【ざまぁ】新第9話 ドミー、三人衆にざまぁする

 レムーハ記 大陸の風習について


 

 道具の中にスキルを封じ込めたものを、【アイテム】と呼ぶ。

 自らのスキルを行使するのに必要な【武器】とは違い、習得していないスキルも行使できる。

 

 だが、【アイテム】を作成できるスキル保有者は少なく、流通量は乏しい。


 また「優れたスキル使いは【アイテム】に頼る必要がない」と考える者も多く、利用者も少ない。

 最近はまったく売れないため、価値の暴落も発生している。



==========



 【出会いの森】を歩く3人の人影。


 前列の【英雄戦士】ロザリー。

 中列の【拳闘士】ルギャ。

 後列の【上級魔法士】レイーゼ。


 本来ならルギャが前列だが、ロザリーが前列となっている。


 「なあロザリー。あんな奴隷なんてどうでも良くない?一々探しにいくなんて超受けるー」

 「黙りなさいルギャ。このパーティのリーダーはあたしよ。嫌なら抜けることね」

 「ぴえん…」

 「そうですよロザリーさん。代わりなんていくらでもー」

 「あなたはいい加減荷物を制御しなさい。何度も失敗してるじゃないの」


 「はい…」


 目標の人物への到着が遅れているのは、【トランスポート】による荷物運搬がうまくいっていないからである。


 森の中というところもあり、荷物が木にぶつかって数回の停止を余儀なくされていた。

 レイーゼは間違いなくAランククラスの実力があったが、戦闘スタイルは精密さを欠く所があった。


 (荷物持ちならドミーの方がよほど適任ね…)


 内心のいらつきを、ロザリーは口にしない。

 そのかわり、歩みを早めた。


 「で、このあたりに間違いないのね」

 「【トランスポート】で飛ばしたあたりはこの辺りです。ですが、移動していると正確な位置までは…」

 「いや、見つけたわ」

 「え?」


 ロザリーは嬉しさを隠しきれず、口を歪めた。


 「焚き木の煙よ」




 空に向かって微かに立ち昇る煙を、ロザリーは見逃さなかった。



==========



 「ドミー?いるんでしょ?わずかに気配を感じるわ。隠れずに出てらっしゃないな」


 ロザリーは両手を広げ、探している人物の名を呼ぶ。



 パチパチと燃える焚き木。

 少し残った肉。


 ここで誰かがいたのは明白だ。


 「あたしが悪かったわ。もうこんなことはしない」


 あたりを見回すが、誰もいない。


 「もう一度やり直しましょうよ。謝るから。戻ってきてよ。あたし、あなたのことが…」

 「なあ、ロザリーはどうしちゃったんだ?」

 「…だから追放したかったのに。頑張って【トランスポート】も覚えたのに」

 「レイーゼ…?」


 背後で仲間2人が話し合う声も、ロザリーの耳には入らない。

 焦りを見せ始める彼女だったが、とある物を発見した。


 「…やっぱりドミーはあたしのところに戻る運命なのね。見なさい。足跡があるわ」

 「でも、2人分ありますが」

 「レイーゼ。それは誰よ?」

 「し、知りませんよ!」

 「…とにかく追いかける。もし隣に女がいるなら引き裂いてやるわ」


 【英雄戦士】の肩書きも忘れ、どんどん足を早める。

 足跡はまだ出来て間もない。


 このまま追いかければー、


 (木…?)


 ロザリーは、少し離れた地面に何かが落ちているのを発見した。

 枯れ木を何本か組み合わせて、字のようなものを作っている。


 「見て!ドミーのメッセージだわ!あたしに助けを求めてるのよ!悪い女に連れ去られたんだわ!」

 「お、おい!」

 「ロザリーさん!」


 慌ててついていく2人を振り切る形で、ロザリーは向かった。

 そこには、こう書いてあった。




 ざ ま ぁ


 その意味を理解して頭に血が上るロザリーだったが、同時にあることに気づく。

 「ざまぁ」のメッセージが配置された枯れ木を囲むように、3つの何かが地面に埋められている。

 巧妙に隠されているが、地面からわずかに頭を出していた。


 何らかの人工物。


 瞬間ー、




 ロザリーの視界は光と炎で満たされた。



==========



 爆炎および轟音。

 立ち昇る煙。


 「FOOOOOOOOOO!!!やったぞおおおおお!!!」


 離れた場所で観察していた俺に、朗報がもたらされる。

 この森には人間以上の体重を持つモンスターも動物もいない。


 また、【アレスの導き】の性悪メガネは炎魔法を使えない。


 設置した【アイテム】、3つの【対人火罠】は間違い無く作動した。

 3つ重ねた分、威力もかなりのものである。


 「やったなライナ!!!Aランク3人をざまぁしてやったぞ!」

 「ほ、本当?」


 傍で心配そうに眺めていた【魔法士】の少女は嬉しそうにするも、すぐに表情が変わる。


 「でも、死んでないかな?」

 「大丈夫だ。あいつらはそんなタマじゃない」




 俺がわずかに支給された給与総額150ゴールドで購入していたのは、強力な爆発を伴うBランクスキル【エクスプロージョン】を封じた【対人火罠】。


 一定以上の質量を持つ対象が接近すると発動し、爆発する仕組みである。


 ただ、そのためには、とある条件を満たす必要があった。


 ーライナ!この少しだけ顔を出してる【対人火罠】に【ファイア】を当てろ!威力はまったく必要ない!最小限の火でいい!

 ーわ、私にできるかな?

 ー大丈夫だ!俺を信じろ!


 その条件を、【制御】に長けたライナは満たした。


 あとは、確実に足を止めてくれるよう、わざと付けた足跡と俺からのメッセージを設置して完了である。


 もちろん、足跡からはまったく逆方向に逃げた。


 「さ!ライナ!」

 「うん!」

 「逃げるぞ!!!」

 「逃げるの!?」

 「あいつらは鬼よりおっかないからな!落ち着いたら追いかけてくる!」

 「分かった!」

 「だが俺のスピードについてくるのはしんどいだろう!悪いが背中に乗ってもら…いや、それだと刺激が強すぎるか」


 俺は未だに上半身裸の変態である。

 背中に手で掴まると、それだけでライナは【絶頂】するかもしれない。


 なのでー、


 「きゃあ!?」


 ライナをお姫様だっこ(コンチの光景ではそう言ってた)することにする。

 俺が【魔法士のローブ】を掴めば、スキルの影響を緩和できるはずだ。

 「ちょ、ちょっと…なんかむず痒い…」

 「少し我慢してくれよ!このまま逃げ切るぜ!」


 (じゃあな。ロザリー。レイーゼ。ルギャ。いつかはビク◯ビクンさせてやるよ)


 最後にに別れを告げ、俺とライナは自由に向けて走り出した。



==========



 「ロザリー!」

 「ロザリーさん!大丈夫ですか?」


 吹き飛ばされた【上級魔法士】と【拳闘士】が、自らのリーダーを必死に探す。

 両者ともなんとか軽傷で済んでいるが、煤と汚れに塗れている。

 また、【トランスポート】で運んでいた荷物はバラバラになり、中にあった食料、宝物、服、その他私物は全て破壊された。


 「いたぞ!」


 最初にリーダー、つまりロザリーを発見したのはルギャであった。


 爆発前と同じ位置でひざまずいており、呆然としていた。

 頭から血を流している。


 【英雄戦士】と呼ばれたAランクスキル使いは、生まれて初めて負傷した。



 「ドミー…どうして」

 涙も流し、ロザリーは呟く。



 「行かないでよ…」

 その声は、もはや愛する人には届かなかった。

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