新第7話 ドミーとライナ、仲間になる

 【満月】を食べ終わってから、俺はこれまでの体験をライナに話した。


 暗くなってきたので、ライナの【ファイア】で付けた焚き木を囲んでいる。


 ー生まれてから19年間、奴隷商のもとで過酷な労働を強いられたこと。

 ー1年前、偶然出会った【アレスの導き】のリーダー【英雄戦士】ロザリーに買われたこと。

 ーそして、今日そこを追放されたこと。

 ー死にそうだったが、コンチという名の天使に【ビクスキ】を与えられたこと。

 ー【ビクスキ】に関するあれこれ。


 「ま、こんな感じだな。今あのに会ったら、徹底的にビク〇ビクンさせてやるぜ!ははははは!」


 本当は、いま懐に入れてるアレを使うつもりだったんだがな。

 今なら使えるが、当人がいないんじゃあしょうがない。

 「そう…あなたも色々あったのね」


 明るく話したつもりだったが、ライナの表情は暗い。


 「…もし良かったら、ライナにも何があったか話してくれないか。【アーテーの剣】とかいう極悪パーティに所属していたらしいが、今の仕打ちは普通じゃない。こんな森にただ1人送りこむのは仲間とは言えないはずだ」


 「…私が悪いのよ」

 「悪い?」

 「ええ」


 ライナは、目を閉じた。


 「私本当はBランクまで成長してたんだ」

 「でも、ある日突然Cランクまで下がって、そこから成長しなくなったの」

 「それが、あなたの言ってた【阻害】なんだわ」



==========



 「原因は…分かるのか?」


 この世界ではかなりの重病だと言える。

 一刻も早く元に戻らなければ、迫害の対象にされてしまうからだ。


 「いいえ、さっぱり」


 ライナは首を力なく振った。


 「医師にも片っ端から見てもらったんだけど、全然分からなかったわ」

 「その内、【アーテーの剣】とかいうに冷たくされた、か」

 「言ってくれるのはうれしいけど、その逆。【アーテーの剣】は最低でもBランクじゃないと入団できないエリート集団なの。Aランクは規格外だしね」


 「…」


 「私は色々な嫌がらせを受けて、最終的にこういわれた。【出会いの森】にいるゴブリンを退治できなければ、帰ってくるなって…」


 「だがー」

 「ええ」


 15歳の少女が、両手をぎゅっと握る。


 「ここには、ゴブリンどころかモンスター1匹もいなかった」

 「私は、体よく捨てられたのよ…」



==========



 ライナは、うつむいて話さなくなった。


 「ライナ。俺の考えを話す」

 「…うん」

 「俺と手を組まないか」

 「…」


 少し早口になるのを自覚しながら、まくし立てた。


 「【強化】があれば、ライナは【阻害】を無視して、一時的に本来の力を発揮できる。【アーテーの剣】のへっぽこ使い手なぞ物の数じゃない。俺のスキルには戦闘力が皆無だから、誰か頼りになる人間がそばにいて欲しいんだ」


 「私なんかでいいの?」


 「ライナの【制御】はAランクの使い手にも引けを取らない。ワーウルフを倒すときも、初めて使うスキルをうまく操って、急所を一撃でついた」


 「…見てくれてたんだ。嬉しい。でも、1つ聞かせて」


 ライナは顔を上げた。

 少し、目に涙がたまっている。


 「そのスキルで、あなたは何をするの?」

 「決まってるさ!」


 俺は立ち上がった。


 「このスキルで成り上がって見せる!!!敵になる奴や道に外れた奴はざまぁする!!!」

 「そして!」

 「かっこいい男になる!!!」



==========



 「か、かっこいい男?」

 「そうだ!!!」


 俺はコンチに見せられた映像を思い返していた。


 


 強い男性。

 世界で活躍する男性。

 女性から慕われる男性。


 一度しかない人生、夢を見たって誰からも責められるいわれはない。


 「このスキルは、使いようによっては残酷なことや醜悪なことがなんでもできる。だが、そんなことには使わない」


 それじゃあ、ワーウルフと何の違いもない。

 俺はどれだけ虐げられても、人間であることは忘れない。


 「俺自身の美学に則って、かっこいい【支配】って奴を成し遂げて見せるぜ!!!」


 どうせやり直すなら、それぐらいド派手な夢を見ようじゃないか。

 男として。


 

 「それはいいけど、具体的にかっこいい【支配】って何するの?」

 「それは今から考える!!!」

 「今から!?」

 「ほぼアドリブだ!」


 「言いきっちゃったよ!」


 ライナは呆れた表情を見せるが、やがて頷いた。


 「分かったわ。私も付いていく。どうせ追い出されて居場所ないし」

 「まあ慌てるなよ。まだ続きがある」

 「…?」


 「その第一弾としてー」


 俺は自らの計画を告げる。


 「失ったライナの誇りを取り戻しに行こう。つまりー」

 「【3強国】の1つ、ムドーソ王国へ向かう!」



==========



 「なんで」

 ライナは動揺した。


 「【アーテーの剣】がムドーソ王国所属だって分かったの?」

 「簡単なことさ。この近辺でBランク冒険者を雇える財力があるのはムドーソしかない」

 「…」


 「計画はこうだ。俺とライナは何食わぬ顔でムドーソに戻る。そして、ライナはこう言えばいい。『4なんてさっさと脱退して新たにパーティを設立します』とな」

 「…」

 「もちろん【アーテーの剣】とやらは激怒するだろう。そこで、俺の【強化】を受けたライナがスキルをぶっ放すんだ!ついでに、俺が何人か触ってビクンビク〇させてもいい。そしてー」

 「ねえ!」


 いかん、つい熱くなってしまった。


 ライナの方に目をやると、




 涙を流している。



==========



 「お、おい」

 「どうして、私のためにそこまでしてくれるの?」

 「…」

 「私が誇りを取り戻すことと、【支配】とは何の関係もないじゃない…あなたには付いて行くけど、ムドーソにはー」 

 「いや、関係がある」

 「どんな風に!?」

 「俺もライナと同じく、人生の中で誇りを失った。だから、その痛みは嫌と言うほど分かってる」

 「…!」

 「それに、ライナは俺と同じナイフで食事をしてくれた。ささいなことかもしれないが、俺にとっては嬉しかったんだ。そんな女性に初めて出会った」

 「…」

 「だから!」



 俺は自分の思いをぶつける。


 「俺は、本来優れた使い手であるはずのライナを襲う不条理や理不尽を【支配】する!!!それが、このスキルを得た自分のやるべきことだと信じる!!!」


 そんなこともできないようじゃ、かっこいい男になんてなれないだろう。


 「大ばかよ!」

 ライナは叫ぶ。

 「ドミーはばか!私なんかにそこまでして!」


 そして、泣きじゃくりながら崩れ落ちた。

 慌てて手に布を巻き、それを慎重に支える。


 「今まで、私にそこまで優しくしてくれる人なんていなかったのに!」

 「すまない、泣かせるつもりはなかった」




 なんとかこらえようとしたライナだったがー、


 


「うあああああ…!!!」


 こらえきれず、号泣してしまった。


 「泣くな、俺も悲しくなる…」

 「だって…だって!」


 スキルに覚醒した今、その身を強く抱きしめるのは躊躇してしまう。

 優しく抱えるしかないのが、歯痒かった。



==========




 長い時間が流れた。

 ライナは大分落ち着いている。


 俺は止めていた息を吐いた。


 


 「落ち着いたか?」

 「…うん。私決めた。あなたの仲間になる」

 「ありがとう…今日はもう寝よう。明日の朝出発する」

 「ねえ…」

 「なんだ?」

 「口づけして」

 「…」

 「勘違いしないでよ?」


 ライナは、頬を涙で濡らしながら言った。


 「スキルどうこうじゃなくて、ドミーの温もりが欲しいの」

 「…分かった」



 再び唇を合わせる。

 そして、舌を絡めて行く。

 今度は、ライナも積極的に舌を合わせてくる。



 何かが、足りない気がした。

 コンチに見せられた、裸で抱き合う男性と女性。

 そこから、何かの要素が抜けている気はする。




 でも、ライナが喜んでくれるならそれでよかった。



 次回予告


 第8話 ドミー、ざまぁの準備を整える。


 「ついにあれを使うときが来たか!」

 ドミーの秘策が、ついに日の目を見ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る