第3話起床、部活、家庭、簡単にはいかないもんだ

 読書活動研究部に入部してから1日がたった。

 学校であんなに話したのは中学以来だった俺は、しっかり寝たつもりだったが疲れがとれなかった。

 そんなこともあり、1限目の終了と同時に眠ってしまった。

 まぁ次の授業までには起きよう。そう思っていた。

 さすがに友達がいなくても授業が始まれば起こしてくれるだろうと、安易な考えを心の奥底で抱いていたのかもしれない。

 少し周りがざわざわし始める。

 うるさいなと思いながらも次の授業が始まったのだと思い起き上がる。

 どうやら2限目は体育らしい。俺の隣の席の奴がこちらに尻を向けて着替えていた。

 「屁こいたら殺す。」と心の中でつぶやく。

 俺の所属しているクラスである1年4組では男子が教室、女子が更衣室で着替えをしている。

 余談だが更衣室は教室から少し遠く、1つしかないガラス窓にはしっかり黒いカーテンがかかってある。ましてや壁に更衣室の中が見えるような穴があるわけでもない・・・・。

  つまり覗くことなんて不可能というわけだ。

 まぁ覗こうなんて考えたことはないが・・・・。

 そんなことを考えながら俺も体操服の袖に腕を通していると、ふとあることに気づく。

 「体育って2限目だったっけ。」

 思わず声が出てしまう。まぁ誰に聞いても答えてくれないだろうから時間割を見る。

 思った通り体育は2限目ではなかった。

 驚いたことに体育は5限目だった。

 どうやら俺は一限目の休み時間からいままでずっと眠っていたらしい・・・・。

 誰も起こしてくれなかったのか。

 全く期待していなかったわけではなかっただけあってすごくつらい。

 俺は改めて中学の時とは立場が違うということを思い知った。

 そして嬉しいと言っていいのかわからないが、俺は昨日誓った『脱便所飯』という誓いをたった一日にしてクリアしたようだ。

 これは成長と呼んでいいのだろうか。

 まぁいい。それはもういいんだ。

 俺には不満というか納得できないというか・・・・。

 萌衣ちゃん起こしてよ!

 これはわがままなのだろうか。同じ部活の仲間ではないか。

 放課後の部活でしっかり理由を聞こう。

 そう思いながら放課後までの時間を、まるでゲームのチュートリアルをやるかのようにこなした。



 念願?の放課後になった。

 俺は朝学校に向かうときより速く、家に帰る時より遅いスピードで部室に向かう。

 まぁそこそこ楽しみであるということだ。

 確認しなければいけないこともあるしね。

 そんな面持ちで部室に到着し、扉を開ける。

 昨日と同様、教室の奥に彼女はいた。

 飲み込まれそうな黒い綺麗な髪に、法律が許すならすぐにでも飛びつきたくなるような細くきれいな足。

 今日も今日とてかのじ・・・・いや、萌衣ちゃんは難しそうな顔で本を読んでいる。

 唯一昨日と違うといえば、俺は萌衣ちゃんが何を読んでいるか覗きに行かなかったことだろうか。

 何を読んでいるかある程度予測でいたからだ。

 さぁ今日も言おうか・・・・。

 「少女漫画かよ!」

 「ち、ちがうの。初めてなの。本当よ。」感情がこもっていない。顔も全く赤くならない。

 どうやら萌衣ちゃんは少女漫画を読んでいることがばれても恥ずかしくなくなったようだ。

 昨日バレて吹っ切れたのか・・・・。くそ、あの恥ずかしそうな顔結構好きだったのになー。

 「なんてタイトルなんですか?」興味はたいしてないが、会話を続けるためにとりあえず聞いてみる。

「言えるわけないでしょ!この変態!」顔を昨日と同じくらい、いやそれ以上に真っ赤にしていた。

 どんな恥ずかしいタイトルなんだ。さっき興味がないと言ったが撤回だ。

 いつか覗こう。

 何はともあれ、今日も萌衣ちゃんの恥ずかしがる顔を見れてよかった。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか萌衣ちゃんはいつものクールな十文字さんに戻っていた。

 「何しに来たのかしら。いえ、おはようと言うべきかしら。」とまるで悪役令嬢のような面持ちで言う。

 どうやら確信犯のようだ。

 俺が確認するまでもなかった。

 「見てたなら起こしてくださいよ。起きたら体育だったんですよ。」

 「仕方ないじゃない。私の席は扉側、陰太君の席は窓側、正反対じゃない。それに変な勘違いされるかもしれないじゃない。」

 「距離の問題かよ!ていうか変な勘違いって何ですか?」

 何気なく聞くと十文字さんは顔を真っ赤に・・・・まぁつまり萌衣ちゃんになって「そ、それは…私が陰太君のことを・・・・って何言わせるのよ!」

 萌衣ちゃんは近くにあったティッシュ箱をこっちに向かって投げてきた。

 俺はとっさに避けた。

 「何避けてるのよ。当たりなさいよ。」萌衣ちゃんは近くにあるものを何かも確認せず連射する。

 俺はそれをひたすら避ける。

 それはまるで、あの有名なボクシング一家である亀〇家の誰もが知っているあの有名なトレーニングを連想させる。

 すべて避け終わるのと同時に「親父ありがとう。」と思わず言ってしまう。

 「何言ってるの。大丈夫?」十文字さんは本気で心配していた。

 まぁそんなこんなで、今日の部活は終わった。

 終始、十文字さんにいじられっぱなしだった気がするが・・・・。

 結局、変な誤解って何なのだろう。萌衣ちゃんはごにょごにょ言っていてなんて言っているかわからなかった。

  




 部活が終わり家に帰る。昨日は疲れていて、家に帰るとすぐに寝てしまったから愛しの神妹かみまいである陽奈たんと話せなかった。

 なんだか今更ながら、損をした気分になる。

 「今日はとことん話そう。なんてったって今の俺には話題がたくさんあるからな。」

 そんなことを考えながら、俺はある期待をこめて、家の扉を開ける。

 さぁこい陽奈たんの「おかえり、お兄たん。」俺は心の中で叫ぶ。

 玄関には陽奈たんがいた。 

 「おかえり、お兄たん。」

 言ってくれた。でもなんか違う。なんか怖い・・・・。

 陽奈たんは仁王立ちだった。

 「あのー陽奈さん、俺何かしました?」

 「昨日はいつもより13分27秒遅かった・・・・。今日は42分56秒遅い・・・・。これってどういうこと?」とまるで夫の浮気を探る新妻のように聞いてくる。

 俺たち夫婦だったっけ。まぁ夫婦のように仲がいいのは認めるが。

 てか、時間が正確すぎやしないか。秒までわかるって・・・・。

 前にもこんなことがあった気がする。

 これは弁明しないと。

 「昨日から部活に入ったんだ。」声が上ずる。どうやら実の妹に緊張しているようだ。

 「その部活、女いるでしょ。」さらにすごみが増す。

 もう、並の人間では立っていられない雰囲気だ。

 「1人だけいますね・・・・。」

 「なんだー。よかった。1人だけかー。」

 陽奈たんから笑顔が戻る。

 さっきまでの般若のような顔が嘘のようだ。

 まぁ3人中なんだけどね。1人はあったこともないし・・・・。

 これがばれたら、なんとなくだけど詰みな気がする。

 「まぁお兄が部活に入ろうが何しようが別に興味なんかないんだけど、ただの確認ってやつだから。」と新しいおもちゃをもらった子供のような顔で言う。

 「てかてか、別に興味ないんだけどお兄何部に入ったの?やっぱりサッカー部?いや、テニスとかもありかなー。」

 「読書活動研究部だけど。」

 「はぁ?」

 また雰囲気が変わる。さっきよりも重苦しい雰囲気だ。

 「何その意味わからない部は。ねぇ、その部の部員って何人?まさか2人だけってことは無いよね。」

 やばいやばいやばいやばい、これはまずい。想定していた最悪の事態が起こっている。

 これは何とかしないと・・・・。

 俺は必死に考え「このくらい?」と両手を開いて見せた。

 「嘘だよね。だってそんな意味わからない部に10人も集まらないよね。しかもお兄たん、嘘つくとき鼻がぴくぴくするんだよ。今してるよ。」

 はいバレたー。嘘ついてるとき鼻ぴくぴくしてるんだったらもう無理じゃん。嘘つけないじゃん。

 そう思い「3人です。」と正直に答えた。

 「もう1人は女?」

 「いえ、会ったことないです・・・・。」

 「じゃあ、結局2人きりってことなんだね。」

 いつもはウサギの耳のように見えるツインテールが、今日はまるで悪魔に見える。

 陽奈さんはそう言ったっきり、部屋に消えていった。

 その後話しかけても無視されるし、目も合わしてくれない・・・・。

 俺は陽奈たん以外の女の子と話してはいけないのだろうか。

 でも俺にはあの部しか学校に居場所はない。

 明日、陽奈たんの好きなピスタチオのモンブランでも買って帰ろう。

 そんなことを考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

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