第2話部活動選択、簡単だと思うな!

あれから1週間が経っただろうか。

初日の失態のおかげで俺には友達ができなかった。

休み時間はイヤホンで音楽を聴き、昼休みは人気の少ない校舎裏でご飯を食べていた。

だが最近そこでご飯を食べるリア充団体が来るようになり、今ではぼっちの神業である『便所飯』と呼ばれるものをしている。

ここで『便所飯』の基本的なやり方を教えてあげよう。

用意するものはたったの3つだ。それは弁当、スマホそしておなかが痛そうな演技だ。

特に3つ目は大事だ。普通に弁当とスマホをもってトイレに駆け込んでしまっては、周りの奴に『便所飯』がばれてしまう。

どれだけおなかが痛そうな雰囲気を出せるか。

もし『便所飯選手権』があればここが勝負の分かれ目になるだろう。

俺誰に言ってんだ・・・・。





そんなことはさておき、今日は部活動の体験入部最終日だ。

俺は部活に入りたくなかったが友達ができなかったので、仕方なく重い腰を動かしたというわけだ。

まぁ中学の頃はサッカーをしていたし、運動神経も良いほうだと思うし、どの運動部に入ってもやっていけるだろう。

「目指せ、1人目の友達・・・・。」

そう意気込んで臨んだ体験入部だったが、そもそも運動部に1人で体験入部に来る奴なんて1人もいなかった。

運動部の体験入部は友達と行くものであり、1人で行くものではない。運動部に入ろうとしている奴にはそもそも友達がいて、もうグループが出来上がっている。

それを思い出した俺はカバディ部の体験入部を諦めた。

「カバディ・・・・。」

まぁ切り替えていこう。俺は次に読書活動研究部に向かった。

「なんだその部活は。」と思うかもしれない。

だが、だからこそ良い。おそらく部員も少ない、だから友達が作りやすい。

俺はこの部に最後の望みを賭けていた。

「失礼します。」俺はやる気に満ち溢れた大きな声で言いながら扉を開ける。

返事がない。だが、部屋の奥に一人難しそうな顔で本を読んでいる女の子がいる。

よく見ると艶やかな長い黒髪にぱっちりとしたきれいな目、さらに組んでいる足がまるでパ〇コレモデルのように長くきれいだった。

「何読んでいるんだろう。」

そっと近づき読んでいる本を覗き見た。

「少女漫画かよ!」思わず声が出てしまう。

すると黒髪ロングの美少女は顔を真っ赤にして本を勢いよく閉じた。

「ち、ちがうの。初めてなの。本当よ。」と必死に訴えかけてきた。

「でも、その本結構使い古した感じがするけど・・・・。」

「あなた私の部に何か用?」と真面目な顔で聞いてきた。

どうやら、さっきのことは無かったことにしたいようだ。

「なにそのかわいそうな子を見る目は?」

「いえいえ、そんな目で見ているつもりはないですよ。その、今日は体験入部に来ました。」

「ふぅーん。まぁいいわ。なら、自己紹介が必要ね。私は1年4組十文字萌衣よ。」

えっ同じクラスなのかよ。俺クラスでスマホばっかり見ていたからわかんなかった・・・・。

クラスにこんなかわいい子がいたのか。もっと周りを見ないとな。

「あなたは?」

「はい、1年4組陰堂陽太です。」

「あー、君あの子ね。まぁいいわ。」と言ったきり彼女はこれ以上何も聞いてこなかった。

俺はその瞬間にこの部に入ろうと決めた。

チョロすぎだろと思われるかもしれない。

しかし、 普通は問題児と分かった時点で嫌な顔をされるだろう。だが彼女はそんな顔を一切見せなかった。

さらに、意識的なのかただ単に興味がないだけないのかはわからないが、余計な詮索はされなかった。

「ほれてまうやろー。」と俺は叫びたいのをこらえながら「この部に入れてください。」と、まるで『〇と千尋の神隠し』のあの名台詞のように言ってしまう。

「別に構わないけど、陰太君はこの部が何をする部かわかっているの?」といじわるそうな顔で聞いてきた。

どうやら俺は『陰太君』と呼ばれるらしい。

まぁたしかに中学の頃は『陽太』の『陽』の字のような生活を送っていたが、高校では名字である『陰堂』の『陰』のような生活を送っているから『陰太』、理にかなっていて強くはつっこめないなと思いそこはスルーしつつ、「知りません。」と答えた。

「なら色々教えてあげるわ。まずこの部には私とあなたを含めて3人しかいないわ。活動内容は読書に関することや・・・・まぁ正直に言ってしまうと自由よ。」

 「えっほとんどなにもわからねぇー。」これが本音である。まぁ言わないけど・・・・。

 「何か質問はあるかしら。」

 正直、聞きたいことは山ほどある。だがおれは真っ先に「彼氏はいますか。」と聞いてしまった。

 無意識だったこともあり、自分の顔が熱くなる。

 だが俺の顔はすぐにいつも通りになった。理由は簡単だ。

 十文字萌衣は、ゆでだこなんて例えでは足りないくらい顔を真っ赤にし、手を扇風機の羽より速く横に振りながら「最初から部に関係ない質問じゃない!しかも質問の内容がエッチよ。そんなのいるわけないでしょ!」と少女漫画を読んでるのがばれた時より動揺しながらも答えてくれた。

 どうやら十文字萌衣・・・・いや萌衣ちゃんと呼ぶのが正解だろうか。萌衣ちゃんには彼氏がいないようだ。

 ほっとしてしまう自分に気づく。でもそれがなぜかが分からない。

 この気持ちに気づくには、もっと時間が必要だと思う・・・・。

 



 そんなこんなで俺の体験入部は終わり、そして読書活動研究部員としての生活が始まる。

 正直部活のことはほとんどわからないが、まぁそれは後々わかるだろう。

 クールで時々かわいい一面を見せる萌衣ちゃんともっと仲良くなりたいし、欲を言えば男友達も欲しい。

 それは贅沢を言い過ぎだろうか・・・・。

 当面の目標は『脱便所飯』これでいこう・・・・。

 

 




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