第13話好きの定義(中)
2人分の昼食代を払い店を出た。
昼食を食べている間は色々あって重々しい空気が流れていたが、今となってはそれが嘘かのように上々の空気感、まさに天使の羽のように軽い。
空気を作っているのはまぎれもなく、我がお出かけ相手である萌衣だ。
つまり、萌衣の機嫌がよくなったという事である。
俺が申し訳なさから萌衣の分の昼食代を出してからというもの、態度が一変した。
お金って偉大だな。困ったことがあれば何でもお任せって感じだ。
も、もしかすると俺も前〇社長のようにお金を配れば友達ができるのでは!
・・・・・・あ、危ない危ない。
この考え方にだけはなってはだめだ!
お金に使われる人生にはなるまい。
萌衣曰く買い物は満足にできたらしく、俺たちは次にアウトレットパーク内のアミューズメントコーナーに向かう。
ちなみに俺は1着も服を買っていない。
だが両手には大量の買い物袋があった。
もちろん萌衣の。
不平不満は1摘みの砂糖に群がる蟻ほどあるが、決して口には出さない。
口に出したら最後、萌衣の機嫌は急降下。
下手をすれば殺されてしまう。
「陰太君、歩くの遅いわよ。」
「は、はい。」
チっ!こっちは荷物持ってんだよ。
こんな感じで、心の中では不平不満を言わせていただいているが・・・・。
そんなこんなで、アミューズメントコーナーに到着する。
俺たちが昼飯を食べた店から5分ほど歩いた距離にある。
そこには、そこらのゲーセン顔負けのボードゲームから、クレーンゲーム、コインゲームなどがあった。
服を買うためで無く、ここにゲームをしに来る人がいてもおかしくないほどだ。
実を言うと、俺は結構ゲーセンが好きだったりする。
特にコインゲームが好きで、自慢ではないが9999枚を叩き出した経験もある。
数ある中から萌衣は一体どのゲームを提案してくるのだろう。
お前は何も意見しないのかって?
馬鹿野郎!俺に決定権なんてないんだよ!
「何からするんだ?」
「そうね。とりあえず、プリでも撮ろうかしら。」と既に3カップル並んでいるプリ機を指さして言う。
ちなみにプリ機は並んでいるものの他に8台程あった。
その8台には人は全く並んでいない。
「なあ、そのプリ機、並んでるぞ。他のにしないか?」
俺は空いている方を提案する。
同じような台がいっぱいあるのに、あえて並ぶ必要なんてないだろう。
「これだから童貞は。あっちは旧機種、こっちの並んでるのは新機種。しかも、ほら、あのプリ機のカーテン、藤田ニ〇ルじゃない。確実に盛れるわ。だから絶対あれにするのよ!」
ど、童貞だと。確かに事実だが、改めて口に出されるときついものだ。
ちょっと待て、俺のことを童貞だといじるという事は、まさか萌衣卒業しているのか?!
いや、待て待て、確か彼氏いるか聞いたときいないと言っていた。
そうだ!まだしていない!そう信じよう・・・・。卒業してませんように。
「ちょっと!誰に祈り捧げてるのよ!ほら、並ぶわよ!」
そう言って萌衣は、天に向けて祈りを捧げていた俺の両手を掴み、藤田ニ〇ルのプリ機へと並ぶ。
俺の祈りは別の意味で叶ったようだ。
神様、萌衣の手はスラっと長く、だからと言って骨っぽくなく、ぬくもりを感じる幸せな感触ですよ。
待ってろよ、藤田ニ〇ル!俺たちのラブラブぶりを見せつけてやる!
ニ〇ルのプリ機に並んでから15分ほどが経った。
ようやく俺たちの番が来たようだ。
言うまでもないかもしれないが、俺の両手は先ほど同様、荷物に埋め尽くされている。
さっきまでのぬくもりは何処へという感じだが、プリ機に到着した瞬間、俺の手はごみのようにあしらわれた。
今度は俺から繋いでやろうか!この野郎!
「それじゃあ、ここに荷物を置きましょう。」
俺はその声と同時にプリ機内の荷物置きに大量の荷物を置く。
今現在、俺たちはグリーンバックを背にプリ機のカメラ前にいる。
ちなみに、今回も昼飯同様俺のおごりだ。
この際はっきり言わせていただきたい。
2人で来るプリクラは200円ずつの割り勘が常識じゃね!と。
これってケチな考え方なんだろうか。
400円くらい払えよという意見が一般的なことは分かっている。
それに、男女でのお出かけは、基本男がお金を出すことももちろん理解している。
でも!2人だけの空間で、2人だけの思い出を作るのに、1人の男がお金を払ってしまうとなんだか思い出をお金で買ったみたいじゃないか!
つまり何が言いたいのかというと、そろそろ金に余裕がなくなってきた!
「はいけいをえらんでね。」
俺たちはそんな機械の指示通りに全ての設定を済ませこれから撮影に臨む。
プリクラは何度か友達(中学の頃にいた)と撮ったことがあるが、得意ではない。
なんせ、ポーズが恥ずかしすぎる。
猫やら犬やら流石にきつい。
だが、今回は萌衣と一緒だ。
萌衣猫や、萌衣犬が見られるんだ。恥なんて捨ててやる!
「それじゃあ、さつえいをはじめるよ。まずはゆびはぁーと!」
そんな機械のアナウンスに従い、俺たちは指ハートをする。
まぁ、無難なポーズだな。
「ないすぽーず!じゃあつぎは、ふたりでおおきなはぁーとをつくろう!」
・・・・はぁ!?えっ、なにこれ。
なんかちょっと違くない?
思はず萌衣の方に視線を送る・・・ってもうハートの半分出来てる!
萌衣が恥ずかしがらずにやってるってことは、普通なんだろうか。
俺ももう半分のハートを作り萌衣のハートに合わせる。
「おっけー。ないすはぁーと!じゃあつぎはばっくはぐ!さあさあ、ぐいっといっちゃおう!」
「なんだこれっ!」
ついつい機械につっこんでしまった。
少々過激すぎないか!
「陰太君、うるさいわよ。これぐらい普通よ。」
「す、すまん。ってこれが普通なのか!?こんなの俺が知ってるプリクラじゃないんだけど。」
「何言ってんのよ。最新機種よ。陰太君が知らないのは当然じゃない。ほ、ほら早くしなさいよ。」
そう言って萌衣は俺に背を向ける。
逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。
でも、これはやばい。
はぁー緊張する。
「おいー。がっちりつかんじまえよ。ほれほれ。」というプリクラさんの甘々声でせかす声が聞こえる。
どうやら最新機種とやらはこういうこともするらしい。
ああーっ。いくっきゃねーな。
「いくぞ、萌衣!」
「うん。」
俺は萌衣の両肩に手を回す。
その肩はいつもの大きな態度とは裏腹に、小さく儚いものだった。
少しでも力を入れてしまえば、ジェンガのように崩れそうな、でも何故か人を惹きつける、そんな不思議な引力がある。
しかも、萌衣めっちゃいい匂いするし。
全ての柔軟剤の製造会社に告げたい。
フローラルの香りやらシトラスの香りやら、想像しずらい名前で発売せず、『萌衣の香り』で売ればいいと!
「ちょっと、陰太君。もう撮影終わってるわよ。」
「あっごめん。」
どうやらバックハグの撮影は終わっていたようだ。
俺は萌衣の両肩と香りの魅了にやられていたのか・・・・。
「やっぱり、童貞ね。」
「う、うるせー!」
「何よ、事実でしょ。」
「萌衣だって経験ないだろ!」
「やだっ!それセクハラよ!」と自分の体を守るかのように言う。
「男女差別だ!」
そうだろう?こんなのおかしい。
「男女区別よ。」と堂々と誇らしげに、自分の意見がすべてかの様に反論する。
まさに独裁者。現代のヒトラーとはこの女のことを言うのかもしれない。
「おふたりさん、そろそろいちゃいちゃするのはやめていただいてよろしいですか?よんまいめがのこってるんですけど。」とプリクラさんのアニメ声優の様な可愛い声で呆れられながらも、いたずらっぽく告げられる。
声こそプリクラって感じだが、さっきからこいつの声が妙に人っぽいというか、何というか。
最新機種すげぇ。
「イチャイチャなんて、あなたの目は節穴?これは調教よ。」
「あーはいはい。そうですか、おじょうさま。それではよんまいめいきますよ。」
会話しちゃってるよ!
もう何でもありなのか、てかお嬢様?女の子にはそう呼ぶ設定何だろうか。
いちいちつっこんでてもきりがないな。
さっさと最後の撮影を終わらせるか。
「んんっ。それじゃ、さいごは・・・・・・・・きすぷりだよ!おとこのみせば!さいごにふさわしいだいたんないちまい!これがなきゃぷりくらをとりにきたいみなし!ぶちゅーといっちゃえ、まうすとぅーまうす!」
今日1番の甘々、萌え可愛ボイスが炸裂する。
音だけ拾えばとろけそうな可愛いものなんだが・・・・。
「できるわけないだろーー!」
前言撤回!ここはつっこませていただく。
萌衣なんて俯いて何も言えなくなってるじゃないか!
バックハグの後だから嫌な予感はしていたが。
ここまでだとは思っていなかった。
「なにいってんのさ。ぶちゅーといきゃあいいんだよ!ほれほれ。はやく!」
「ばかか!俺たちはそういう関係じゃないんだよ!萌衣もなんか言ってやれよ!」
俺はさっきから俯き続けている萌衣に話を振る。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「おじょう、だいじょうぶですか?ここがちゃんすですぜ!おじょうからいくってのもありですぜ。」
興奮が収まらないのか、プリクラさんは早口で萌衣に話しかける。
それも好きな女の子にちょっかいをかける男子小学生のように。
俺も萌衣とは割と長い時間を共にしているからなんとなくわかるが、プリクラさんご愁傷さまです。
「姫香。あなた調子に乗り過ぎよ。」
「え・・・・。でも、おじょうがここでしょうぶするって・・・・。」
「黙りなさい!あなた分かってるわよね。」と声こそ落ち着いているものの、しっかり殺意と嫌悪のこもった言葉がプリクラさん?に刺さる。
「・・・・はい。それではよんまいめはじゆうなぽーず。いぬねこなんていったどうぶつでもよし、はやりのポーズでもよし、おうどうぴーすでもよし・・・・。わたしははんせいぶんをかかせていただきます・・・・。」
声こそ先ほど同様ハイトーンで盛り上がる感じだが、どこか世界の終末感が漂う。
「じゃあ陰太君、猫のポーズにしましょうか。」
そう言った感じで俺たちは『ニャン』と言わんばかりの猫のポーズをして最後の1枚を飾った。
色々気になる事があるけど、萌衣猫見れたしいっか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます