淫魔女裁判・開始

「とりあえずさ、確認させて」


 醜い雌犬の争いをやめた美々と相原さんに向けて、俺は言い放つ。


「罵倒合戦聞いてたら、ビチキュアの二人はそれぞれ好きな相手とかがいたみたいだけど」


「「……ビチキュア?」」


 二人そろって間抜け面さらすな。なにさらす。


「ビッチでキュートだからビチキュアだ。美々と相原さんのことに決まってんだろ。それともガバガバでキュートだからガバキュアがいいか? ユルユルでキュートだからユルキュアがいいか?」


「だからガバガバでユルユルじゃないって言ってるでしょおおおおお!!」


「そうよそうよ!! キュートなのは認めるけど、認めざるをえないけど!!」


「都合のいいところだけに食いつくな。だいいちガバガバでユルユルなのが問題じゃない。ガバガバでユルユルでも、ふつうなら汚いか汚くないかのほうがはるかに重要だ。たとえガバガバでユルユルでもきれいだったら俺は許せる」


「……」

「……」


 こいつら、自分が汚い自覚はあるのか。いろいろと。


「で、だ。ビチキュアの二人は、それぞれ好きな相手が」


「……まだガバキュアよりはましかも」


「わたしはユルキュアのほうが許せるかな」


「いいから話をすすめさせろよこの脳梅毒どもが! 反省なんかサルですらできるのにおまえら反省の色が全く見えないんだっつーの! 性欲以外はサル未満か!!」


 さよなら人類。文明を得て数千年の果てに人類は再度退化した。


「で、ガバキュアの美々とユルキュアの相原さん。二人とも、何が問題だったのか、ちゃんとわかってる?」


 俺がそう問うと、自信なさげに二人が答えてくる。


「……乱痴気してるところを、卓也に見つかったこと……?」


「……乱痴気シーンを撮影されて、証拠を残されたこと、かな?」


「0点どころか、人としてマイナス196点の絶対零度的回答だよこんちくしょう!! バレなきゃ何やってもいいのか!? おまえらの大事なとこよりも、おまえらのアタマのほうがガバガバユルユルだよ!!」


「……今の発言、あたしの大事なところはガバガバユルユルじゃないって、卓也は認めてくれた……?」


「訂正するよ、おまえらの×××アタマもユルユルのガバガバだよ!!」


 訂正すると宣言したので、ガバユルの優先順位を入れかえてみた。

 しかし、世界的トップモデルがフォーエルで買った服を着るくらいのレベルどころじゃないかもしれん、こいつらのヤバさは。


「なにがダメだったのかも把握しないで反省してるふりしてんじゃねえ! おまえらにキッチリわからせるために、今からここで裁判を開催することを宣言するわ!」


 俺がそう叫ぶと、被告人のビチキュアだけでなく、オヤジ、義母さんとファンキーかーちゃんまでもが訝しむ表情を見せる。が、気にしたら負けだ。


「ちょっと待ってろ……では、まず裁判官であるオヤジ、義母さん、ファンキーさんにこれを渡します」


 相原さんのお母さんを勢いでファンキーさんとか言っちゃったけど、まあ誰もが納得しているようだからいいな。ただ残念ながら、その呼び名を定着させてしまうと、おみくじが『末吉』しか引けない呪いにかかる。南無。


 …………


 大したことない呪いだな。


 …………


 ま、いいや。割とどうでもいいところで時間食っていられない。

 俺は裁判官それぞれに、二つずつしゃもじを渡した。


「……これはなんだ、卓也?」


「有罪と無罪のしゃもじです。これから俺がこいつらを尋問します。それで被告人どもビチキュアが悪い、常識がないと思ったら『有罪』のしゃもじを、被告人は悪くない、仕方ないと思ったら『無罪』のしゃもじを掲げてください」


 ただ家にあったしゃもじに、やっつけ仕事で『有罪』『無罪』と書いただけだけどね。


「なんで一つの家にしゃもじが六つもあるのか、ツッコまれる準備はしとけよ、卓也」


「オヤジはホントもう黙っててくんない?」


「というかだな……なんで卓也が仕切ってるのか、みんな疑問に思ってると思うぞ」


「だってオヤジたちに任せてもなんも進まなかったじゃん!!」


 オヤジと話していると進行が遅くなる。お叱りを受けそうなので、見切り発車で裁判開始。


「では、被告人に尋問を開始します。二人とも、嘘は決してつかないと誓ってください。もし嘘をついたら坂本先生の……わかってますね?」


 ふたりとも、その脅しには青い水飲み鳥のように頷く。いや、正しくは蒼い、だな。凛クオリティ。さあ、残していこうぜ、黒歴史の足跡を。

 ではクイズ・ビッチショック、スタート!


「まずは……美々ガバキュアさんからです。では第一問目」


「……はい」


「今、何問目?」


「………………」


 俺の知的でハイブローなボケは、痴的な被告人には通じなかった。しかも裁判官が全員『有罪』のしゃもじを掲げている。気まずいから咳払いをしてごまかしとこ。


「……気を取り直して。あなたは、ガバガバユルユルな行為だと知りながら、学校屋上で複数人と交尾してましたね。認めますか?」


「……はい。でも下の口はガバガバユルユルじゃない……」


「そこはいいっつーの!!」


 美々よ。そんなにムキになって否定すると、逆に疑われるってことを理解してないのか。おろろろかものめ。グラビアアイドルもびっくりだわ。


 とりあえず、ここでは満場一致で『有罪』の札が三つ上がる。


「では、なぜそのような行為をしたのですか?」


「……」


「黙秘権は認めません。理由を述べてください」


「……最後に、するつもりだったから……」


「あん? もう少し詳しく」


「だ、だから……もう、いろんな男子と、するの、やめようって……本気で、そう、思って、だから最後に思いっきり楽しもうと……」


 ハイ、ここでも満場一致で有罪。


「ゆーて、いろんな男子とするのやめようって思うのが、かーなり遅かったんじゃないですか? なんで突然、そんなこと思ったんですか?」


「……」


「黙秘したのでペナルティを課します。では、再度聞きますよ。ガバガバユルユルレベル1のガバキュアさん、なんで突然やめようと思ったんですか?」


「……好きな人が、あたしを選んでくれる可能性が、高まったから……」


 この回答に関しては三人とも無罪。どこまで言ってることが本当なのかわからないから、俺はなんも言えない。


「ほう。それはなぜですか?」


「その人が、好きだった人に告白してフラれたから。それなら、一番身近なあたしのことを好きに……」


「ならないと思いますよ。だって被告人、あなたはガバガバでユルユルなだけではなく、相手を選ばずヤリまくってたわけですよね? そんな自分を好きになってもらえるとか本気で思ってます?」


「……」


「最後にする、なんて言ったところで、過去は消せないんですよ。これからのことじゃなくて今までのことが大問題すぎて、それを知った普通の人間は間違いなく拒否反応起こします」


「……うう……」


 被告人、泣き落としタイムに入りましたー!

 演技じゃないかと思った俺は、どこかに目薬が落ちてないか探してしまったよ。


 しかし、その隙を突かれて、俺は美々に逆質問されてしまった。


「……卓也、も……やっぱり……そうなの?」


「さっきも言ったけど当然だろ、のーみそのシナプス全切断されてんのか? 頭も股も倫理も貞操観念も超ウルトラガバガバユルユルの、稀によくあるレベルのクソビッチなくせして」


 ここは即答でばりぞーごん。ガバユル、交尾、乱痴気、中出しのグランドスラム達成者が、普通の幸せを手にできると思うな。電動入り、じゃなかった殿堂入り間違いなしだわ。だいいち電動どころかコブシすら入るだろガバユル。


 あー、せっかくここまで言葉遣いに気を配ってたのになあ。

 俺もかなり溜まってた、性欲ではない何かが。


「だいいちな、あんなことしてる女なんてガバガバユルユルの上に病気持ちだろうし。そんなガバガバユルユルな部分を好きでもない他の男に死ぬほどチソチソパンパンされてる姿を想像するだけで、車で空を飛べるわ。おまけにガバガバユルユルじゃあ救いようないだろ。ガバガバユルユルな汚い女なんてガバガバユルユル」


「あああああ!! なんなのよアンタはさっきからガバガバユルユル繰り返してばっかで!!」


 あ、ガバガバユルユルな事実を認めたくない美々が、ついに錯乱した。


「ガバガバユルユルじゃないって、さっきから否定してるのに! 見たことも触れたことも入れたこともないのに言わないでって、あれほどお願いしてるじゃない!! アンタが誤解してるなら喜んで誤解を解くのに協力するわよいくらでも大股広げて見せてやるわよなんならくぱぁして奥の奥まで確かめてもらってもいいしそれでも納得しないなら遠慮なく突っ込んでもらって実地で確認してもらってもいいんですけどあたしはぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 めっちゃ早口。口から潮吹くなよ、ツバ飛んで汚ねえな。

 誇り高きオトコとしてはまだ人生終わりたくないので、美々のその提案は謹んでオトコ終わり、いやお断りします。


 しかしそこで、思わぬ方面から被告人への援軍があらわれた。


 スッ。

「卓也君……」


 ……義母さん、なんで俺に『有罪』しゃもじを掲げてるの?


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