第11話変顔とブレブレ
萌衣と霞とのライン交換をした夜、俺のスマホが何の予兆もなく震える。
どうやら何かの通知が来たようだ。
俺のスマホが震えるのは、大抵漫画アプリの更新か、You〇ubeの通知くらいなんだが・・・・。
それともなんだ、超久しぶりに中学の時の友達から連絡が来たのか。
俺はそんな一縷の希望を持ちながらスマホを見る。
スマホの通知画面には『1件の新着ラ〇ン』と記載されていた。
これはマジであるぞ!中学の時の友達からのラ〇ンが!
興奮するままに『1件の新着ラ〇ン』の所をタップし、指紋認証によってロックを解除し、ラ〇ンを開く。
結果から言おう。
俺の予想は見事に外れた。
だがしかし、俺の興奮は冷めるどころかむしろさらに燃え上がった。
なんでかって?
理由はただ1つ。萌衣からラ〇ンが来ました!
女の子からラ〇ンが来るなんて中学の時ですら珍しかった。
しかも超絶美少女の萌衣からなんて・・・・。
中学の友達からのラ〇ンの100倍嬉しい。
なんて来てんだろう。
俺はラ〇ンのトーク画面に視線を落とす。
「あの事についてなんだけど、今週の土日のどちらかって空いているかしら?」
どうやら前に萌衣と約束したお出かけについてのラ〇ンのようだ。
「今週の土日はたまたまどっちも空いてるよ。」と俺はついつい見栄を張った返事を返す。本当はいつでも暇なんだがな。
「そう。私は幸せ者ね。(笑)」
あ。馬鹿にされてる。
俺の見栄はばれてしまっているようだ。
「それじゃあ、土曜日にしましょう。」と萌衣は続けて送ってくる。
「そうだね。それでどこに行くの?」
俺はさらなる疑問を投げかける。
行く場所くらい男のお前が考えろよ!とか世間一般の人から言われるかもしれない。
だが俺はそうは思わない。
女の子の行きたい所についていく。それこそが平和的解決だと思う。
「それは秘密よ。土曜日の11時に駅前に来てくれるだけでいいわ。」
な。言っただろ。むやみにここに行こうとか言わない方が賢明だって。
こんな感じで行く場所はもう決まってるんだ。
「了解。」とだけ送り、俺はそのまま眠ろうとした。
しかし、俺のスマホは今日、すごい元気だったのでまたしても震える。
萌衣とのラ〇ンは1段落ついたし、今度は何なんだ。
俺の通知画面には『1件の新着ラ〇ン』とまた来ていた。
誰だろう。でももう眠いし明日返すか。
翌朝、俺は何気なしに手元のスマホに目をやる。
スマホの電源を入れると999+件のラ〇ンが来ていた。
怖っ!なんなんだ。
俺は急いでラ〇ンを開く。
それは複数人からのラ〇ンではなく、ある1人からのラ〇ンだった。
犯人はKというアカウント、つまり霞だった。
昨日寝る寸前に来てから夜中の3時ごろまでひたすら来ている。
まるでメンヘラの彼女を持った、そんな感覚に襲われた。
こんなことになるのなら返事返せばよかったな。
まぁとりあえず、既読はつけないでおこう。
その後、俺はいつもどうり学校へ行く用意をし、学校へ向かった。
いつも通りの時間に学校に着く。
今日もここで憂鬱な時間を過ごすのかと思うと、やはり足取りが重くなる。
だが、その足取りが重くなることすら日常化しているので、結局いつも通りの時間には教室にも着いている。
そのままの足取りで、本来は陰キャにとって好待遇な窓側の一番後ろで端の自分の席に座る。
なぜ、本来はという余計な1言が付くのかって、そりゃ隣が・・・・えっ静かなんだが。
いつもは霞とその他のリア充グループのせいで最悪の席だった。
毎時間とにかくうるさい。
唯一静かなのは授業中だけである。
そういうところを見るとやはり高校デビューなのではと思ってしまう。
それにしても何でこんなに静かなんだ。
あたりを見渡すと、答えはすぐに出た。
リア充グループのリーダーである霞がグーグー寝ている。
これは一見普通のことのように聞こえるかもしれない。
だが、霞は1度たりとも学校で居眠りなんてしたことがなかった。
うとうとしている姿すら見たことがない。
原因は分かっている。
確実に俺のせいだ。あの時寝る前にラ〇ンを返していたら・・・・。
多分この感じだと授業中も寝るな。
このままだと霞の成績が下がっちゃうな。
授業中だけは起こしてやるか。
俺は罪滅ぼしもかねて、授業中何度も霞を起こした。
それをする度に周りの奴らに殺意の目を向けられる。
どうやら俺には寝ている女の子を起こす人権も無いらしい。
はぁみじめだ・・・・。
みじめな学校生活を終え、放課後になる。
クラスのみんなが各々部活やら帰宅やらでいなくなった教室に、俺と霞が2人きりでいた。
もちろんというか何というか、霞は寝ている。
授業中はなんとか俺が起こすことで起きてはいたが、終始うとうとだった。
今から部活なんだが起こさない方がいいのかな。
俺は朝から既読を付けなかった霞のラ〇ンに『部活に行ってます。』と送り部室に向かう。
もちろんラ〇ンを送れば送られた側には通知が行くわけで、霞のスマホは通知が行くと音が鳴る設定にしてあったらしくラ〇ン特有のあの音が鳴る。
それと同時に、今まで何度起こしてもうとうとしていた霞がその音を聞いた瞬間シャッキっと起き、一心不乱にスマホを取り出した。
「あんた、何で昨日すぐに返事しなかったのよ!」とさっきまでの眠そうな感じが嘘かのように勢いよくまくしたてる。
俺が何度起こしてもダメだったのに・・・・。
まぁでも謝るか。
「すまん。昨日寝ちゃったんだ。」
「まぁ謝るんなら許してあげる。何回も起こしてくれてたしね。」
起こしていたことには気づいてくれていたらしい。
身を削ってやったからなんかうれしいな。
そんな小さな感動を噛みしめていると、霞が血相を変えて続けて言う。
「そんなことより、早く教えなさいよ!」
「なにを?」
「あんたうちのラ〇ン見てないでしょ!」
たしかに見てない。
とりあえず連絡だけって感じだ。
なんて送ってあったんだろう。
俺はもう1度霞のラ〇ンを見る。
ラ〇ンに書いてあったことを簡単に説明すると、ラ〇ンのアカウント名の変更及び画像の変更、そしてスマホの壁紙の変更方法を教えてほしいということだった。
ここまで要約できた俺を誰か褒めてほしい。
霞はこの3つのことを聞くだけなのにまどろっこしく遠回しに聞いてきていた。
あくまで、スマホ初心者じゃないことを3文に1文のペースで送ってくる。
こんなんだから999+件も来ていたのか。
はっきり言ってこんな初歩的なことを聞いてくる時点で、自分はスマホ初心者であることを言っているようなものなんだが・・・・。
でもまぁここは空気を読んで気づかぬふりで教えてやるか。
「あぁすまん。今見た。それで何からする?」
「『今見た。』ってなに!すぐ見てよ!まぁいいわ。とりあえずアカウント名の変え方教えなさいよ!」
俺は霞にアカウント名の変え方を教える。
霞は俺の教えを意外にも素直に聞き、『霞』というアカウント名に変えた。
「あんたやるじゃん!見直したわ!じゃあ次はアカウントの画像の変え方教えて!」
こんなことで見返されるのは納得いかないが、素直に褒められてうれしい。
そんなことよりよく見ると霞のスマホi〇honeじゃん!
ちなみに俺のスマホも先月i〇honeになった。
入学式で『俺は〇ーグル社派だ!』と豪語していたがアッ〇ルの製品に手を出してしまっていた。
正直に話そう。
i〇honeに変えれば友達出来ると思いました。
結果は言わせないでくれ。
と話は逸れたが俺は霞に画像の変え方を教える。
「まずは自分のアカウントをタップしてみて。」
「こ、こうね。」
そういってあのラ〇ンの公式キャラであるクマをタップする。
「そうそう。そしたら右上にゼンマイみたいなマークがあるからそこをタップしてみて。」
「わかったわ。あっ!なんか画像の右下にカメラのマークがある!これをタップするってことね!」と霞は未知の発見をした探検家の様ないいリアクションをしてくれる。
正直教え甲斐のないことなのだが、ここまでいいリアクションをしてくれるのでなんか気持ちがいい。
「正解!それをタップしたら後は簡単。自分の写真フォルダーから好きな写真を選べばいいよ。」
そう言うや否や霞はまさに音速でタップする。
だが突如として霞の顔色が変わった。
「ど、どうしたの?」
「ないのよ。うちのフォルダーに写真が1枚も・・・・。」
「そんなわけないだろ。」
そう言って俺は霞にスマホを借りフォルダーを見る。
「な、ない・・・・。」
霞の方に目をやると、さっきまでのテンションは嘘かのようにどんよりしている。
でも、何で無いんだ。霞にはたくさん友達がいるのに。
普通なら友達と遊んだ時に撮った写真の1枚や2枚あると思うんだけど・・・・。
「霞は友達と遊んでも写真撮らない派なのか?」
「友達と遊んだことなんて中、高合わせても1度もないわ!高校生になって友達出来たのにあいつら誰も誘わないし。」
そう言って霞はさらに塞ぎこんでしまった。
地雷を踏んでしまったのか。
誰か誘ってやれよ!
それとも誘う勇気がないのか。
たしかに霞みたいな美人よりも美人な子を誘うには相当の勇気が必要だが。
なんにしても霞の機嫌を戻さないと。
友達と遊ばなくてもネットで探せばおしゃれな画像はあるが、教えるのに時間がかかりそうだし、部活に行かないとだし。
と、頭がオーバーヒートする寸前まで考え1つのある考えが思いつく。
だが、それはバンジージャンプなんて比にならないくらいに勇気のいる決断だった。
正直、考えるだけでも恥ずかしい。
でも、ここで行かなきゃ男じゃない。
俺は意を決して霞に問いかける。
「もしよかったら何だが、一緒に写真撮らない?ほ、ほら、俺たち親友なんだろ?」
思わず声が上ずる。
さすがに恥ずかしい。
そんな俺の問いかけに対して霞はというと、驚きを隠せないといった様子だった。
「い、いいの?それを早く言いなさいよ。親友と2ショットなんて超リア充じゃん。」
そう言って霞はさっきまでのグッタリ感がなかったかのようにスマホのカメラアプリを開く。
加工できるやつを使わない感じが霞らしい。
てか、男女2人の2ショットは親友感よりも恋人感のほうが強いんだよなー。
まぁいっか。
「霞、2人で写真撮るときは内カメにして斜め上から撮るんだぞ。」
「分かってるわよ!」
そんなこんなで写真を撮った。
霞はスマホを持つ手に集中しすぎて変な顔になってるし、俺は震えるスマホのせいでボケていた。
本来なら撮り直しだが、俺たちは思はず笑ってしまう。
それはなんだか俺たちらしい良い1枚だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます