第19話聖剣は使いようによって魔剣に変わる。こともある。

 何度目だろうか。いや、何度だって、地球が反転しても、時空が歪んでもこの事実だけはどうにも変わらない気がする。

 俺の足取りはまるで靴の中に鉛を流し込み、足首を固定されているかのように重い。

 隣に勇敢な陸軍が行進していても、後ろから夜叉面で鎌を振り回した暴漢に追いかけられていても変わらないだろう。

 さらには寝不足で、俺の顔は惨憺たること間違いなし。

 瞼は重く、頬を触ればいつもの2倍の大きさに。

 某有名なあのパン工場で「新しい顔よ!」ととてつもない球速と回転でとんでもないパンを交換されたような・・・・。

 今回に関して言えば、いつものように自分の非を言い訳できる材料がこれといってなく自業自得で、あの時のテンションに身を任せず、自分のことを1度俯瞰すればこんなことにはならなかった。

 萌衣という我が部である『読書活動研究部』の唯一で絶対的な王の意見に唯々諾々しなければ、自分の意見を言えればこんなことにはならなかっただろう。(まぁそれが出来ていたらもっと解決できる問題はあるんだが。)

 つまり何がどうなってこうなったのかという具体的な話をするならば、俺が萌衣と結託して霞をハブにし、それにキレた霞が夜中、俺に鳴りやまない怒りのメッセージをラ〇ンで送ったという事だ。

 だからこそ俺は寝不足で、さらに霞とは席が隣という事で足取りが重くなったということで・・・・。






 昨晩のことだった。

 空は漆黒の闇に包まれ、月は雲に隠れて見えなかった。

 綺麗に星が見える訳でも、何とか彗星が降り注ぐわけでもなく、夜の良さが霞む。

 それは俺の心を形容しているようで、町中で黒猫を見たような不吉さが稲妻のように体中を駆け巡る。

 最近は町中で黒猫を見ても不吉だと思うよりも可愛いと思う事の方が多いが。

 この時間になると、一般家庭は夕餉を済まし、風呂に入り一息つく。

 そんな至福で至高の時間。

 趣味に没頭したり、スマホとにらめっこしたり、十人十色の過ごし方があるだろう。

 具体的に言えば22時30分。

 大いなる主観がグミに入る化学製品くらい混じっているかもしれないが、今はそんな事どうでもいい。

 問題は事件の起きた時間。

 それだけに着目していただければ結構だ。

 時計の秒針がカチッと音を鳴らし、その時刻を指し示したその刹那、俺のスマホもピロンと音を奏でる。

 それは俺にとって悪魔生誕の知らせ、猫が背後に置かれたキュウリに気づいて飛び跳ねるくらいに恐れ慄いた。

 もちろん通知音恐怖症の様な精神的疾患は無く、至って正常で平常。

 ヘイヨ~ワッツアップメーン!ってくらい元気なんだが。(いやこれは空元気か。)

 とにかく精神的にも身体的にも言い訳のきかない、正常で健全な右手を最近活発になった元携帯型漫画(そもそも漫画も携帯できる)現時限爆弾のスマホに手を伸ばす。

 指紋でパスワードを解き、ラ〇ンを開く。

 嫌な予感は的中。ダーツなら真っすぐブルに突き刺さり50点をもぎ取った感じ。

 まぁそんな良いもんではないし、矢が突き刺さったのは実際俺の心臓のブルなんだけど・・・・。

 つまり何が言いたいんだよメーン?

 つまり霞からラ〇ンが来ていたんだよメーン・・・・。

 こんなくだらない自問自答をするくらいに気が動転している。

 『堕天しました。』

 そんなメッセージが届いていた。

 怒っている?んだよな?

 真意が伝わりにくい。

 そもそも霞は天使だったのか?

 どうやら俺はいつの間にかチャネリングしていたようだ。

 そして今度は堕天使と。

 まさにスピリチュアル。スピリタスでも飲んで潰れて寝たい。

 この現実から逃げ出したいというのが本音だ。

 ただ、逃げても明日には会う。

 天網恢恢疎にして漏らさずとはまさにこのことである。

 とりあえず謝罪からだよな。

 言い訳の前に謝罪。これはこれから社会で生きていくための処世術でもあり常識。

 俺は震える手(目が泳いで手が震えて見えるのかもしれない)でスマホをタプタプし『ごめんなさい』と送る。

 その後は自分の心を1度閉じるかのように右手の親指でスマホの画面を闇に染めた。

 未だにこの現実を受け入れられない自分の甘さか、逃げの1手なのか、俺の心はそれを理解するほどに素直ではなく、四方八方に汚い五芒星を描くかのように絡まっている。

 そのことにすら納得しておらず・・・・。まぁ難しいお年頃という落とし方が1番適切だろう。

 流石に送ってすぐに既読が付き、返事が返ってくるまい。

 ・・・・あっこれ立てちゃったな。

 スマホが震え、深い闇に覆われていた画面が光の力で目を覚ます。

 『うちの電波から逃げられるとでも?今更謝ったってもう遅いわ。うちのうどんの様なコシのある白い翼は茄子の様な邪悪な闇に染められてしまった。』

 ・・・・お腹空いてるのかな?

 コシのある翼で飛んでる天使を想像する。(そもそも陸にいる天使すら見たことないけど)

 うん。キモイ。

 それに・・・・多分だけど茄子嫌いなんだろうな。

 邪悪な闇ってそれは食べ物の色を形容するような言葉ではないし。

 かく言う俺もキノコはどうしても食べられない。

 あれは誰が何と言おうと菌だ。

 体への良し悪しはともかく菌だ。

 そんなものを口にしようなんて、想像しただけで・・・・ウェ。

 あんなのものを好んで口にしようとする奴は、自分の体で培養しようとするマッドサイエンティストかなにかとしか考えられない。

 閑話休題。

 とにかくこの返事をどうするべきか。

 少しエスプリを聞かせている辺り落ち着いたのか。

 それとも怒り慣れていないからいつもの調子が出ないのか。

 まだ出会って日の浅い霞のことを手に取る様に理解するのは、高校で友達を5人作れと言われるくらい難しい。

 そんな自分に相変わらず嫌気がさす。

 いっそ俺が高校で友達が出来ないのは予定調和だと誰かが断言してくれればどれだけ楽だろう。

 そうなれば諦めもつく。あっ。俺まだ諦めてないのか。

 某バスケ漫画の先生曰く、諦めたらそこで試合終了らしいから俺にはまだ可能性はある・・・・んだよね。






 空は俺の不安を無理やりこじ開けるかのように明るく快晴で、外から野球しようぜなんて聞こえてきてもおかしくない。

 神様は俺の心を扇動したいのか、あいつに憐憫の情は無いのだろう。

 今日をもって改めて実感する。

 茹だる体を起こし、現実を直視する。

 もう1度言おう。

 空は俺の不安を無理やりこじ開けるかのように明るく快晴・・・・おっはようごぜぇやす。

 そして俺の人生おやすみなせぇ・・・・。

 手元には昨日の戦いの道具(スマホ)が裏側守備表示で召喚済み。

 とりあえずどうしてこうなったのか回顧する。

 たしか返事を推敲していて・・・・それで・・・・。

 はぁー。アンニュイだ。

 誰が何と言おうと俺が悪い。

 どうして寝たんだ。

 「あはっ。あははははははあひゃひゃひゃ。」

 破顔一笑。

 もう笑うしかない。

 詰んだ。チェスならチェックメイト。

 高校生活というキングの逃げ道はもうない。

 いや、ポーンか?

 今なら空飛べるんじゃないか?背中に羽生えてるんじゃね?もしかしたら輪っかとかも?

 地面に魔法陣が?「俺は死んだのか?あの娘はどうなった?」とか言わなきゃな。

 そもそも人って他人のことを命張って助けるほど余裕ねぇだろ。

 そんなことできる時点でそいつは選ばれた人間なんだ。

 だがそんな奴に限って俺は平凡だとかぬかしやがる。

 ははっ。面白い。

 「ジャキィーン!聖剣エクスカリバー!世の中の不条理と自分への不条理をぶった切る!」

 しかし、本当に聖剣エクスカリバーがぶった切ったのは・・・・。

 「お、お兄たん。朝ごはんできたよ・・・・。」

 自室の扉と、神妹の信頼だった。

 今の俺にできることは現実逃避だけだったが、今この瞬間、ブラックホールの如く引力で俺を現実へ引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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逆高校デビューでも青春はできる? 枯れ尾花 @hitomu

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