2.光を意味する名前

ぶんぶんぶん!

ぶんぶんぶん!

「え?あ、うん。大丈夫なのね?」

ぶーんぶんぶんぶんぶん!

「?契約?」

ぶんぶん!

「名前を付ける?」

ぶんぶ…ぷわわわん!

 文字通り目と鼻の先でぶんぶんする光虫と、これまでで1番頑張って会話した気がする。

「名前をつけるの?あなたに?」

 目が中心に寄りそうになりながら、そう口にする。その途端、ランプに入っていた光虫たち15匹がみんな私の目の前に集合してぷわん!と光る。

「目、目が…っ!」

 流石に眩しい。光が目に残ってチカチカする。

「わかった、わかったから!」

 嬉しいのか、さらに光った。みんなで。

「あ、あのね!さすがに眩しいから、お願いだからちょっと待って!」

 光虫のひかりがピタリと止まった。

「はい、それじゃあ、まずは1人ずつね。その後の様子も見たいから、焦らずにね」


 最初に並んだのは、私が治療した子だった。この子が最初に頭に当たってきた子であり、今おそらく1番力の強い個体なのは間違いない。最近では、光虫達もこの子をリーダーにしているようだ。

「…ええと」

 名前、名前……正直、リッカになってから、誰かに名付けることになるなんて、考えたこともなかった。

(レイヴァーンだと…太陽の神様はカルコン、その下に光の精霊がいたけど、名前はついてなかったよね。この子達の優しい光は、それに属するのかな)

 ぷわぷわ。ぷわぷわ。

 光虫は、ちょっとソワソワしているようだ。

(でも、本来は夜の光なんだから、銀の月の女神のライラと、青い月のティリスの眷属とかにみなされてる気がする…)

「うーんとね…カル…ラ、カルラ!」

(日本だと炎の鳥みたいなイメージになっちゃうけど…レイヴァーンなら、この子は優しい光ね)

 …迷った時に寄り添ってくれる、導きの光だ。

「カルラ、っていうのはどうかな?」

 目の前の光虫の体がバシュン!と光る。そして、細かな魔法紋様がそれを包み、一瞬で孵化するように…

「主様、リッカ様!」

「…卵からうまれた…」

「私はカルラ、光と炎の精霊にして、あなた様の眷属です!」

「…卵生?…なんかこう、属性増えてる気がするし、眷属ってナニ?名前つけたら従属契約したことになるの…?」

 疑問が口からボソボソ溢れでる。眷属ってどう言う意味だったかな?

「主様!」

「あ、はい」

「名付けていただいて、ありがとうございます!末長く、おそばにおいてくださいね!」

「……喋った」

「もう!」

 目の前でぷりぷり頬を膨らませているのは、背中に羽のある25センチくらいの、あの着せ替え人形のような小さな少女だ。彼女の周囲は、彼女を中心に30センチくらい輝いている。

「とりあえず、服っぽいのは着てくれててよかった」

 ふわふわのドレスは、よく見ると表面はさっき卵のようにカルラを覆った卵に刻まれていた魔法紋様に見える。とても細かく書き込まれていて綺麗だ。

「主様~~~!」

「ごめんごめん。改めてよろしくね、カルラ」

「はいっ!」

 とりあえず大切なことは…

「体調はどう?どこか悪いところは?」

「無いです!寧ろすっごく元気です!」

「とりあえずチェックさせてもらえる?後時間経過も見ないといけないし…」

「いいえ!むしろ、経過を見るなら主様です。名付けには主様の魔力を消費するので…」

「あれ、そうなの?何も感じないけど」

「特に、属性まで付けていただきましたから、お疲れなら私が治癒ヒールをおかけします」

「疲れてはいないよ…多分。いつも通り」

 自分に鑑定と探索をアレンジしたものをかけて、変わりのないことを確かめる。

「じゃあ…」

 カルラの後ろで、こちらをじーっと見つめてくる、残り14匹の光虫達。

「貴方達にも、名前をつけて良いのかな?」

 ぷわんぷわんとみんなが優しく光った。

(なんで喋るのとか、あの卵みたいなのは何とか、この魔力紋様とか、突っ込みたいところはたくさんあるけど…)

 黙って見ていた(喋れなかっただけかもしれないけど)14匹達の為に、私は無い知恵センスを搾って名付けをしたのだった。

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