ふたりはビチキュア Max Ero

 そのあとすぐ、美々が風呂から上がってきた。バスタオル一枚の姿だった。

 なんだこいつ、今までは絶対に俺の目の前でそんな姿のまま現れなかったくせに。


「美々、おまえそんなカッコで突っ立ってんな。早く着替えろ」


「卓也……」


 美々はいつもとはうってかわって、しおらしく俺の名を呼んだ。

 だが勘違いしてもらっては困る。その姿のままだと俺の気がエロになるから着替えろと言っているのではない。


「おまえの汚い身体を早く隠せよ。不特定多数の男どもにまさぐられた汚い身体なんか目にしたくない。エッチスケベマイペットでも使ってきれいにしろ、その汚れを」


 今回はしょっぱなに花王の洗剤推しと相成った。ちなみにステマでもないしお金もいただいてないから誤解しないでくれ。


「ま、どうあがいても落とせないけどな」


「あ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁぁ……ああぁぁぁぁ……」


「うざいなその泣き方。なんだおまえ、俺の目にバッチリ焼き付いてんだぞ。道路に出て車に轢かれたカエルみたいな恰好で脚広げてたじゃねえか。あ、車じゃなくて男に押しつぶされてあんな恰好だったんだっけ。どうせ泣くならカエルみたいに鳴けよほら」


「げろっ、げろっ、げろげろげろげろ、くわっくわっくわっ……」


 美々、実はお前そんなに反省してないだろ。殴るぞ。


「……こう泣いたら、卓也はあたしを許してくれる……?」


「あ、こいつやっぱバカだ。おまえみたいなエロガエル、ケツからストローで空気吹き込まれて内臓破裂であの世に逝け」


「……お尻は……許してない……」


「誰も得しないような聞きたくもなかった情報をしれっと暴露すんな!!!」


 気づけよ美々、オヤジと義母さんの絶望にまみれた顔に。おまえが精液にまみれた結果なんだぞ。深刻さをちったあ理解してんのか。チ○コクサ、みたいにホーケイ野郎の悩みどころじゃねえからな。


 何度目かわからないため息を俺が深くついた後。


 チーンポーン♪


 我が家のチャイムが鳴った。

 おい誰だこのチャイム音設定した奴、今の状況じゃ笑うに笑えない。ちょっと全裸で謝罪に来い、おまえのソレが俺をうならせることができたら許すから。


 ……同じメーカーのチャイムなら、マーンコーン♪ みたいな音もあるのだろうか。そっちのほうが人気あるんだろうな、テレビで流せないけど。放映のため偽装するなら、『スキン一万個!』とかにしないと。


 ガチャ。


 そんなくだらないことを俺の現実逃避したい脳みそが長々と考えてたせいで、こっちが許可を出す前に訪問者が扉を開けてきた。鍵かけるの忘れてたし。


 驚きまで五秒前、なんてわくわく感とともに、唯一動ける俺が仕方なく出迎えに行くと、やってきたのは二名。

 そして気づく。あっと驚く訪問者が、母親らしき人間の後ろに立っていた。


 そう、もちろんそれは──俺が告白して玉砕した相手で、俺が坂本先生と屋上に行ったときに屋上で欲情してて、全裸のままどっかの知らないモブ男に尻掴まれ、大事なところから白い何かを垂れ流していた相原さんだ。

 詳しく描写すると神様仏様UNEI様に怒られるから省略するけど、アレ、本当に衝撃だからな。


「相原さん、これ以上ないほどの辛辣な言葉で俺の告白を断ってくれてありがとうね」


 社交辞令などぶっ飛ばして、俺は開口一番、相原さんにそう言った。

 案の定、相原さんはおろか、母親すらも覇気のないまま固まっている。

 なんだか本当に、俺が会う人会う人全員いろいろと固まりすぎだろ。俺は寒天かそれともゼラチンか。


「……なん、で……?」


 とか思ってたら、しゃべったぁぁぁ! 相原さん、あんたもけっこう図太いね。


「いやさ、だって俺がもし告白を受け入れてもらって、相原さんと恋人同士になってたとしたらさ、間違いなく自殺してたもん。今回の件で」


 どうぞ、と家主が言わないのに勝手に他人の家のドアを開けてくるような奴らには、こんくらい嫌味言っていいだろ。いくらそこまで気が回らないほどに動揺するような事件があったとしても、だ。


 母子ともども、顔がさらに青白くなった。俺の先制パンチにびっくりしたよう……


 ……あ、違う。俺様ったら、先ほど洗濯機から抜いてきた、せーしで汚れた美々のぱんつをいまだ右手に握りしめてたわ。これじゃ先制パンチじゃなくて先制ぱんつだ。ばっちいからそこら辺に投げ捨てておこうっと。ぽーい。


 ま、いくら俺が美々のぱんつを握りしめていようと、変態呼ばわりされることはないだろう。なんせ相原さんはそんじょそこらの変態とはレベルが違う。

 俺はまだまだ上り始めたばかりだからな、この果てしなく遠い変態坂をよ。そして相原さんのほうは変態チートで無双できるくらいだし、一緒にしないでくれたまえ、くれぐれも。


 ちょっとすっきりしたので。


「どのような件でウチに来たのか、想像はついてます。というかそれしかないだろうし。玄関で話すのもなんだから、中へどうぞ」


 俺は一応、さらなる激しい戦闘が巻き起こるであろう予感とともに、相原さん母子を迎え入れることにした。


 これで我が家に、ビッチでキュートなふたりがそろったわけだ。キュートだと認めざるを得ないのが悔しいが。

 ま、いっか。今度からこいつらをビチキュアと呼んでやるよ、喜べ。



 ―・―・―・―・―・―・―



 というわけで、お互いの親、フィーチャリングビチキュアで始まった対談は、いきなりの衝撃的な謝罪で膜を破った。間違えた、幕を開けた。

 こいつらに破るような膜はすでにない。


「……この度は、ウチのバカ娘が……美々さんを誘って、とんでもないことをしでかしてしまい……誠に申し訳ありませんでした」


 膜破れて山河あり。相原母娘の土下座の山ができたーよー!


 なんとまあしかし。

 俺は根拠なく、美々が相原さんを誘って乱痴気に巻き込んだのかと思っていたが、真実はそうじゃなく逆だったんか。

 相原さん母娘は土下座の姿勢から顔を上げようともしない。ウチの両親もなんも言えないだろう。詳しく説明してほしいとこではあるけど。


「バカなんてかわいいレベルじゃないでしょ?」


 巻き込まれ側としては説明前に文句くらいつけたくもなるっつの。

 こいつらがビチキュアならば俺はジャアクキング側かもしれんが、どう見てもこっちが正義だよな。


「……この度は、ウチのバカでビッチでヤリマンで恥知らずで公衆便所で肉便器でド変態で貞操観念の欠片もない超弩級天文学的バカな娘が……美々さんを誘って、とんでもないことをしでかしてしまい……」


「いや、いちいち言い直さなくていいですけどね」


 ファンキーな母ちゃんだなオイ。ちょっとだけ和んだぞ。

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