第12話好きの定義(前)
今日は待ちに待った土曜日。
俺は言われた通り、駅前で待っていた。
11時集合だが今の時間は10時50分。
10分前には到着するという完璧な気遣い。
後は萌衣が来た時に陽奈たんから教わったあの言葉を言うだけだ。
現在の時刻は10時57分。
そろそろ来てもおかしくない時間だ。
やばい、緊張してきた・・・・。
「わっ!」
後ろから背中を押される。
「ひゃ。」と思わず変な声が出た。
恐る恐る後ろを振り返ると、ぴちっとした黒スキニーにあえて抜け感を出すゆるっとした水色のロンT、そんなコーデに合わせるかのようにいつもはおろしている前髪を今日はかき上げている。
そう、プライベートの萌衣がいた。
今は春とも夏とも言えない微妙な季節。
半袖では少し肌寒く、かといってトレーナーなんて着れば暑い。
まさに萌衣にも似合い、かつ季節に合わせた完璧なコーデ。
俺は驚かされたことなんて忘れたかのように見とれてしまっていた。
「ちょっと陰太君大丈夫?」
おお、危ない危ない。言い忘れるところだった。陽奈たんに教えてもらったあの言葉を。
「待ってないよ。今着いたばかりだよ。」
「本当に大丈夫?」
萌衣はかつてないほどに心配そうな顔で問いかける。
俺はその顔のおかげでなんとか萌衣の魅了の術のようなものから解けた。
「あ、ああ。大丈夫だよ。ついつい萌衣の新鮮な姿に見惚れちゃって。」
「な、何言ってるのよ!本当に陰太君は口が上手いのね。」と萌衣は顔を真っ赤にしてまくしたてる。
口が上手いなんて、嘘ついたわけじゃないのに・・・・。
まあでも、初っ端から萌衣ちゃん化が見れたわけだし、幸先のいいスタートが切れたんじゃないかな。
俺たちは電車に乗り、目的地に向かう。
ちなみにその目的地の場所はまだわかっていない。
萌衣曰く、着いてからのお楽しみよということらしい。
先週から楽しみに待っている俺からすれば我慢の限界一歩手前まで来ているんだが。
そうこうしているうちに、目的地に到着したらしい。
「ここよ。」
電車から降り、駅を出てすぐに見えるある場所を指さして言う。
そこは誰もが知っているアウトレットパークだった。
まぁいわゆる有名お出かけスポットであり、男女で行けば有名デートスポットにもなり得るような場所である。
西洋的なレンガ造りの道に、たくさんの有名ファッションブランドのお店が並んでいる。
それ以外にも、飲食店や観覧車など1日中楽しめる場所が盛りだくさんなスポットである。
でも、どうして萌衣は数あるお出かけスポットの中からここを選んだんだろう。
その答えはすぐに出た。
「今日の陰太君の両手は私のものよ!」
一見ドキッとする言葉に聞こえるかもしれない。実際ドキッとした。
だが実際はドキッどころかイラっとする発言だった。
到着してすぐに入った洋服店。
買い物が終わり萌衣の両手には購入した服の買い物袋が2つ。
「じゃあ陰太君よろしくね。」と満面の笑みで買い物袋を俺に託す。
つまり今日の俺の役割は萌衣の荷物持ちということだ。
デートだと舞い上がっていたのは俺だけだったのか。
荷物持ちというぞんざいな扱いにもちろんイラっとしたが、なんだろう胸の奥でゾクゾクする。
俺って気づいていないだけで本当はマジのドМなんだろうか。
いや、そんなはずは・・・・。
そんなこんなでその後も萌衣の買い物に付き合い、満足したのか遅めのお昼ご飯を食べようということになった。
現在の時刻は午後3時。
朝から何も食べていなかった俺はお腹が空きすぎて餓死寸前だった。
ちなみに俺はここに来てまだ1銭も使っていない。
アウトレットパークに来て約3時間。
ありえない。
昼飯だけはたらふく食ってやろう。
俺は萌衣に焼き肉を提案する。もちろん食べ放題の。
だが萌衣はあきれたという顔とともに「バカなの。」と蔑む。
「女の子と遊びに来て焼き肉なんて、ありえないわ。ふつうおしゃれなカフェとかでしょ。」
そう言いつつも、仕方ないわねという感じで焼き肉店へ向かってくれた。
「こちらの食べ放題のコースが2つでよろしかったでしょうか?」
「はい。お願いします。」
店員さんとの会話はこの時と、会計のときが基本最後でこの店はオーダー式でタブレットを使ってお肉を注文する。
俺はとりあえず萌衣にタブレットを渡し、萌衣の注文が終わるのを待つ。
レディファーストができるいい男だぜ。
そんな自分に酔いしれていると、萌衣の注文が終わりタブレットが回ってくる。
とりあえず、萌衣がどんだけ注文してるか見てから注文するか。
何気なしに萌衣の注文したものを見ると、2人でギリギリ食べきれるかどうかって感じの量を注文していた。
萌衣実はめちゃくちゃ腹減ってたんじゃ・・・・。
そんなことを思いながら、俺は何も注文せずにタブレットを元の場所に戻す。
これ以上注文すれば間違いなく食いきれない。
俺たちは注文した肉を待っていた。
2人とも疲れていたのか無言だった。
そんな空気を破ったのは、今日のお出かけの企画者である萌衣だった。
「陰太君。今日何で荷物持ちやらされているかわかってる?」
「えっ。萌衣が荷物持ちたくないからじゃないの?」
「はぁ。自分の罪状もわかっていないなんて。」
また呆れられた。
俺何か罪を犯したっけ?
全然思い当たる節がない。
「お、俺何かしたかな?」
「本当に分かってないのね。ラ〇ンを見なさい。」
俺は言われた通りラ〇ンを見る。
んー、いつも通りなんだが。
最後のラ〇ンは霞とのあのやり取り。
・・・・・・・あれ、霞のアカウントの画像変わってる。
霞、俺が教えたことをしっかりできてるじゃないか。
なんか嬉しいな。また色々教えてやるか。
でも、ん?この画像すごい既視感がある。
「気づいたかしら。陰太君友達少ないからすぐわかると思うんだけど。」
しれっと毒を吐いているが、多分この画像の事なんだろうな。
霞の奴、よりによってこの画像使いやがって。
まぁ霞、この画像しか持ってないから仕方ないんだけど。
こんなことなら、ネットで画像を保存する方法教えてやればよかった。
ちなみにさっきから言ってる画像は俺と霞が教室で2人で撮った画像で、なんだかんだ気に入ってる画像の事である。
でも、この画像霞は変な顔しているが一応誰か分かる。でも俺に関してはピンボケしていて誰かわからないと思うんだけど。
「理由はなんとなく分かったんだけど、どうしてこれのせいで俺が荷物持ちしているのかが分からないんだけど。」
嘘である。
萌衣の奴嫉妬してるんだな。
ホント可愛いな。
「ふん。教えてあげるわ。これを見なさい。」と萌衣はとあるラ〇ンのトーク履歴をこちらに見せる。
俺は恐れ多くもそのトーク履歴を見る。
トーク相手は・・・・『神のいたずら』!?
多分萌衣が相手の名前を変えたんだろう。
好んでこんな名前にする奴俺は知らないし、知りたくもない。
それにしても悪口が神規模!
流石と言うべきだろうか。
まぁ、相手は言わずもがななんだけど、一応言わせてもらおう。
霞である。
なんだかんだ言って友達追加してるんだなと思ったが、そんなことは無くラ〇ンはどちらかが友達追加していれば話すことができる。
その機能を使っているようだ。
ちなみに友達追加しているのは霞である。
話している内容を要約すると、霞が俺と撮った写真を萌衣に自慢しているという事だった。
「あのカス、マジでうっとおしいのよね。見せつけるかのように私に画像送ってくるし、挙句の果てにはアカウントの画像にしているし。」
なんだ嫉妬してるわけじゃなかったのか。
「まぁまぁ落ち着きなよ。ほらお肉来たよ。」
「話をそらさないで!」と今から焼こうと持ったトングを取り上げられる。
「また、私をハブるようなことしてるじゃない・・・・。」と俺から取り上げたトングでお肉を焼きながら言う。
たしかに、申し訳ないことをしてしまった。
「ハブるつもりなんてなかったんだ。でも、ごめん。」
「陰太君ってあのカスにはなんか時々甘いのよね。もしかしてあいつのこと好きなの?」と萌衣の目は俺の心の奥底までを見ようと、そんな意気込みを感じさせる視線を送りながら言う。
どうなんだろう。
霞はたしかにすごい美人だ。
最近はナチュラルメイクのおかげで磨きがかかっている。
それに霞といると、萌衣といるときに感じる変な緊張感を全く感じない。
むしろ落ち着く。
昔からなじみがあるような、感じたことのある懐かしい、そんな感じがする。
でもそれが好きという感情かどうなのか・・・・。
「わからない。」これが今できる俺の最善の答えだった。
「ふーん。あっそ。」
その後はひたすら来るお肉を消費し続ける機械かのように食べ続けた。
申し訳なさから、俺は萌衣の分のお金も払う。
俺の最初の買い物は『食べ放題コース2人前』という事になった。
はぁ、みじめだ・・・・。
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