【ざまぁ】新第9話 ドミー、三人衆にざまぁする
レムーハ記 大陸の風習について
道具の中にスキルを封じ込めたものを、【アイテム】と呼ぶ。
自らのスキルを行使するのに必要な【武器】とは違い、習得していないスキルも行使できる。
だが、【アイテム】を作成できるスキル保有者は少なく、流通量は乏しい。
また「優れたスキル使いは【アイテム】に頼る必要がない」と考える者も多く、利用者も少ない。
最近はまったく売れないため、価値の暴落も発生している。
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【出会いの森】を歩く3人の人影。
前列の【英雄戦士】ロザリー。
中列の【拳闘士】ルギャ。
後列の【上級魔法士】レイーゼ。
本来ならルギャが前列だが、ロザリーが前列となっている。
「なあロザリー。あんな奴隷なんてどうでも良くない?一々探しにいくなんて超受けるー」
「黙りなさいルギャ。このパーティのリーダーはあたしよ。嫌なら抜けることね」
「ぴえん…」
「そうですよロザリーさん。代わりなんていくらでもー」
「あなたはいい加減荷物を制御しなさい。何度も失敗してるじゃないの」
「はい…」
目標の人物への到着が遅れているのは、【トランスポート】による荷物運搬がうまくいっていないからである。
森の中というところもあり、荷物が木にぶつかって数回の停止を余儀なくされていた。
レイーゼは間違いなくAランククラスの実力があったが、戦闘スタイルは精密さを欠く所があった。
(荷物持ちならドミーの方がよほど適任ね…)
内心のいらつきを、ロザリーは口にしない。
そのかわり、歩みを早めた。
「で、このあたりに間違いないのね」
「【トランスポート】で飛ばしたあたりはこの辺りです。ですが、移動していると正確な位置までは…」
「いや、見つけたわ」
「え?」
ロザリーは嬉しさを隠しきれず、口を歪めた。
「焚き木の煙よ」
空に向かって微かに立ち昇る煙を、ロザリーは見逃さなかった。
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「ドミー?いるんでしょ?わずかに気配を感じるわ。隠れずに出てらっしゃないな」
ロザリーは両手を広げ、探している人物の名を呼ぶ。
パチパチと燃える焚き木。
少し残った肉。
ここで誰かがいたのは明白だ。
「あたしが悪かったわ。もうこんなことはしない」
あたりを見回すが、誰もいない。
「もう一度やり直しましょうよ。謝るから。戻ってきてよ。あたし、あなたのことが…」
「なあ、ロザリーはどうしちゃったんだ?」
「…だから追放したかったのに。頑張って【トランスポート】も覚えたのに」
「レイーゼ…?」
背後で仲間2人が話し合う声も、ロザリーの耳には入らない。
焦りを見せ始める彼女だったが、とある物を発見した。
「…やっぱりドミーはあたしのところに戻る運命なのね。見なさい。足跡があるわ」
「でも、2人分ありますが」
「レイーゼ。それは誰よ?」
「し、知りませんよ!」
「…とにかく追いかける。もし隣に女がいるなら引き裂いてやるわ」
【英雄戦士】の肩書きも忘れ、どんどん足を早める。
足跡はまだ出来て間もない。
このまま追いかければー、
(木…?)
ロザリーは、少し離れた地面に何かが落ちているのを発見した。
枯れ木を何本か組み合わせて、字のようなものを作っている。
「見て!ドミーのメッセージだわ!あたしに助けを求めてるのよ!悪い女に連れ去られたんだわ!」
「お、おい!」
「ロザリーさん!」
慌ててついていく2人を振り切る形で、ロザリーは向かった。
そこには、こう書いてあった。
ざ ま ぁ
その意味を理解して頭に血が上るロザリーだったが、同時にあることに気づく。
「ざまぁ」のメッセージが配置された枯れ木を囲むように、3つの何かが地面に埋められている。
巧妙に隠されているが、地面からわずかに頭を出していた。
何らかの人工物。
瞬間ー、
ロザリーの視界は光と炎で満たされた。
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爆炎および轟音。
立ち昇る煙。
「FOOOOOOOOOO!!!やったぞおおおおお!!!」
離れた場所で観察していた俺に、朗報がもたらされる。
この森には人間以上の体重を持つモンスターも動物もいない。
また、【アレスの導き】の性悪メガネは炎魔法を使えない。
設置した【アイテム】、3つの【対人火罠】は間違い無く作動した。
3つ重ねた分、威力もかなりのものである。
「やったなライナ!!!Aランク3人をざまぁしてやったぞ!」
「ほ、本当?」
傍で心配そうに眺めていた【魔法士】の少女は嬉しそうにするも、すぐに表情が変わる。
「でも、死んでないかな?」
「大丈夫だ。あいつらはそんなタマじゃない」
俺がわずかに支給された給与総額150ゴールドで購入していたのは、強力な爆発を伴うBランクスキル【エクスプロージョン】を封じた【対人火罠】。
一定以上の質量を持つ対象が接近すると発動し、爆発する仕組みである。
ただ、そのためには、とある条件を満たす必要があった。
ーライナ!この少しだけ顔を出してる【対人火罠】に【ファイア】を当てろ!威力はまったく必要ない!最小限の火でいい!
ーわ、私にできるかな?
ー大丈夫だ!俺を信じろ!
その条件を、【制御】に長けたライナは満たした。
あとは、確実に足を止めてくれるよう、わざと付けた足跡と俺からのメッセージを設置して完了である。
もちろん、足跡からはまったく逆方向に逃げた。
「さ!ライナ!」
「うん!」
「逃げるぞ!!!」
「逃げるの!?」
「あいつらは鬼よりおっかないからな!落ち着いたら追いかけてくる!」
「分かった!」
「だが俺のスピードについてくるのはしんどいだろう!悪いが背中に乗ってもら…いや、それだと刺激が強すぎるか」
俺は未だに上半身裸の変態である。
背中に手で掴まると、それだけでライナは【絶頂】するかもしれない。
なのでー、
「きゃあ!?」
ライナをお姫様だっこ(コンチの光景ではそう言ってた)することにする。
俺が【魔法士のローブ】を掴めば、スキルの影響を緩和できるはずだ。
「ちょ、ちょっと…なんかむず痒い…」
「少し我慢してくれよ!このまま逃げ切るぜ!」
(じゃあな。ロザリー。レイーゼ。ルギャ。いつかはビク◯ビクンさせてやるよ)
最後にざまぁされた三人衆に別れを告げ、俺とライナは自由に向けて走り出した。
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「ロザリー!」
「ロザリーさん!大丈夫ですか?」
吹き飛ばされた【上級魔法士】と【拳闘士】が、自らのリーダーを必死に探す。
両者ともなんとか軽傷で済んでいるが、煤と汚れに塗れている。
また、【トランスポート】で運んでいた荷物はバラバラになり、中にあった食料、宝物、服、その他私物は全て破壊された。
「いたぞ!」
最初にリーダー、つまりロザリーを発見したのはルギャであった。
爆発前と同じ位置でひざまずいており、呆然としていた。
頭から血を流している。
【英雄戦士】と呼ばれたAランクスキル使いは、生まれて初めて負傷した。
「ドミー…どうして」
涙も流し、ロザリーは呟く。
「行かないでよ…」
その声は、もはや愛する人には届かなかった。
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