新第2話 ドミー、天使に力を与えられる

 「…」

 

 気が付くと、俺は森の中で倒れていた。

 木が少なく、円形の空地のようになっている。

 空には、満月が浮かんでいた。


 (死ぬなこれ)

 

 あまり体に感覚がない。

 ふわふわとした浮遊感だけがある。

 助ける者もいない。


 (まあいいか…スキルを持たない男性はいずれこうなる運命だったんだ)


 自分なりに、肉体を鍛えた。

 わずかにもらった給料で買った本を読み漁った。

 奴隷として酷使されていたところを【アレスの導き】に拾われたときは、なんとか人生の転機を見つけようとしてあがいた。


 でも、このレムーハとかいうクソったれな世界は、俺の努力を否定するだけなのである。

 それが、男性として生まれた者の罪だと言わんばかりに。


 「大丈夫かい?」


 幻聴まで聞こえ始めている。

 このまま別の世界に転生でもしないものかな。


 「うーん、じゃあこの世界の法則に則って…【キュア】!」

 突然唱えられる治癒スキル。


 Cランクレベルのスキルにしては、かなり強力に作用している。

 肉体に感覚が戻ってきて、俺は起き上がれるようになった。

 …複雑な気分だが。


 「一応礼は言う。だが物好きだな。男性の俺を助けるなんて」

 「なーに、礼はいらないさ」


 ーゆったりとした純白の服装。

 ー長い金髪。

 ー肩から伸びる羽。


 スカートからすらりとした足がなまめかしい。

 黙っていれば絶世の美女、というか神話に登場する天使なのだがー、

 

 「僕はコンチ。細かい説明は省くけど、神様みたいな存在かな」

 

 「そして、男性でもある」


 20年の人生で初めて出会う存在だった。



==========



 「嘘だろ…」

 俺は思わずうめいた。


 「本当だよ?」 

 「し、証拠を見せてくれ!」

 「お安い御用さ!じゃーん!」 

 「なっ!?」

 

 上着をたくし上げたコンチを見て驚愕する。


 「なんて、なんて立派なシックスパックなんだ…!8個もついてる!!!」

 「でしょ?こう見えても僕、体には自信あるんだ」

 「もしや…も?」

 「もちろん、も完全完備!見たい?」

 「いや、それはやめておこう…とりあえず、あんたは男で、レムーハの人間に奇跡をもたらすとされる天使なんだな?」 

 「いかにも」

 「よし分かった!」


 よくわからんが、どうやら俺の願いを叶えに来たらしい。


 だとすればー願うべきは1つ!


 「コンチ!!!」

 「なんだい?」


 「俺をー」




 「俺をドミーちゃんにしろ!!!超かわいく!!!」



==========



 「…へ?」

 コンチがぽかんとしているのも無視し、俺は頼み込んだ。


 「この世界で生まれてきて、俺は気づいたことがある…それは、ということだ!!!」

 「…」

 「ドミーちゃんになって、なんか適当にスキルでも発現したら、あの3人衆どもも…ぐへへへへへ」

 「ごめん。悪いけどそれは無理だ」

 「なにっ!何故だ!ドミーちゃんが可愛くないというのか!?」

 「いや、そうじゃないんだけど。にそれは困るというか…」

 「そんな…ドミーちゃんの夢が…」

 

 がっくし。

 

 思わず膝を付いた俺に、コンチは優しく語りかける。


 「それに、君が女性になる必要なんてないよ。君には、人より優れているところがたくさんあるんだから」

 「ふん、気休めだな。男性が活躍できる世界なんてー」

 「なにを言う!男性でも活躍できるさ!」

 

 コンチは両腕を広げる。


 「君に、別世界で男性が活躍する姿を見せてあげよう!!!」


 すると、俺の視界に不思議な映像が映し出された。



==========



 「この国のリーダーは力強い男性でなくてはならない!!!」

 壮年の男性が、力強く国民を導いている。


 「○○選手、世界新記録を突破!!!」

 歳若い男性の走者が、世界大会で素晴らしい成績を残している。


 「今回の科学賞受賞は、チームの支えがなければ有り得ませんでした」

 男性の科学者が、人々の前で誇らしげに話している。

 

 「俺の女に手を出すとは、命知らずな奴だな」

 男性がかっこよく女性を守り、暴漢を撃退している映像が流れる。


 「きゃー!○○さまかっこいー!!!」

 俺より若い男性が、女性たちから歓声を浴び、嬉しそうにしている。


 強い男性。

 世界で活躍する男性。

 女性から慕われる男性。


 その後も、あらゆる分野で活躍する男性たちの映像が流れていった。

 夢中で見ているうちに、最後の映像へと切り替わる。




 裸で抱き合う、男性と女性だ。


【男性】が奴隷として扱われているレムーハでは、【女性】の体に触れるなどありえない光景である。


 それだけではなく、2人は抱き合い、口づけを交わしー


 そこから先は、何をしているのかいまいち良くわからなかった。

 しかし、女性は顔を上気させ、何かを叫んでいる。

 俺のシックスパックを見たロザリーが、をしていた気がする。


 やがてー、


 女性は痙攣して、動かなくなった。

 何をしているか分からないが、その光景に俺は強く惹かれた。



==========



 「君が男性代表として、この世界にバランスを取り戻すんだ。君ならできる」

 放心状態の俺に、コンチがささやく。

 

 「そのための手助けとして、1つスキルを授けよう。君が、本当に欲しかったものだ」

 「スキル…」

 「ああ」


 コンチは、俺に右手を伸ばした。


 「再び立ち上がらんとする男性に、このスキルを授ける!」


 俺はー、


 「…仕方ないな」




 「もう一度だけ頑張ってみるか!!!」


 コンチの右手をしっかりと握った。


 

==========


 「おおお!?・・・」


 強烈な感覚。

 体の奥から電流がほとばしり、全身を襲う。

 思わず座り込み、ブルブルと震えてしまった。


 「この世界の女性はほとんど性的欲求を封印して生きてるから、さぞかし効くだろう。君に触れた女性は、この感覚を一瞬で味わうことになる」

 「…3人衆もか?」

 「もちろん!」


 コンチは興奮しているようだった。


 「この世界の女性は、この感覚に異常な幸福感を感じるんだ!君の生身に触れた女性は、皆君を求めるようになる。世界中の男性は、君を知ったら羨むだろう!」


 そして、このスキルの名前を告げた。


 「触れた女性をビクンビ〇ンさせるスキル」


 「その名も【ビクスキ】だ!!!」



==========



 「いや、【ビクスキ】はちょっとダサいすね。受けが悪そう」

 「えええええ!?」

 

 熱くなってるコンチには悪いが、冷静に評価した。


 「でも、勇気が出たぜ。明日からビクンビ〇ンさせまくりだ!」

 「…元気が出たならなにより。とりあえず、スキル名は【支配】でもいいか」

 「【支配】…?」

 「いずれ分かるさ!」


 コンチは羽を広げ、去っていく。


 「おい!せっかく友達になれたのに…」

 「その他にもいろいろな制約や機能とかあるけど、使っていくうちに分かるから大丈夫だよ!君ならできるさ」

 「…ああ。分かった」

 「あ、あとこの後チュートリアルあるから!少し待っててね」

 「ちゅーとりある…?っておい!」


 そして、あっという間に見えなくなった。



 次回予告


 第3話 ドミー、女冒険者を【支配】する


 「私は冒険者ライナ!ゴブリンよ覚悟しなさい!」


 自分を攻撃しに来た女性に対し、ドミーのがさく裂します。

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