せいしをかけた戦い

 まあいちおうお客さんだし、お茶くらいは出しとこう──と思ったのか、義母さんが人数分のコーヒーを淹れてきた。


「……お口に合うかわかりませんが、どうぞ。必要ならばこれも」


 よく見りゃコーヒーはゴールドフレンドではなく、無印の130円インスタント。砂糖はグラニュー糖ではなく、調理用の白砂糖。ミルクはクーリプではなく、植物油脂のクリーミーポーション。


 うわ、すっげえ地味な嫌がらせ。もてなす気がないのは明白じゃん。みんな察して、誰もコーヒーを飲もうとしないぞ。

 焦れる。こんなところで焦らしプレイしても盛り上がんねえって。


 ──とか思ってたら。


「……聡美の、せいでえええぇぇぇっっっ!!!」


 ビュルルルルッ!


 突然、美々がコーヒーのわきにあったクリーミーポーションを、聡美の顔めがけて投げつけた。おお、これが噂の顔面シャワーってやつか。

 相原・ビッチ・聡美さんの顔面に滴る白い液体。垂れてきたものを舌でペロッと舐めとるさまは、さすが経験豊富な淫乱女と太鼓判を押したいくらいのエロさだ。いや、エロ貞子だ。だってびっくりして長い黒髪が顔を隠してるんだもの。

 これは来る、きっとくる、白い反撃が。


 ドピュ! ドピュ!


 反撃とばかりに目の前のクリーミーポーションを美々に飛ばし、反撃する相原・インラン・聡美さん。飛んだ白いブツは、たくさんの男子に揉まれて大きく育ったであろう美々の胸の谷間へと飛び散る。


 おお、これもこれでエロい。

 なんだこの争い、我々の業界ではご褒美じゃねえか。見ろ、オヤジが前かがみになってるぞ。


 …………


 いやいやいや。実際こいつらは疑似じゃなくてホンモノでこういうことをさんざんヤリまくってたんだ。

 思い直せ俺、酸いも苦いもかみ分けるにはまだ早すぎる。何が酸っぱくて何が苦いのかはいちいち解説しないけど。


 …………


 ふう。落ち着いた。俺の息子がライジング・息子サンにならなくて一件落着。おそらくここからライジングどころか賢者タイム迎えるからな、展開的には。


 ──ほら、相原・ヘンタイ・聡美さんの逆襲が始まった。


「なに言ってんのよ、この淫乱ビッチエロ女! どこの誰だっつーの、入学式の日に『同じ学年の男子皆兄弟計画』を自慢げに披露してた、得意技がマウントポジションのラブホ専用グラップラーは!」


 ビュクッ。

 そして美々のターン!


「人のこと言えんの!? 『好きな男のために好きな男以外と行為できるなんてこんな天国どこにもないわー』とか言ってた快楽メス堕ちアヘ顔ダブルピースが得意技の女のくせに! 見た目は聖女のふりして、中身は精女か性女でしょ! 美術部での活動が校内しゃせいなんてお笑いじゃない!」


 ビュルルッ。


「うっさい!! 美々こそウチの高校創設以来たぐいまれなるビッチのくせに、『後ろのほうは、本当に好きな人に……』なんてオトメみたいな発言して似合わないったらないわ! 後ろだけ残しても前がどす黒くてガバガバのユルユルだったら誰が喜ぶっていうのよ!」


 プシャー。


「聡美みたいに『前は好きな人専用だから後ろでね♪』なんて言う常識知らずよりましよ! あんなとこ入れるところじゃなくて出すところでしょ!? おまけに知ってんだからね、その好きな相手に迫っても性行為してもらえないから、結局前も後ろも花びら大回転レベルで使い込んでること!」


 ビュッ、ビュッ、ビュッ。


 ビチキュアが仲間割れして精子をかけた戦いをしているようにも映る展開に、二の句も継げない親三人と俺。

 ああ、ちなみにオノマトペは本格的に表現するとエロすぎるので、俺の独断でマイルドに差し替えている。こうすれば修羅場がギャグになることうけあい。


 つーかさ、なんでビチキュアどもは、クリーミーポーションしか投げつけないの? 脇にコーヒーとか砂糖とかあるじゃん。

 ひょっとすると、武器がそれなのがビチキュアとしての矜持なのかもしれん。ふむ、精子の大きさくらいは見直してあげよう。


「はいはい、身体と同じくらい汚い言葉での罵り合いはやめやめ」


 ビチキュアの矜持に敬意を表し、装って穏やかに止めに入ることにした。

 あとついでに言うなら、ここ、一応築一年未満の家だからな。これ以上汚い言葉で汚すなって。


「あのさ、肉食どころじゃなく悪食あくじき女子同士の汚い争いなんて見たくないんだよ俺たちは。取っ組み合い始める前に頼むから離れて、1マンコーネンくらい」


「銀河の歴史にまた1ページ……」


「オヤジは黙っててくんない?」


 文章だからこそできるちょっとしたボケに、外野からわかってない見当違いのボケ重ねられると、ただただ俺がいたたまれないよ。


 ま、それはおいといて。

 このままふたりに言い争いさせても前向きな何かは生まれなさそうだから、俺が誘導しよう。十月十日後くらいなら、こいつらに父親不明の赤ちゃんが産まれてる可能性はあるにしても。


「……とにかく、謝罪しに来たのに、こんないい争いしてても何の意味もないし。ふたりともやったことを反省してんの? 責任なすりつけあってるだけじゃん」


 せめて汚い女同士でこすりつけるならば許す。貝合わせブラボー。


「あとガバガバのユルユル美々、自分のハレンチ行為を棚上げしといて、なーにが『後ろは本当に好きな人に……』だ。そんなことされて本当に好きな人が喜ぶと思ってんのか? 逆にこれ以上なくどん引きするわ」


「……」


「次に相原・ヘンタイ・聡美さん、さっき『好きな相手に性行為してもらえない』って聞いたけどさ、その相手、相原さんが乱交してるの知ってるの? 知ってるなら、これ以上なく汚い女だって思われてるからしてもらえないんじゃねえの?」


「……」


 ビチキュアどもよ、口があるならちゃんと言葉で答えろ。その口は何のためにあるんだ。アレを咥えるためだけか。下の口でしか正直に話せないのか。


「聞こえてる? ガバガバユルユルの美々に、相原・ランコウ・聡美さん? ……って響きがいまいちだな。あいはらんこー・聡美さんにしよっか」


「見たことも入れたこともないのにガバガバユルユル扱いしないで!!」


「好き勝手に他人の名前にミドルネーム付けるのやめてくれない!? アンタ、わたしをただ罵倒したいだけでしょ!?」


「やっとしゃぶりやがったか」


 間違った、やっとしゃべりやがったか。

 骨が折れるわ。骨がない分、中折れのほうがよっぽどましだ。こいつら相手では勃つことすらない可能性はどっかに置いとく。


 ──さて、気になることを質問させていただくとしよう。

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