自業自得って言葉、知ってる?
「…………」
「…………」
「…………」
やべぇ。
サークル会館に来ないか、と自分で謙信を誘っといてなんだが、今の謙信の顔をまともに見れん。
もうあれよ、サークル室の中を隙間の空いたドアから覗く謙信は、まさしく軍神のオーラをまといながら宿敵を打ち倒さんと燃え上がる戦国武将の顔よ。覗いている姿はこれ以上なく間抜けだけど。
しっかしまだ乱痴気やってたんかい。しかもサークル室のドアにカギがかかってないってどういうことだ。乱痴気シーンをだれかに見てほしいとしか思えんわ。
それとも、ほかのだれかがさらにこの乱痴気に混ざる予定だったんか?
「……あ、あの、藤川くん」
「ん?」
俺が呆けていると、一緒になって気圧されていた吉崎さんがふと我に返り、俺へと話しかけてきた。気のせいかそわそわしている。ま、吉崎さんには刺激が強い光景だよね。
「わ、わたし、帰っていいかな?」
「……いや。吉崎さんが帰ったら、この事態を死人が出ないで収めるのは不可能だと思う」
「な、なんでわたしが……」
「ごめんねとばっちり。吉崎さんは全然無関係だったのにね」
「……」
「このお詫びは必ずするから」
「……う、うん、そ、それなら……がんばってみるよ」
交渉成立。
吉崎さんをお詫びで釣る汚い男とは俺のことだ。まあ乱痴気している身も心も汚れた本能丸出しのオスメスよりも百万倍ましだけどな!
あ。
そうこうしてるうちに謙信が
いままであまりに予想だにしてない非常識なシーンを見て怒りを感じつつも戸惑い固まっちゃってたけど、そりゃ我に返ればそうなるわな。激情にかられて何も考えず突入しないだけ冷静だ。
バンッ! とサークル室のドアが勢いよく開けられ、奥へとツッコむ謙信。そして謙信の彼女である蜜音に突っ込んでいるサークルの某先輩がぎょっとしておる。
ま、ここの部屋、サークル会館の最上階一番端っこで、ほかの部屋はどこも空き部屋だから油断して乱痴気してたのかもしれないけど、壁に耳あり障子に目あり。
……おお、固まっておるよ。蜜音も間男先輩も、そしてほかの乱痴気連中も。
つながったまま一部括約筋が痙攣している奴らがいるのは見て見ぬふり。どうせなら部外者に絶頂シーンを見られるというトラウマが生まれちゃえばいいのに。
「蜜音……」
「あ、あ、あ、あの、あのね、ちがう、ちがうの、ちょっと待って、謙信、誤解しないで」
心からの悲しみと怒りをミックスさせた表情を向ける謙信に対して、笹島はなぜかキョドりながら言い訳になってない言い訳をしようとする。
この状況で何が違うというのか。ここから謙信を納得させる言い訳を笹島が言えたなら、俺個人としては笹島を今後蜜音と呼ぶことはやめてあげてもいい。
ま、ムリだろな。だって謙信ですら『蜜音』呼びになっちゃってるし。
しっかし、浮気がばれて『違うの』っていう言い訳を生で聞けたことが少し感動ものだ。こいつらはナマで乱痴気してやがったけどな!
妊娠も性病も恐れないようなバカだから、こんなことするわけか。
そういや、美々もあいはらんこーさんも、同じくナマムーブかましてえらい悲劇が襲ってきたよな。腑に落ちた。
全く、アレは罪のない命が二つも失われて恐ろしいことこの上ない事件だったのに、無関係な人間からしてみれば喜劇にしか見えなかったのがもうね。
「なんだぁ……? サークル関係ねえ部外者が入ってくんじゃねえよ」
おっとぉ、なんだかチャラそうなAV男優みたいな男が謙信に因縁つけてきたぞぉ。
全裸ですごんでも全然怖くないってことに気づけバカ。
しかも金のネックレスとかしてるし、なんでこいつここの大学に通ってるの。進む道間違えまくりト〇スだろうが。
あ、謙信の胸ぐらつかんじゃった。しーらない。
相手の強さも測れないようじゃ聖戦でも性戦でも生き残れないからな。いうなれば謙信はカズノコ天井、おまえは童貞歴三十年オーバーのヨワヨワ魔法使いだ。金のネックレスの代わりに六文銭でもつけていやがれ、三途の川を渡るのに困らんから。
バコッ。
「げっっ!!」
ドサッ。
ほらわずか三行で失神だ。
おお、そうして歓びの体液を出している他の面々をよそに、謙信が胸元から何かを取り出したぞ。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
「き、きゃああああああ!!」
「わああああああ! や、やめろ撮るなああああああ!!」
なんだか数年前の坂本先生を思い出すなあ。スマホ連写無双。
さすがだ謙信、これで乱痴気の証拠はばっちり。
「お、おい確かおまえ、ウチのサークルだよな!? あいつを止めろ!!」
「……ん?」
あら、今度は俺に命令ですか。少しくらい早く生まれたからって、ヤリチソパンツマンが俺に命令しないでくれませんかねえ。
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