『性と快』の果てに

 ※ 残酷描写があります


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 号泣ショーの最中。

 ふいに義母さんが、ぱたんと手にもっていたしゃもじをおいて、俺に話しかけてきた。


「……ゴメンね、卓也くん」


 突然そう振られたはいいが、何を謝っているのかわからないので、もう少し黙ってることにしよう。


「美々は……再婚してから、変わってくれたと思ってた。卓也君に淡い思いを抱いてるのも知ってた。だって、あれほど夜遅くまで遊び歩いてた美々が、再婚してから早く帰宅するようになったんだもんね……」


 言われてみればそうだな。

 再婚する前の美々がもしもあちこちそちこちで交尾しまくってたら、そりゃ帰りも遅くなるというもの。だが、確かに美々の帰宅はここ最近早かった。

 俺が帰宅すると、結構な確率で美々もいたもんな。あの、相原さんに告ってフラれた日ですらも。


「なのに……なのに、美々の帰宅が早かったのは、学校内であんなことをやっていたからだったなんて……美々は私の娘、どんなにバカな、どんなに考えなしなことをしたとしても、責任は私も取らないとなりません。最後まで迷惑かけて、ごめんね」


 ほっほー。

 この言葉から義母さんの意思を感じる。


 つまり、『美々がこんなバカなことをしちゃったから私が責任取って美々に償わせるので、もう一緒に暮らせるわけがないから離婚しましょう』ということだろ?


 他にもその意味を理解したらしい相原ファンキーさんが、続いてしゃべる。


「本当に……こんな娘で申し訳ございませんですた。私の育て方が間違っておりますた。幼いころから厳しく躾けたつもりだったのですが……貞操観念や道徳の教育を怠ったせいで……人様の家庭を壊してしまう羽目に……」


 ですた? ですたって言ったよねいま? 本当に厳しく躾けたの?

 ま、細かいこたぁいい、ということで不問。今さらそこを追及しても、起きてしまったことはなしにはできないからな。ある程度年齢がいっているのであれば、それは自己責任というものだろう。愛のないセクロスに精を出したりしてたのであれば言い訳できないし。


 はあ、これからも面倒なことから抜け出せなさそうだ。

 俺がそんなふうにため息をついているその時、スマホが再度ブレた。


 ……坂本先生から?


「シモシモ」


「おまえは小学生か。突然だが生徒会長が見つかった。制服姿でパスポートもないまま高飛びしようとして保護され、連絡先を黙秘したままだったから学校に連絡があったんだ。あと十分くらいでこちらにつく」


「……それ、どんなジョークですかね?」


 千台ちたい空港の国際便って、どこがあったんだろう。そんなことしか考えられないや。


「まあ、とにかくおまえの情報によると、今回の事件では会長が黒幕なんだろう?」


「それはほぼ確定みたいっす。まあ、俺としてもカイチョサンには聞きたいことマルマルモリモリっすね。よければ俺も顔出ししていいっすか?」


「……ふむ。どのみち、おまえの妹はじめ参加者には、まだまだいろいろ話を聞かなければならないからな。本当は戒厳令を敷いているから部外者は立ち入り禁止なんだが、当事者ならばまあ問題なかろう」


 こういうのをご都合主義という。


 てなわけで、俺たちはビチキュア二人が泣き止むまで待ってから向かうことにした。


 ……結構時間食ったけどな。ついでに、『自分がしたことを後悔しているなら、最後まで責任もって自分の罪を贖う努力をしろ』と説得するまでにも苦労したことは、いまさら言うまでもないか。



 ―・―・―・―・―・―・―



 そうして、あの場にいた六人、総出で学校へつく。もちろん汚れた服は着替えた。

 しかし義母さんのワンボックスカーが狭い。当たり前だがビチキュアふたりは一番後ろの座席に隔離。トランクでもいいくらいだが、残念ながらそれは無理だった。


 俺たちが学校について、さてまずはどこにいけばいいんだ、と、頭を悩ませていると。

 入り口からすぐの階段、二階と三階付近が、やたらと騒がしいことに気づく。


 ななななにごとだろう、と頭の中でどもりつつ様子をうかがうと、坂本先生始め、教師陣が二、三人、生徒会室の扉前に立ち、なにか呼び掛けているのが目に入った。


「どうかしたんすか、先生」


「おお、藤川か。いやな、さっき空港から保護された生徒会長がここに到着したんだが……とつぜん駆け出し、生徒会室にとじこもってドアに鍵をかけやがってな。おーい大原、開けろ! いったいどうした!」


 坂本先生がどんどんとドアを叩くも、中から声は返ってこない。外で裸踊りでもしないと天岩戸は開かないか。絶世の美女じゃなくて絶世のビッチ二人しかいないけどな。『び』しか合ってねえ。


しかしそこで、なにか嫌な予感に覆われたのか、相原さんがもともと血色の良くない顔をさらに青白くさせ、慌ててポケットを探る。


「……わたし、合鍵持ってます……」


 そうして震える手で、戸惑いながら鍵を開けた。


 中に突入する坂本先生。だが、一歩目で足は止まった。斜め上を見て固まっている。みんな絶句していた。


 何事か、と思い、中の様子を伺うと。



※ マイルドなイメージです


   |

  ∧|∧

 ( ⌒ヽ

  ||  |

  ∪ /ノ

  |||

  ∪∪

   ;

  -==-



「……き、きゃああああああああああああ!!!!」


 思わず、春になると現れる変質者に遭遇した時みたいな声をあげちゃった俺。

 性と快室の中では、家はお金持ち、成績も優秀、ルックスも抜群である上に生徒会長まで務めた──人生勝ち組なはずの大原恭一郎(18)が首を吊って、故人になっていた。明日の朝刊載ったぞテメー。


 少し間をおいて、あたり一面に響く阿鼻叫喚。

 そこからはめんどくさいのでいろいろ割愛するが、それぞれの人間、とくにビチキュアの二人には、かなり深いトラウマを残したであろうことは想像に硬く、いや難くない。

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