新第10話 ドミーとライナ、誓いを結ぶ

 (もうこの辺でいいか)


 【出会いの森】の出口に差し掛かった。

 三人衆…いや、もう悪口を言う必要もないか。


 【アレスの導き】の3人の気配もない。

 もし誰かが死んだり重傷を負っていれば、残りの2人が復讐のため確実に追ってきたはずだ。

 それがないということは、まあそういうことである。


 「…そろそろ下りるか、ライナ。窮屈で悪かったな」


 お姫様抱っこで抱えていた、【魔法士】の少女で呼びかける。


 ライナはこちらをじいっと見つめていたがー、


 「いや。このままがいい」

 ぷいと断った。


 「なんだと!?」

 「だってドミーの腕に抱かれるの気持ちいいし」

 「まじか!?」

 「大まじ」

 「なら頑張る!」

 「あははははは。冗談。もう下ろしていいよ」

 「お、おう」


 ライナをゆっくりと下ろす。

 少女は自らの足でしっかりと大地に立った。


 「奇麗だね…」

 すでに朝日が昇りつつある。

 「だな。今まで生きてきて、一番奇麗な朝日だ」


 昨夜だけで、もう命の危機を3回も乗り越えている。

 神を名乗るコンチから授かったスキルで乗り切ったが、そのコンチもとっちめた。

 もはや、何が何やらである。


 「ありがとう、ドミー」

 「ん?」

 「私、あなたがいなかったら森から出られなかった。ずっと、1人のままだった」

 「…いや。礼を言うのはこちらの方だ。ライナがいなければ、俺は今頃ロザリーに八つ裂きにされていたはずだ。お前のおかげで、俺は少し誇りを取り戻せたよ」

 「えへへ、面と向かって言われると照れるな…」

 「だが、まだまだこれからだぞ!」


 俺はムドーソ王国の首都、ムドーソ城を指さす。

 奴隷時代何冊か読んだ本で、基本的な地理は覚えている。


 ここから、約3日ほどの距離だ。


 「今からムドーソに行き、【アーテーの剣】とやらをざまぁさせて、ライナの誇りを取り戻す!ついでに、俺は【ビクスキ】でかっこいい男になる!忙しくなるぞおおおおお!FOOOO!」

 「頼もしいけど…本当に、やるの?」


 ライナは少し不安そうな表情をする。


 「この世界じゃ、男性はみんないじめられる。女性だけの楽園。僻地で、私と一緒にひっそり暮らすこともできるよ?」

 「ま、そうかもしれないな」


 レムーハでは、男性は皆悲惨な最期を遂げてきた。

 ライナの心配ももっともである。


 だがー、


 「だからこそ!このやり直しの人生で、男として一旗揚げてみたいのさ!それが、人生ってもんだろう!」

 「ドミー…」

 「もちろん、ライナを巻き込むような無謀な真似はしない。危なくなったら逃げる!だがやるべき時はやる。それを繰り返しながら、俺らしい生き方を追求して見せるさ」

 「本当に、根拠のない自信だけはあるんだから…」

 「自信なんて根拠がなくてももっていればいいさ。ないよりはずっとマシってもんよ。ははははは!」

 「分かった。もう止めない!」


 ライナの目から、迷いが消える。


 「今度は私の番。ムドーソに戻って、【アーテーの剣】のエリアルやヘカテーもぎゃふんと言わせる!」

 「その意気だ!!!お前の力を借りる分、俺も【強化】で支援する!ムドーソ大陸は広い。きっと、どこかに【阻害】を治す手段もあるはずだ」

 「うん!じゃあ、あなたと誓いを結びたい!!!」

 「誓い?」

 「ええ!冒険者は行動を共にするものと誓いを結ぶものよ。【断金の誓い】なんてどう?2人で力を合わされば、金属を断ち切ってしまうほど硬い関係!」

 「分かった!で、どうやるんだ?」

 「ええと。こんな感じで…」


 俺とライナは向かい合い、誓いを交わす。


 「【魔法士】ライナ!【男性】ドミーとは生まれし日は違えども!!!」

 「【男性】ドミー!【断金の契り】を結び、同じ日に死すことを誓わん!」

 「冒険者として心を同じくして助け合い!」

 「困窮する者を救い!」

 「互いの志を達成する!」


 「「この誓いは、誰にも破られることはない!!!」」


 こうして、俺のやりなおし人生は本格的に始まった。


 世界は混沌としていて、明日どうなるかも分からない。

 最悪、死ぬかもしれない。


 それでもこの日だけは胸を張ろう。

 1人の人間として。



==========



 「じゃあ、難しいことはこれで終わり!」

 「おう!早速ビクンビ◯ンの旅にいくぞおおお!」

 「その前に…」

 「うん?」

 「さっき、追われてる時に体が冷えちゃった」


 ライナは、少し顔を赤くする。


 「ちょっと、癖になりそうって言うか…で、でもドミーだからね!他の人が同じスキルを持ってても、こんな感じにはならない…多分」


 そして目を閉じ、口を細める。


 「ああ!」


 もう遠慮はない。

 そっと顔を寄せー、




 その柔らかな唇に口づけをした。





 第1章 ビクンビ◯ンスキルは突然に


 完



==========

  


 次回予告


 新第11話 ビクスキ第1章まとめ


 「各章ごとにまとめ作るの忘れてました!!!」

 まとめを作るのは、簡単そうで難しい。

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