第三話 「過酷!?三国サマーライド! 前編」

「チャンリー、ここが自転車屋だ!」

「お!来たな!」


松岡サイクル。福井大学松岡キャンパスの近くにある自転車屋さんだ。ロードバイクを数多く揃えており、自転車乗りがふらっと立ち寄ることも多いお店である。


そして3人を出迎えたのはショートヘアの活発そうな小柄な女子、身長はあいと同じくらいだろうか。


「チャンリーお初だな、ボクは松岡ハヤテ。よろしく!」


満面の笑みでハヤテはりんを迎えた。はにかんだ笑顔が余りにも可愛すぎて同性のりんでも思わず鼻の下を伸ばしてしまいそうになった。


「りん、鼻の下伸びてるで」

「ウッ」


あいに鼻の下が伸びていることを指摘されたりんは恥ずかしくて俯くが、それを気にせずハヤテは話し続ける。


「あいから話は聞いてるぞ。良い自転車探してるんだってな!ウチなら役に立てると思うぞ!」

「そ、そうなんですよ!…あはは」


自転車を探してるなんて言ってもない。りんはあいをジト目で睨むがあいは知らん顔。目をキラキラ輝かせているハヤテを前に「自転車探してないよ」なんて言えない優しいりんは肯定するしかなかった。


しかし実際りんの中で少し自転車に興味が出てきているのは本当だ。なんか面白そうだし。


「チャンリーはどんなの探してるんだ?」

「んんん、えっと。可愛いやつ、ですかね」

「んなこれ!!Bianchiのセンプレプロ!ボディー自体は黒が車体なんだけど、ところどころにBianchiのイメージカラーのチェレステ色が入っててね!かわいいんだぞ!んでんで、コンポーネントを105に載せ替えてるからそのままでもブルベやレースにも出れるぞ!」


胸を張るハヤテ。感心した様に話を聞いているりんの顔には少し購入を考えようとする感じがみえている。


「あや…ちゃっかりしてるわ」

「しっかりレース見据えたフルカーボンを無知な子におすすめしてるあたりさすが自転車の娘って感じね」


りんが真面目に購入を考え始めたのでリコは機転を利かせて目に止まった自転車をりんの前に押してきた。


「これどう?メリダのスクルトゥーラ4000。バーレーンメリダカラーだし」


リコが持ってきたのは青と赤が入った自転車。車体には小さくBAHRAINと書いてある。りんはこの自転車に少し興味が湧いた。なんか少しかわいい。


「バーレーンメリダってなんですか?」


りんの疑問はバーレーンメリダって何、である。その疑問に答えたのはあいだった。


「有名なロードレースチームやで。最近はスポンサーが変わって名前も変わったけど」

「そーなの。それの一般向けモデル。一般向けっていっても趣味勢から見ればハイスペックの一品だよ」


それに便乗して説明を乗っとるリコ。りんは説明を半分聞きながら半分は値段を見つめていた。


お値段なんと、大特価で15万8000円。自転車に対してほとんど無知なりんの心中は「大特価ってなんだよ」という半ギレ且つ半呆れである。


「んならさ、チャンリー。レンタロードっていうサービスをウチしてるんだけど!」


そんなりんが少し自転車に対する考えを改めようとしてるときにハヤテは解決策を出した。


「ボクのおすすめのレンタ用、貸すから3人でサイクリング行ってきなよ!」


翌日。ハヤテから借りた自転車、メーカーはTREK、号名はエモンダalr4というらしい、に乗ったりんはいつもの産業会館前であいとリコを待っていた。


「にしても何この軽さ、羽?」


このトレックのエモンダalr4はノーマルの重量が9kg台前半でそれでも相当に軽いのだが、更に貸し出し用にハヤテが少しパーツ等を変えているため8kg台にまでその重量は抑えられている。


今日は遂に三国海岸へ向けてサイクリングをするらしい。昨日ハヤテからこのエモンダを預かって以来、りんは胸に違和感を覚えていた。


「これに乗って遠くまで走りたい」


小学生の頃に忘れてきた感覚を思い出したかの様にりんは久しぶりにワクワクしていた。今日その願いが嫌というほどに実感させられるのをまだりんは知らない。


「チャンリーおまたせ」

「りんちゃん待った?準備おけ?」


あいは黒とピンクのジャージでリコは黒と緑のジャージを着てりんの前に現れた。二人とも自転車のフレームに付けられたドリンクホルダーに750mlのボトルを挿している。


ちなみにりんもハヤテに勧められて、装いは黒と青の入ったジャージにボトル、といった一通りの装備もレンタルで揃えられている。


「んな!!早速行きまっしょ!!」

「りんちゃん、あんま無理せんとキツかったら言ってね!」

「夏の三国へ!出発!」


そしてJK3人は三国海岸へ向けて走り出した。

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つるつるいっぱい! 鈴木カプチーノ @sasa333

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