【挿絵】新第3話 ドミー、女冒険者を【支配】する


 「ちゅーとりある、か」

 コンチは去り、森には静寂が訪れる。


 「言葉の意味は分からんが、なーんか嫌な予感がするんだよな…」

 いずれにせよ、ここで突っ立っていても仕方ない。


 触れた女性をビク〇ビクンさせるとか【支配】とか言っていたが、こんな森の中に女性がいるはずもないし。

 というか、モンスターに遭遇したら俺がビクンビ〇ンさせられてしまう。


 とりあえず森を離れようと歩き始めた俺だったがー、


 「そこまでよ!」


 目の前の草むらから、誰かが飛び出してきた。

 


==========



 「私は冒険者ライナ!ゴブリンよ覚悟しなさい!」


 現れたのは、可憐な少女だった。


 【魔法士】ライナ

 https://imgur.com/a/CjdWdyR

 

 -腰まで伸ばした美しい金髪。

 -小動物のような童顔。

 -まだ熟れ切る前の幼さを残す肢体。

 -黒を基調とするゆったりとした【魔法士のローブ】。

 -手には【魔法系】スキルを放つ【木の杖】。

 

 魔法を扱う、オーソドックスな【魔法士】。

 左手を胸に当て、少し震えている。

 新米冒険者か…?

 それにしても、少し様子がおかしい。


 「落ち着け、俺はゴブリンじゃない」

 「え…喋った…?」

 「こんななゴブリンがいるか?いないだろ?」

 コンチが見せた記憶によると、かっこいい男のことをイケメンというらしい。

 「でも、なんてレムーハにはいないし…」

 「なにっ!」


 そういえば、3にシックスパックを蹂躙されたので、上半身裸のままだった。


 「それはいろいろ事情がある。でも俺は変態じゃない」

 「…」

 「俺は人間だ。1000年に1度生まれるとされる、男性。聞いたことがあるだろ?」

 

 なんとか警戒を解き、信頼を得よう。

 そしてー、


 「いや!近寄らないで!」

 歩み寄り失敗。


 ライナは【木の杖】を構えなおし、戦闘態勢を取った。

 杖の先端に、火がともり始める。


 「エリアルとヘカテーの任務をこなさないと、帰れない。【アーテーの剣】から追い出されたら、私の居場所なんてなくなる…いくら森の中を探しても、あなたしかいなかった!」

 「…」

 

 ダメだな。

 ライナは、に追われている。

 俺がゴブリンでないと心の奥底では気づいていても、後戻りできないのだ。


 「私一人でも、ゴブリン一匹ぐらい退治して見せるんだから!!!」


 交渉の余地はないようだった。

 

 ライナは自らが操るスキル名を唱える。


 「ファイア!!!」

 火炎が俺に向かって放たれ、戦いの幕は上がった。



==========



 「ちいっ!」

 放たれた火球を、すんでの所でかわす。

 

 (おそらくCランクか)

 【アレスの導き】の荷物持ちとして1年間こきつかわれたため、スキルの威力は大体把握できる。

 威力・射程ともに最低ランクだ。

 これなら俺でもー


 「甘いわね!」


 ライナは勝ち誇ったように叫んだ。

 かわしたはずの火球はターンし、俺の背後を襲おうとする。


 「くそっ!」

 不意打ちをなんとか回避するが、下半身の服を一部焼く。

 俺をすんでの所で外した火球は森の木に命中し、炎上した。


 どうやら、スキルの制御に長けた使い手らしい。


 「次は外さない!あなたを倒し、私はみんなに認められる!」

 「…残念だったな」

 「え?」

 「この程度ー」


 俺は笑った。


 「3に連れていかれた戦場に比べたらぬるすぎる」


 ードミー!今日はあたしたちで【ワーウルフ】15000匹を倒すから、後から荷物持ってついていきなさいよ。

 ードミーだっけ?今日は【リバイアサン】倒しに深海に潜るから荷物持ちよろしくー。付いてこれなかったら、そのまま海の中でぴえんだからね。

 ードミー。今日は【火炎竜】の討伐に行きます。私の荷物に少しでも火が付いたら、あの世に送りますよ…


 3の無茶ぶりに1年付き合ってきた、【荷物持ち】ドミーを舐めるなよ!


 「負けないんだから!!!ファイア!ファイア!ファイア!」

 「ふはははは!【火炎竜】は同時に5発の火炎を放てたぞ!でなああ!」

 「くっ…馬鹿にして…」


 ライナは必死にスキルを連射し、軌道を変えて攻撃するが、もう当たることはない。

 全て寸前の所でかわし、挑発する。


 「相手にするのも飽きたわ!あばよ!」

 「こら!待ちなさい!」

 

 ライナの攻撃を見切ったことを確認し、森の中へと去っていった。



==========



 「こら!待ちなさい!」

 ライナは追いかけるが、男性と女性の間には身体能力に差がある。

 徐々に遠ざかっていくのを感じながら、次の一手を考えた。

 

 つまり、逃げるか【ビクスキ】の行使を狙うかである。

 女性に触れさえすれば行使されるらしいが、魔法攻撃を連発されると流石に難しい。


 「ちゅーとりあるとは恐らくこのライナとの対決…しかし無理に戦う理由はないし…」

 

 迷いながら、ライナの方をちらりと見る


 「くっ…ファイア…!」

 相変わらず当たらない炎魔法を連発していた。

 疲れてきたのか、精度も落ちてそこかしこに炎が命中している。


 それによりー


 火災が発生していた。

 スキルによる炎は通常の炎とは違う。

 みるみる燃え広がり、煙が立ち込め始めていた。


 「ごほっ、ごほっ…」

 ライナが煙にせき込み始める。

 おそらく体力も限界だろう。

 俺は逃げ切れるが、ライナは逃げ切れない可能性が高い。

 つまり、死。


 (…仕方ないな)


 俺は前方に視線を戻し、を発見した。

 コンチの見せた映像を思い浮かべながら、決意する。




 ここで見捨てたら、にはなれない。



==========



 「はあ…はあ…」

 息が、苦しい。

 でも立ち止まれない。 

 あのゴブリンを倒すまでは…


 (本当に、そうなのかな)


 心の中の想いを振り切り、前を走る男性に【木の杖】を向ける。

 あれは、きっとゴブリンに違いない。

 一人ぼっちになるのは、嫌だ。

 怖い。

 誰か助けて。


 ふと、ゴブリンが足を止めた。

 理由はすぐにわかる。


 「崖に、追い詰められるなんて。やっぱりゴブリンじゃない…」

 私は、木の杖を向けた。

 もうゴブリンに逃げ場はない。

 最大のチャンス。


 「ファイア!」

 自分の唯一のスキルを放った。

 みるみるゴブリンに近づいていく。

 

 これできっとー、

 

 「え!?」

 

 でも当たらなかった。

 ゴブリンが、崖から飛び降りたのだ。

 火炎がむなしく飛んでいく。

 そして、静かになった。


 「死んだ…?」

 どうしよう。

 死体の一部でも持ち帰らないと、任務達成を証明できない。


 慌てて崖の近くに駆け寄るとー、


 「…!」




 崖から勢いよくゴブリンが飛び出してきた。

 突然のことに対応ができない。

 後ずさったが、背中に何かがぶつかる。

 木だ。

 逃げられない。

 

 その間にゴブリンは急速に距離を詰め、息がかかる距離まで接近を果たしている。

 まじまじと見つめると、やはり人間。



 いずれにしろ、完全に追い詰められた。



==========



 レムーハに住む人間はほとんど女性なので、フシがある。

 だから、崖の縁にしがみついた後、一気に飛び出して距離を詰めるといった芸当を、人間にできるとは想像できない。

 ライナも、恐らく俺を本気でゴブリンと思っていないだろう。

 そこに隙があった。


 「…!」

 ライナは気の毒になるぐらい恐怖の表情を浮かべている。

 あとは、触るだけ。

 そうすれば【ビクスキ】の威力が分かる。

 問題はどう触るかだがー、


 (…いや。反撃を警戒するにしても、殴るなんてかっこ悪いだろ)

脳内に一瞬を浮かんだ選択肢を排除。


 もっと良い方法がある。

 スキルは詠唱を唱えないと発動できない。

 つまりできるだけ方法はー、

 

 (あれをやってみるか…)


 コンチの記憶で見た光景。


 「すまないな」

 「え…?」 

 

 ライナに一言謝りー、




 その唇を塞いだ。

 自分の唇で。




 (男性ドミー。女性の【支配】を開始します)


 脳内で、誰かの声が響いた。

 

 ちゅーとりある、完了。


 

 次回予告


 第4話 【支配】とチュートリアル


 「じゃあ今からチュートリアルはじめよっか!」


 天使は意地悪ではない。

 ただ空気が読めないだけ。

 

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