第7話悩みの連鎖
良いことがあればその後には必ずと言っていいほどに悪いことが起こる。
まだ人生の半分も経験していない俺だが、これくらいのことは理解しているつもりだった。
1番警戒するべきは目的を達成した後。
あの時はそんな大切なことを忘れてしまうほどに舞い上がってしまっていたのかもしれない。
俺たちは海遊館から退館し、帰りの電車が停まる駅に向かっていた。
今日の目的である
陽奈たんはというと、観覧車で俺がプレゼントした『ハンマーヘッドシャークのハンマー枕』を胸に抱きかかえながら時折ニマニマしていた。
ここまで露骨に喜ばれると少し恥ずかしい。
てか、何度でもいうがハンマーヘッドシャーク、俺と場所変われ!
とまぁ、俺の叶わぬ願望はさておき、いつの間にか駅に着いていた。
この駅は割と栄えた街にあり、たくさんの人がいる。
「ママー。まだ帰りたくないー。」という子供の駄々が聞こえてきた。
いやはや、なんと微笑ましい・・・・。
んんっ?なんだろうこの聞き覚えのある声は。
自分の背中から嫌な汗が出てくるのが分かる。
恐る恐る声のする方に振り返ってみると、そこには俺の知らない高校生くらいの娘とその母親がいた。
どうやら俺の勘違いだったようだ。
それにしても2人ともすごい美人だな。
娘のほうは、はっきりとした顔立ちに、すらっとした手足、髪がところどころ金色っぽいのが少し残念だがそれを打ち消してしまうほどの清楚なオーラがあった。
そしてなにより母親のほうはえぐい。
高校生の母親は大体40歳を超えているはずだ。
それなのに、老いを感じさせないほどに美しく、かといって子供っぽいわけではなく、大人の妖艶さを漂わせている。
まるで美しいの代名詞のような感じだ。
俺は思はずその親子から目を離せなかった。
「おい!・・・・おい!何ずっと見てんだよ!」
「えっ。ああ陽奈たんか。どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ!何ずっと見てんだよ!浮気か!帰り際に浮気か?しかも親娘ともども狙ってんのか!これだからドМ貢魔は。」と鬼のような形相で怒鳴りつけてくる。
え、なにドМ貢魔って。ついに合体したのか。ほんとやめてほしい・・・・。てか陽奈たんが大きな声で怒鳴ったせいで周りの人がこっちを見ている。
「陽奈たん、みんな見てるよ・・・・。」
「はぁ?そんなの関係ねぇーよ。うちとデート中だろ。ほかの女見てんじゃねぇーよ。」
「ご、ごめんね。お詫びと言っては何だけど、帰りにピスタチオのモンブランでも買っていかない?」
「ま、まぁそれならしょうがない。これからは気をつけろよ。」と言動は荒々しいが顔はにこにこしている。
どうやら許してくれたようだ。なんてったってピスタチオのモンブランは陽奈たんの好物だからねー。
と1段落着きそうだった時に、「あぁーーーーーーー!」と大きな声が聞こえた。
まぁ聞こえただけだし、ビクッとはしたがそのまま改札に向かった。陽奈たんも反応してなかったし。
「ち、ちょっと、また無視!あぁだめ。トラウマが!昔の古傷が蘇るじゃない!」そう言い終わるのと同時に、俺たちの前に立ちふさがってきた。
どうやら俺たちに向かって言っていたらしい。
よく見ると、さっきの美人親子の娘のほうだった。
「あんた3回目よ!うちを3回も無視して!も、もしかして中学の時私のことを無視してた山本さんのいとこか何か?もうやめてよ!」
山本さんなんて知らないんだが・・・・。どうやら俺はこの子と面識があるらしい。でもなーまじでわからん。が1人だけ心当たりがある。この残念な感じに。
「もしかして・・・・霞か?」俺は間違っていたら土下座をする覚悟で聞いた。
「もしかしてって何よ!霞に決まってんじゃん!あっそっかー、今日化粧してないもんねー。うちの美しさ1割減かー。」
「何言ってんだよ!霞の顔面お絵か・・・・化粧がないおかげで美しさ10割増しだ!」俺はとっさに答えた。
だって事実だろ。俺はさっき見とれちまったんだからな・・・・。
「は、はぁ?意味わかんない!マジで!」と顔を赤くし、それを隠すかのように下を向く。
怒らしてしまったのかな?とりあえず謝るか。
「ごめんな、霞。なんか言い過ぎたわ。」
「言い過ぎって何よ!どこが言い過ぎってわけ!まさか美しさの所じゃないでしょうね!」
「そんなわけあるか!むしろ言い足りないくらいだよ!」俺はつい、むきになって言い返してしまった。
だって事実だろ。霞(すっぴん)は本当に美しいし、その事実を認めないとすっぴんが残念な女性に失礼じゃないか。
「ふ、ふーん。そ、そう。まぁいいわ。」とさっきより顔を真っ赤にして答える。
どうやら怒りは引いたようだ。まだ顔は赤いが・・・・。なんでだ?
とまぁ一応この場が落ち着いた。いや、落ち着いたと思いたかった。
俺は近くにある新たな火種に気づかないふりをしていた。
「てか、さっきからあんたの横にいる子は誰?」
恐れていた質問が来る。
もちろん忘れていたわけではない。
忘れるなんて不可能なくらい存在感を放っていた。
殺意という名の圧力で。
「あぁ。紹介するよ。こちら我が
「はぁ!あんた彼女いたの!この噓つき!裏切者!淫乱陰キャ!って、え、山本ってまさかあの山本さんの・・・・。」
「中学の時はうちの兄がお世話になりました。」
悪魔だ。陽奈たんはなりきっている。霞しか知らない山本さんの妹に。
「や、やっぱり。」そう言って霞はその場に倒れこんでしまった。
さすがにかわいそうだ。少しやりすぎている。
「霞違うよ。彼女は俺の妹だから。」と霞を立ち上がらせる。
「それはそれでやばいでしょ!妹が彼女って!鬼畜すぎる!」
「そんなわけないだろ!妹っていう時点で彼女っていう線も消えるだろ!って、なんで陽奈たんも顔赤くしてるの!」
俺は必死に否定した。
このままだと、ドМ貢魔に鬼畜という新たなレッテルを貼られてしまう。
だが、俺の必死の否定は15秒という短い時間で終わった。
いや、終わらせられたというべきだろうか。
「はいはい。」という感じで適当に流されてしまった。
テレビCМぐらいしか話してないんだが・・・・。
改めてテレビCМの短さを知った。
はぁ、みじめだ・・・・。
俺たちがこんな感じで長々と話していると「どうもーうちの霞と仲良くしてくれてありがとーなー。」と話しかけてきた。
さっきまで俺たちのことを微笑ましい感じで見ていた美人親子の母親、つまり霞のママである。
「いえいえ、こちらこそです。」俺はありきたりな返事を返した。
それにしても美人だ。
近くで見ると大人の上品な色気が際立つ。
年を取ることで得られるメリットだけを詰め込んだ感じで、それでいて化粧水やらなんやら頑張っている感じがせず、今の状態が自然であるという感じだ。
「なんや?うちに惚れてもうたんか?」
「ちょ!やめてくださいよ!確かに美人だとは思いましたけど。」
「あんた、なにうちのマ・・・・お母さんに手を出そうとしてんだよ!」
「誤解だから!ちょ!霞のお母さんも何か言ってくださいよ!ってなに顔赤くしてるんですか!」
「冗談やで。ついつい陽太君の反応がおもろくてなー。」とにこにこしながら言う。
どうやらこの人も悪魔のようなあの笑顔ができるらしい。なんかさっきより肌がつやつやしてないかこの人!
ん?そんなことより、俺この人に名前言ったっけ?
それに妙に霞のお母さんの関西弁が耳になじむ。
まるで昔から関西弁をよく聞いていたかのように・・・・。
「あのー俺、名前・・・・。」
「何で知ってるかってことやろ。そりゃあ最近よう家で聞くからなー。霞から。それに・・・・」とさっきのにこにこの100倍悪魔的な笑顔で答える。
霞、家で俺のことなんて言ってるんだろう。
おいおい!なんで霞顔が真っ赤なんだ!そんなに恥ずかしいことお母さんに言ってんのか!
「ちょっとマ・・・・お母さん!そんなに言ってないじゃん!まだ1、2回しか言ってないじゃん!」
1、2回は言っていたのか。霞の顔が真っ赤になるくらいだ、何を言っているのかすごい気になる・・・・。いつかカマかけるてみるか。
「霞、嘘はよくないでー。まぁいいわ。そんなことより、陽奈ちゃん、久しぶりやなー。もちろんあんたは覚えてるやろー。」
霞のお母さんが来てからというもの、蚊帳の外だった陽奈たんに急に話を振り始めた。
心なしかさっきから陽奈たんのようすがおかしい・・・・。
「お兄。もう疲れた。帰ろう。」
「え、あぁ、いいのか?」
「・・・・・・・・。」
「すいません、霞のお母さん。陽奈た・・・・、陽奈ちょっと疲れてて・・・・。今日はもう帰りますね。霞もまた部活でな!では、お先に失礼します。」
「そうかー。ほななー。」
「ふん!仕方ないわね。」
そう言って俺たちは帰らせてもらった。
それにしても、陽奈たん大丈夫だろうか。
それに霞のお母さんの陽奈たんに言った言葉がすごく気になる。
俺は大事なことを忘れているのかもしれない・・・・。
まぁ今はそんなことに悩むより自分の学校生活についてだよなー。
はぁ、みじめだ・・・・。
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