第二話 「エルパ」
ユトリ珈琲に着いたJK3人は取り敢えずみんなカフェラテを頼んで窓際の席に座っていた。
「いやさ、リコ、この前の三国海岸ライド良かったよね」
「確かに。天気が良かったのがプラス点だね」
あいとリコは何か場所のことを話してるらしいがりんには三国海岸がどこにある海岸なのか、そもそも海がどの辺なのかをいまいち把握出来てない。
福井に引っ越してくる時に乗った特急列車サンダーバートから嶺南の海は少し見えたが、言われてみればりんは嶺北の海を見たことがない。
「そう言われれば私、嶺北の海見たことないかもしれないです」
「「え?」」
「そもそも三国ってどこですか…?」
「「え?」」
そんなことをりんが口走った瞬間、2人は凍りつき、ひと段落置いてあいが話し始めた。
ーーー三国海岸。日本の夕陽百選に選ばれるほどの景勝地である。嶺北の殆ど北端にある海岸でそこから車を少し走らせたら石川に行くことができる。近くには、芝政というレジャーランドや嬉しくないが自殺の名所として有名な東尋坊、そして海際にあるそこそこの大きさの松島水族館。
語ろうと思えばいくらでも出て来るであろうあいはある程度喋ると、三国はいいとこやでぇ。の一言で締めた。
そして30分くらい三国の良さについて語ったあいはいつの間にかお代わりしたカフェラテを飲みつつリコを見た。リコは「モウマンタイ」
とうなづいている。
「チャンリー、今度行くか、三国海岸」
「え?」
「りんちゃんいこいこ」
「え、あ、ちょ」
流れで行くことが決定したりんだが、三国がどれだけ遠いかを知るのはまだ先である。
そして。
「はい!やってきました夏休み!いぇあ!」
「ついに来たねー」
「来ちゃいましたね…」
産業会館前に集まったJK3人組。今日はとりあえず近所にある大型ショッピングモールを回る予定らしい。三国はやっぱり次回にするみたいだ。
「チャンリーにね、福井県民の集まるスポットを紹介するぞ」
「マジで休日は人多いからヤバいよ〜」
イオンなんだろうなぁとりんは考えていた。
イオンなら映画館もある、フードコートもある、専門店街だってお手の物。
りんは無自覚なイオン信者だったようだ。
「はい!しゅっぱつしんこー」
「ゆっくり行って下さいね!」
今日の天気は晴れ。照りつける日差しのもと、国道8号線に沿ってゆっくり北上していく。
国道8号線は福井嶺北を縦に割るように走っている大きな道路で、新潟から京都を結んでいる国内でも大きな道路だ。運送会社の大型トラックが日夜問わず走っている交通には欠かせない道路になっている。
「にしても本当リコさんの脚…ジュルリ」
JK3人組の隊列は前からリコ、りん、あいと並んでおり、この前脚フェチということが分かったりんからリコのお御足が拝める隊列となっている。
「フヘヘ…」
「リコー!後ろから変態さんがリコの脚狙ってんぞー!」
「ん〜?見たいなら見ても別にいいよ」
「へ、変態さんじゃないです!」
りんはリコの脚から自転車の方に目を移してみる。あいのごつい自転車とは違う細いフレームの自転車でスレンダーなリコをさらに印象立てている。
「うちのロードかっくいいでしょ?これね、クロモリっていう金属で作られたフレームなんだけど、ちょっとあいのより重いんだよね。でも長距離乗ってても疲れにくいし、なにしろフレームの頑丈さはピカイチで距離も車体もながーーーく乗れるっていう代物なんだよー」
「そ、そうなんですね」
自転車の事になるといつもより饒舌になるリコは左側を指さした。
「ちなみにアレが今回の目的地ね」
車道はギッチリと車が詰まっており、その車全部がショッピングモールに入る列に並んで左へウインカーを出している。
「この車の量尋常じゃない…!」
りんが知る限り、専門店街全店セールのイオンモール福岡に匹敵するであろう車の量。ちなみにイオンモール福岡とは別名ダイヤモンドルクルとも呼ばれる福岡三大イオンのうちの一つだ。それに匹敵するのは相当だ。
「チャンリー!ここが!"エルパ"だ!」
「エルパ…?」
りんはてっきりイオンモール福井みたいなやつかと思ってたが違うみたいだ。ちなみにフェアモール福井とも言うらしい。
「え?イオンじゃなくて…?」
「イオン?そんなもの福井無いよ?」
大型ショッピングモールがイオン系列だけと思っていたりんもどうかと思うが、それ以上に福井にはイオンがないというのがりん最大の驚きだ。
「福井県民はね、休みの日はここに集まるんだよ」
「坂井ならアミ、市内ならエルパ、丹南ならシピィ、奥越ならビオみたいな感じなわけ。まぁ坂井や丹南、奥越からもエルパに来るんだけど」
「へ、へぇ…そうなんですね」
りんにとってはそのどれも分からない。
「Lovely partner。略してLpa(エルパ)!」
「ちなみに裏にはLpa+があるよ」
このエルパ。映画館やらパチンコ屋さんやらも同じ敷地内に併設されており、アピタ(関東関西圏の大手ショッピングモール)と合体している。
「まぁ。行き飽きたんだけどね」
自虐なのかそれともそうじゃないのか。福井県民はこう言うのだ。「エルパしか行くとこないんだよ」と。みんな行き飽きてもエルパに集うらしい。
「エルパで服見る?それとも外のスタバ行く?」
「ええと、なんのために私をエルパに連れてきたんですか?」
「それはね」
リコはあいをじっと見つめている。あいはりんをじっと見つめ、りんは目をアピタの三角マークみたいな看板に目を逸らす。
「チャンリー、福井県へようこそ」
「これからはエルパしかないよ」
あいとリコがうんうんと頷いている中、りんは思っている事を思わず口に出してしまった。
「いや、ベルに行くわ」
〜♪ショッピングシティ〜ベル♪
ベルの目の前にはスタバもある。ベルの中にはタリーズもある。服もまぁある。たこ焼きもあればクレープだってある。しかもりんの家からならエルパより近い。
「チャンリー…通だね…」
「あい、今度からエルパじゃなくてベルにする?」
「ほやの…」
ということで、今度から3人が遊びに集まるときはベルに集まることになった。それはさておき。
「んならチャンリー、今から松サイ行くか」
「まつさい?」
「自転車屋。松サイは松岡サイクルの略で、同じクラスのまっちゃんの実家がやってるんよ」
「りんちゃんはプロショップとか行ったことある?」
「行ったことないです」
「んないこ!」
そして3人の女子高生は自転車屋さんへと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます