【料理】新第6話 ワーウルフを食らう

 【ビクスキ】メモ


 1.【絶頂】させた女性は【支配】状態になり、たいていの命令には従う。


 2.追加で【服従条件】を満たした場合は【完全支配】となり、逆らうことはできない。また、ドミー本人を守るよう行動する。


 3.【服従条件】は根源的な欲求から成り立つため、女性の意思でコントロールするのは難しい。



==========



 「とまあ、こんな感じだ。もういいぞ」



 土下座を終えたライナに声をかける。


 【完全服従】状態のため、すぐに立ち上がった。



 「…信じられないけど、信じるしかなさそうね」

 「悪かったな。今後は無闇に使わないと誓う」

 「名前を、聞かせてくれる?」

 「俺か?俺は男性ドミー。この通り上半身裸の変態だ。20歳」

 「ふふふ、自分で言うなんておかしな人。私はライナ。【魔法士】ライナ。15歳よ」

 「じゃあライナ。とにかく森を抜けるまで俺たちはコンビだ。よろしく!」

 「ええ。じゃあ握手、と言いたいところだけど…」


 ライナはもじもじした。

 言いたいことはわかる。


 「少し布に手を巻いて、ゆっくり握ろう。それで大丈夫なはずだ」

 「…本当に?」

 「ああ」

 「じゃ、じゃあ…」


 ライナは俺とゆっくり手を握る。


 「…う」


 刺激で少し顔を赤らめるが、許容範囲内らしい。

 ライナの手は小さくて柔らかく、冷たかった。

 たった1人で、森の中をずっと歩き回っていたのだろう。  


 「暖かい…」


 しばらく、そのまま手を握っていた。



==========



 「仲直りも済んだことだし、とりあえず飯にするか!」

 「いいけど…私食べ物は何も持ってないわよ」

 「こんな森まで来てか?」

 「色々あって、準備しないまま来ちゃったから」


 そこまで、言うとライナのお腹が鳴った。


 「は、恥ずかしい…」

 先程はワーウルフを勇敢に倒したが、今は歳若き少女である。

 「なあに!心配いらないさ!ライナが仕留めた獲物を頂くとしよう!」


 いまだに少しビク◯ビクンしてる巨体を指差す。


 「まさかワーウルフ!?モンスターの生肉なんて食べたらー」

 「ああ知ってるさ。本来なら血抜きだの解体だのって話だが、こいつは死後すぐに取り出すと食える部位がある。ナイフ持ってるか?」

 「え、ええ。護身用に一本だけ」

 「貸してくれ」


 受け取ると、ワーウルフに祈りを捧げる。


 「最後の追いかけっこはなかなか手強かったぜ…天国で会ったらまた競争しよう」


 そして、胸部にナイフを差し込んでいく。

 硬い皮になんとか切れ込みを入れ、その中に手を突っ込んだ。


 「目を背けないんだな」

 「い、一応私も冒険者なんだから」

 「その意気だ」


 そして、円形の肉の塊を取り出す。

 青い輝きを放っていた。


 「これは…?」


 「死後しばらくのワーウルフでもっとも美味な部位、通称【満月】という。月の魔力をこの部位に溜め込んでいて、魔力の加護で腐敗や汚れを防いでいるそうだ。青い光に包まれていれば安心して食える」


 「どこでそんな知識を?」


 「どこかの脳筋3人衆とワーウルフ15000匹を討伐した時に知った知識さ。あいつらもたまには役に立つ。さて!」


 俺はライナに【満月】を見せた。


 「ここからはライナの番だ!」



==========


 「こんな感じかな?」

 「いい感じだな。やはりライナは魔法の【制御】に長けている」

 「そ、そう?えへへ…」


 【満月】はライナの【ファイア】によってこんがり焼けていった。

 元来攻撃用のスキルのため、下手をすればすぐに焦げてしまう。

 それをうまく調理できるのは、ライナの才能と言えた。


 「じゃあ、腹ぺこライナから食べていいぞ」


 ライナが持っていたハンカチに肉の塊を置く。

 丁度2人分ぐらいだ。


 ナイフ(流石に一度洗って【ファイア】で消毒した)をライナに渡す。


 「…」


 恐る恐るナイフで肉を切り分け、口に運ぶライナだったがー、


 「ウソ!おいしい!!!」


 どうやら喜んでもらえたようだ。


 「ふははははは!!!1年間荷物持ちを筆頭としたあらゆる雑用をこなした俺に隙はないぞ!!!」

 「その話も気になるけど…とりあえずドミーも食べなさいよ」


 ライナにナイフを渡されるが、俺は反射的に遠慮してしまう。


 「いや、いい」

 「?どうしたの?」

 「俺はその、あれだ。不浄な存在だから」

 「…何言ってるのよ。すでに口付けした仲じゃない」

 「ははは…悪い悪い」

 「それにー」


 ライナは俺の手にナイフを握らせた。

 刺激に一瞬顔を引きつらせたが、耐える。

 そして、微笑んだ。


 「本当に不浄な存在なら、私を助けたりなんてしなかったわ。そうでしょ?」

 「…ライナ」

 「私は気にしないわ」


 俺は、無言のまま【満月】をナイフで切り分け、口に運んだ。


 「うん。うまいな…」


 これまで生きてきて、一番おいしい肉だった。



==========



 (ドミーさま。チュートリアルのクリア、おめでとうございます)

 丁度食べ終わったころ、ナビの声が響く。

 (…丁度聞きたいことがあったんだ。ライナのスキルの威力がかなり高まっていたように見えたんだが…)

 (【絶頂】させた女性に付与される【強化】によるものです。制限時間30分の間ステータスの一部が強化され、利用できるスキルも増えます)


 希望を見出した少女 ライナ(【強化】後)


 種族:人間

 クラス:魔法士

 ランク:B+


 近接:7

 魔法:78

 統治:15

 智謀:77

 スキル:【ファイア】【フレイム】

 個性:【制御】【機転】【阻害】 

 服従条件:誰でもいいから、私に力を授けてください…

 一口コメント:時間限定ながら強力な炎魔法使いとなった


 ステータスの一部とは、魔法のことらしい。

 【制御】の個性と合わされば、かなりの強さとなるはずだ。


 (分かった。ありがとう)

 (分からないことがあれば、いつでもお呼びください)

 「どうしたの?真剣な顔をして」


 事情を知らないライナが不思議そうに覗き込んだ。


 「ああ」




 「少し話をしよう」



==========



 同時刻、かなり離れた地点に、森の中を移動する3人の人影があった。


 「あの奴隷がいなくなって清々しましたね、ルギャ」

 「それなーレイーゼ。あいついるとこっちまで白い目で見られるし」

 「【トランスポート】があれば荷物持ちなんて、おっと…制御がまだもう少し」

 「もうちょい練習すればだいじょぶだいじょぶー。とりあえずこの森抜けよー」


 【上級魔法士】のレイーゼと【拳闘士】のルギャ、そしてもう1人はー、


 「…」


 【英雄戦士】のロザリーである。

 2人を先に行かせ、自らはゆっくりと歩いていたが、やがて立ち止まった。


 「やっぱりだめよ」

 「?どうしました?ロザリー」

 「どったの?」


 「あたし、ドミーがいないとだめ。連れ戻しましょう」



==========



  次回予告


 第7話 ドミーとライナ、仲間となる


 「手を組まないか?」

 ドミーが、少女を救う決心をします。



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