NTRは突然に
とにかく、笹島本人に確認しよう。
そう思いサークル会館方面へ吉崎さんと向かおうとしたら。
「お、藤川。吉崎さんも一緒に、どうしたんだ?」
同じ学部のナイスガイ、
……いや、それでも赤と金のボーダーのカットソーはどうなんだ、謙信よ。おまえはウォーリーかそれともT〇NGAか。気になりすぎるがここはツッコんだら使い捨ての負けだ。スルー一択。
「謙信か。いや、これからサークルに……ね? 吉崎さん?」
「あ、あ、ああ、そ、そうなの! これからさー狂って……」
動揺しているようなふいんきを醸し出している吉崎さんの漢字変換が、初期の一太郎レベルより落ちているわ。うん、気のせいだと思いたい。
「ふーん、そっか。ところでちょっと聞きたいんだけど、光音見なかった?」
「……は?」
謙信が笹島を下の名前で呼び捨てにしているよ。
悔しいけど違和感を感じちゃう、ビクンビクン。
そこで隣にいた吉崎さんに袖を引っ張られた。
(あ、あのね、実は川上君って光音と付き合ってるの……)
「な、なんだってー!? な、なんだってー!?」
思わず二回叫んでしまった。大事なことなのかそうでないのかわからん衝撃の事実。
「ああ、ま、つい二週間前に必死で口説き落としたんだよな。光音、あまりにもどストライクでさ。このまま放っておくと誰かにとられるだろうな、なんて思って」
「……」
心の中で十字を切った。同情を禁じえない。
どストライクって、ピッチャーじゃなくてビッチャーのビーンボールが某野球漫画の岩鬼目線でそう見えてるだけなのでは。
はい論破です。恋は盲目とはよく言ったもんだ。
それでもねえ。
さすがのナイスガイ謙信も、その蜜音がすでに不特定多数の脳みそ海綿体なヤリチソ男どもにストライクビッチーズ扱いされているとは思うまいよ。バックじゃないから恥ずかしくないもん! みたいに。
あ、訂正。体位はバックだったわ。グラマラスシャーリーレベルだな蜜音は、大尉だけに。
通り名はフェ〇マラスキーでよろしく……って、なんかフ〇ラマラスキーって種牡馬みたいな名前だと、自分で考えてて思ったのは内緒。
というわけで、たとえ脅されて行為しているにしろ、笹島蜜音はギルティー。
いたたまれなくなって隣の吉崎さんを見てみると、肩を震わせながらうつむいている。
真実は時として残酷だ。ここで謙信を奈落の底に突き落とすような真実を告げる度胸は俺にはない。もし告げたらナイスガイが絶望してナイすがいきんになっちゃう。
「……婿殿」
「ん? いやいやまだまだ結婚なんて考えてはいないぞ? いつかはそうなれたらいいとは思っているけど、いきなりどうした藤川」
「なんでもなーい。というか笹島の居場所も知らなーい」
知らぬが仏、知らんならほっとけ。
いやしかし本当にあれだ、NTRってもんがあふれてるのはエロ同人の中だけだと思ったけど、身近にけっこう存在するもんなんだな。
とはいっても蜜音がサカっていた光景はNTRで片付けられるほどの生易しいもんではない。装飾するとするならThe End of Genesis N.T.R.Evolution Turbo Type Hだ。消臭力ですら消せないビッチ臭。見て見ぬふりでもプレミアムつきそう。
何も知らない謙信は、俺と吉崎さんの様子など気にもせず続ける。
「そうか。ありがとう。じゃあどこにいるんだろうな……ところでサークルは楽しいか?」
「……ああ、一部の人間は性春を謳歌してるぞ」
俺はその瞬間を見て、嘔吐しそうになったけどな。
「それは何よりだな。光音もいるし俺も入りたかったんだが、体育会系はなかなか掛け持ちが厳しくてな……」
「だよなー、サークルの二股は厳しいよなー」
男の二股はもっともっと厳しいけどな。いや二股どころじゃなく公衆便所レベルのバッチコーイ、プリーズシュートミーかもしれん。
「はは、でもな、今度の週末、光音とお泊りで温泉行くんだ! なあなあ、これってOKって意味だよな?」
「……はい?」
「いや、恥ずかしながらほら、お互い実家住まいでなかなか二人っきりになれる機会がなくてさ。でもな、やっぱりそろそろ期待しちゃうだろ、男としては!」
「……ええ……」
うぶな方。さすがに名前からしてまだ不犯でしたか。
でも温泉はやめろ、部屋の防音にイチモツ、いや一抹の不安があるだけでなく、蜜音みたいなビッチ入れたら温泉の湯が汚染される。
汚染温泉。うまくない。
何も知らずに浮かれる謙信がいたたまれなくなった俺は、ここであっさり前言撤回。多少残酷ではあるが、知らぬなら知らせてみようホトトギス。
「なあ謙信、ひょっとして笹島はサークル会館にいるかもしれない。良かったら俺たちと一緒に来ないか?」
「え……え、ええ……!?」
謙信を誘ったら、吉崎さんがいまにも倒れそうな顔色になった。そして思い切り袖を引っ張られ抗議の意を示されたがもう遅い。
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