から双方納得して夫婦になってしばらくすると、届けなくとも鑑定に出たり、ギルドのボードに載ることはままあるらしい。
「夫婦関係もそうですが、親子関係などの鑑定と分類されますが…鑑定魔法の最高レベル以上の技術と、膨大な魔力が必要だそうですよ」
そんなふうに教えてもらった後、ギルドの資料室を見せてもらった。
資料室は、薬草の図鑑や色々書き加えられた魔獣の図鑑、使い込まれた野営の方法を記したマニュアル本、あとはアイテムボックスにも入っていた絵本のような初級の魔法書が数冊、あとは歴代の冒険者が書き足してきたダンジョンに関するノートなどだった。
久しぶりに紙の本に触れたのが嬉しくて、2時間ほどは眺めていた気がする。すると、不意に階下が騒がしくなった。
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