『誰でもロンリー』

 生き方が、わからなかった。


 もともと、色々な才能がある。要求されたことはほとんどできたし、できないことも教えてもらえばできるようになった。

 顔も身体も特に不自由はなくて、別段おかしなところもない。友達もたくさんいる。


 だから、だろうか。

 他の人みたいに、自分にはこれしかない、これに執着するしかない、というものがなかった。何もない。


 多芸は無芸。わたしの価値は、そんなものだった。


 街を歩く。こうやって歩いていて、すれ違う人。みんなが、何かに頼ったり、誰かをよすがにして生きている。わたしには。それがない。


 わたしは。


 生き方が、分からない。


 通信。


「はい」


『仕事だ』


「待ってた」


『おまえにぴったりの、ぞくぞくするやつだよ』


「わくわくする」


 生き方が分からない、わたしにも。やることがある。それだけで、なんか、うれしい。


 通信を切って。ちょっと高揚する気分で、街を歩く。


 今日は、どんな景色が。どんなものが待っているのだろうか。


 わからないなら、わからないまま。なんとなく、わかろうとしながら、生きよう。

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